087.致命傷
「マックス! アリエス! やったじゃねぇか!」
奇襲に成功したマックスとアリエスをパトルは手放しで褒める。
『うん! ちゃんとナナって人を助けて来たよ! でも戻ってきたらもう戦っているからびっくりしたよ!』
「うむ、窮地に陥っているのは分かっていたが、割り込む隙を見つけるのに苦労したぞ」
「絶妙なタイミングです。良く私たちがピンチなのを我慢したです」
確かに、アリエスとしては直ぐにでも参戦したかっただろう。
それを我慢して、マックスと供に致命的な一撃を邪神に食らわせるタイミングを見計らっていたんだ。
モコの言う通り、絶妙なタイミングだ。
邪神もすっかり油断して、マックスとアリエスの一撃をまともに喰らったんだから。
ただ、僕としては素直には喜べない。
火柱の中で悶えていると思われる邪神の体は、ヴァリアブル王子様の体なのだから。
そして僕だけではなく、エーデ師匠たち3人も表情は優れない。
「ヴォル、油断しない事ねぇ。まだ邪神を倒したわけじゃないからぁ」
え? あの火柱の中で邪神がまだ生きているの!?
火柱が収まると、そこには黒焦げになった邪神が蹲っている。
そして僕の心配を余所に、邪神はまだ生きていた。
「ごほっ、やってくれたのぅ。じゃが妾を殺すのには、後1歩足りなかったようだの」
……あれ? さっきまで黒焦げで身動きすら出来ないんじゃないかと思っていた邪神が、見る見るうち逆再生するかのように火傷が消え、張りのある肌へと戻っていく。
「あれで死なねぇとは、化け物かよ」
「妾は神ぞ。化け物などと一緒にするではない」
ジョーカーおじさんの批判もどこ吹く風で、寧ろ邪神は自分の神性さを強調する。
そうこうしているうちに、邪神は【ファイヤーボール】を喰らう前の姿へと戻った。
マックスに食い千切られた右腕は勿論の事、何故か焼かれたはずの服までも再生している。
「なるほど、不死神の名は伊達ではないと言う事ですね。生半可な攻撃は通じないと」
「今更怖気づいたか? 妾に忠誠を誓うなら、今ならまだ許してやらんこともないぞ?」
『風雷姫』の言葉に、今更ながらに思い出す。
そうだ、そう言えば邪神の名は不死神Sunringだったけ。
本当に不死身――って事はないだろうけど、そう簡単には死なないって事か。
「だったら、死ぬまで殺してやるよ」
「邪神に従うなんてあり得ないです。そんなことをするくらいなら、最後まで諦めずに戦い抜くです」
「吾輩の力をあれが限界と決めつけるのは心外だな」
邪神の不死性を見ても諦めないボクの仲間たちは凄いな。
勿論、僕も諦めるつもりはない。
寧ろ、どれだけ攻撃しても、ヴァリアブル王子様の体はある程度保証されるから心配はなくなったくらいだ。
「そうだね。この世界にあんたの居場所は無いよ。とっとと底辺に帰った方がいいよ、負け犬神様」
「ほぅ……、そうか。余程死にたいらしいな。いいじゃろう。それ程の覚悟なら妾のこの一撃をもって葬ってやろう」
さっきまでの緩やかな雰囲気が一変、僅かな怒りを滲ませながら目を細めて僕を睨め付ける邪神。
「……坊主、煽るのは構わないが、相手を見てからの方がいいと思うぞ?」
ジョーカーおじさんの忠告に、どうやら僕は邪神の逆鱗に触れる何かを言ったみたいだ。
再び攻撃を再開しようとする邪神に僕たちは身構える。
「神の一撃を喰らってあの世で後悔しろ」
邪神が放ったのは、一番最初の攻撃と同じく槍による螺旋突きの技だ。
ただ、その一撃はより鋭くより早く、より威力のあるものだった。
同じ回転技と言う事で、最初と同じく体を【回転】させながら、また同時に剣を【回転】させながらいなして凌ごうとしたんだけど……
ボヒュッ!
「―――っ!?!?」
気が付けば、僕は宙に舞っていた。
邪神の一撃は、僕の剣を弾き、左わき腹を抉り、槍の周囲を巻き込んで、引きちぎる。
そしてその攻撃の余波は、僕の居た空間を吹き飛ばすほどのものだった。
「がはっ!」
地面に叩きつけられて、僕は血反吐をまき散らす。
それだけじゃない。
わき腹なんて可愛く言ったけど、実際には体が上下に千切れそうなまでに削り取られていた。
正直、まだ体が繋がっているのが不思議なくらいだ。
左腕も、完全に引き千切られ二の腕から先は無くなっている。
ただの槍の突きがなんて威力だ。
あまりのダメージに、僕は意識が朦朧としてきた。
「ヴォル!」
「ヴォルさん!」
パトルは顔を真っ青にさせながら慌てて駆け寄ってくる。
モコも、直ぐに僕の傍に来て【治癒魔法】を掛けてくれる、が。
「モコ! 早く治せ!」
「やってるです! だけど……!」
「なんだよっ!? このままじゃヴォルが死んじゃうぞ!」
「傷か深すぎるんです! 回復が追いつかないです! このままじゃ傷が塞がらないのと、出血多量で……!」
「じゃあどうするんだよ!? お前しか【治癒魔法】を使えないんだぞ!?」
「汝モコよ、大量の魔力があればどうだ?」
「……っ! それなら何とかなるかもです。力技になりますが、大量の魔力で血液の代行、傷口を押しとどめ続けることが出来るです」
「そうか、なら敵対者邪神の祭壇を利用させてもらおう」
「なるほど、です! 確かにあの祭壇なら魔力が溢れているです!」
「よく分からねぇが、ヴォルは助かるんだな!? あの祭壇があれば!」
『わふっ! ヴォルを僕の背中に乗せて。あそこまで連れてってあげるよ!』
遠くでみんなが何か言っているけど、良く聞こえない。
「ヴォルを頼むわよぉ。邪神はわたくしたちが抑えるからぁ」
「坊主、死ぬんじゃねぇぞ! ったく、十年前と違って随分と大人げないじゃねぇか、ええ、邪神さんよ」
「私たちを彼と同じように出来るとは思わない事です。貴方の攻撃は、見ましたから」
エーデ師匠たちが邪神と戦っているのが遠くの出来事の様に感じる。
「貴様らも、そこの小僧と同じような目に合わせてやろうぞ。覚悟するがいい」
凶暴な笑みを浮かべる邪神は、意識が朦朧としている僕にも印象的だった。
ああ、ダメだ。エーデ師匠、逃げて。
一撃を喰らった僕だから分かる。
この邪神は普通とは違う。
邪神の普通って何だって話になるけど、普通じゃない。
何か異質なものを感じるんだ。
だけど僕はそれを言葉にすることが出来ない。
何故なら、僕の意識はそこで失ってしまったから。




