084.邪神顕現
「ふむ、今度の体は男か。まぁよい。女子の繊細さは無いが、男の力強さは魅力的だな」
ヴァリアブル王子様が、不敵に笑いながら己の体を確かめる様にこぶしを握る。
「はっ、この度の生贄の御子は男だった故に」
「よい。責めている訳ではない。神のスキルを持つ者はそう簡単には現れぬ故、仕方ない事だ」
「ありがたき」
儀式を行使していた邪教信者の術師が、ヴァリアブル王子様の前に跪いて首を垂れる。
あれは……ヴァリアブル王子様なんだけど、ヴァリアブル王子様じゃない。
「ふふふ、どうやら形勢逆転のようですね」
邪神が復活したことにより、余裕が生まれたキュウベエは完全に警戒を解かないものの、剣を降ろし僕たちを見て言う。
「ちょっとぉ、どうするのぉ? 全然間に合ってないんだけどぉ」
「ですね。おい魔族、お前ワザと間に合わないタイミングで私たちを連れて来たのか?」
エーデ師匠と『風雷姫』がジョーカーおじさんを責める。
「ボクにそんなことする意味がある? と言うか、時空移動は思ったタイミング通りには出来ないんだよ。どうあっても僅かにずれが生じるんだ」
まぁ、ジョーカーおじさんがエーデ師匠たちを連れてきてくれただけでも有難いんだけどね。
とは言え、今はそんなことを言っている場合じゃない。
「生贄って、てっきりその命を捧げて儀式を完成させるものばかりだと思っていたけど」
「ああ、邪神復活の儀式に使われる生贄ってのは、邪神をその身に宿す依り代の事を指すんだよ。つまり……」
「あの王子様の体を邪神が使っているって事か?」
「そう言う事だな」
それまで良く分かってなかったんだろう。
パトルはジョーカーおじさんの説明で納得いった表情をする。
「元に戻る方法はあるの?」
「……あることにはある。ようは依り代の体から邪神を引っぺがせばいいんだよ。今はまだ邪神と依り代が定着していないから剝がすのは簡単だ」
何か知ってそうなジョーカーおじさんに、僕は解決策を聞いたら、思ったよりも分かりやすい答えが返ってきた。
「それって、依り代の体を攻撃して弱らせるのよねぇ。そうすることで繋がりを弱めて邪神を追い返すんでしょぉ?」
「……そうだよ。あの依り代になった体は、坊主の知り合いなんだろ? 出来るのか?」
「それは……」
ジョーカーおじさんの問いに僕は言葉を詰まらせる。
確かに【治癒魔法】とかあるからヴァリアブル王子様の肉体的には問題はないかもしれない。
だけど、僕たちの精神的にも躊躇いや後ろめたさが生じるのが問題だ。
「そうよねぇ。それでジョーカーも10年前の邪神戦争では苦しんだのよねぇ」
「ああ、今でもあいつはリハビリに苦しんでいるよ。ったく、二度とこんなことは起きないように目を見張らせていたんだがな。とは言っても、邪神が復活した後では後の祭りか」
え? ジョーカーおじさんって、10年前の邪神戦争に参加していたの!?
なんか雰囲気から察するに、戦争の中枢で戦ってみたいな感じだ。
「これ以上無駄話をしている時間はないようですよ」
『風雷姫』が注意を促すと、その視線の先にはヴァリアブル王子様の体を操る邪神が悠然とこちらへと向かって来てた。
「お主がこの度の主導者か。よくぞ妾を蘇らせた。褒めて遣わす」
「はっ、勿体ないお言葉」
キュウベエは跪き首を垂れて、邪神への忠誠を示す。
「ほぅ……、以前にも見た顔よな。確か、ジョーカーとか言ったか? 前の時はしてやられたが、この度はそう簡単にいくとは思わぬことだ」
「10年経っても辛気臭い顔だな。そんなんだから引きこもり邪神なんて呼ばれるんだよ。と言うか、そのままずっと引きこもっていろ。お前が出てくると沢山の人に迷惑をかけるからな」
「引きこもり言うな! ……こほん、この世界は妾の"物"だ。何ゆえ"物"に情けを掛けなければならない? お主たちも妾に忠誠を誓うのなら、"人"として扱ってやろうではないか」
「はっ、お断りだね。ボクはボクの生きたいように生きる。指図は受けないね。特に似非神様の言う事にはね」
「そうか、ならば死んであの世で後悔してもらおうぞ」
邪神相手に物怖じせずにズバズバ言うジョーカーおじさんに、怒ったのか、言う事を聞かない"物"を排除しようとしたのか、邪神は右腕を振り上げそのまま薙ぎ払うように横に振るう。
その瞬間、突風が吹き荒れ僕たちを襲う。
「ちっ、坊主! 覚悟を決めろ! 優先すべきは邪神の排除! 依り代は二の次だ!」
……そうか。邪神は依り代をもってこの世界に顕現している。
その依り代が無くなれば、邪神はこの世界にとどまっていられないんだ。
けど、それはつまり、依り代であるヴァリアブル王子様の死を意味する。
ジョーカーおじさんはその覚悟を決めろと言っているんだ。
時間が経てば経つほど邪神と依り代の繋がりが強固となり、邪神の震える力も増大するから倒すなら今しかないんだ。
逆に、それは今らなまだヴァリアブル王子様を助けることが出来る事でもある。
ジョーカーおじさんは依り代であるヴァリアブル王子様は二の次だって言ったけど、自身も10年前に同じような事があったことから心情的にも助け出したい方だと思う。
うん、ありがとうジョーカーおじさん。
「パトル! モコ! ヴァリアブル王子様を助け出そう! 大丈夫! 僕たちになら出来るさ!」
「ああ! ヴォルの兄貴を助け出して堂々ロクウェルとか言う女貴族の元へ宣戦布告しに行くぜ!」
「パトルさん、殿下はヴォルさんのお兄さんじゃないですよ? それと、ヴォルさん。かなり無茶を言っているって分かってますです? でも何の根拠もないですが、ヴォルさんが言うと不思議と自信が湧いてくるです」




