082.共闘
魔族を目の敵にしているS級冒険者『風雷姫』ことイチカ・ファーストクラス。
エーデ師匠を狙い襲いかかってきたんだけど、逆にエーデ師匠が未完成の時空波紋を起こす魔道具を使い、『風雷姫』を巻き込んで時空の彼方に消えてしまったのはまだ記憶に新しい。
『風雷姫』の厄介なところは何かと言えば、極度の魔族嫌いと言う事だろう。
魔族と言うだけでそれまでの丁寧な態度が一変して、冷酷になるとなれば尚の事。
しかも魔族だけでなく、魔族に関わった者にまで及ぶともなれば度が過ぎるくらいだ。
そんな『風雷姫』をジョーカーおじさんはエーデ師匠と一緒に連れて来たのだ。
時空の彼方に消え去ってしまったエーデ師匠を探し出して連れ戻してくれたのはグッジョブだけど。
これは下手をすれば僕たちVS邪教信者VS『風雷姫』の三つ巴になるのか、と思ったんだけど……
「今度の相手は邪教信者ですってねぇ。相変わらずねぇ、ヴォルはぁ」
「確かエーデの弟子でしたわね。安心してください、相手が誰であれ私たちが来たからには問題はありません」
「……へ?」
『風雷姫』がエーデ師匠の事を「エーデ」って。
よく見れば、『風雷姫』のエーデ師匠を見る目は、前の魔族を憎む目じゃなく、それこそ友人を相手をしている目だ。
え? え? え?
ちょっと待って。
時空波紋に吸い込まれた後に一体2人に何があったの!?
「状況は事前に伝えていた通りだ。相手は邪教信者。人数は首謀者の貴族1人に儀式の護衛に4人。儀式は3人。スキルは使用不能状態だ」
「ふぅ~ん……、スキル封じが厄介ねぇ」
「お前が遅かったからこの状況に陥ったんじゃないのか? これだから魔族は」
ジョーカーおじさんはエーデ師匠たちに状況を説明するも、エーデ師匠は分かっているのか分かっていないのか、相変わらずのんびりした態度だ。
逆に『風雷姫』はジョーカーおじさんにはいつもの魔族嫌いの態度を示す。
とは言え、襲いかかるほどではないみたい。
本当に一体『風雷姫』に一体何があったのか。
「そうねぇ、わたくしとイチカ、ジョーカーは邪教騎士の3人を相手するわぁ。邪教信者と首謀者の貴族はヴォル達で相手するのよぉ」
「あ、はい!」
僕は思わず返事をするけど、エーデ師匠たちは僕の返事を待たずにそれぞれの邪教騎士に向かって行く。
そうだ。今は2人の関係を疑問に思うよりも、一刻も早くヴァリアブル王子様を助けないと。
僕はモコの相手をしている邪教信者のエニアドへと向かって行く。
その途中でパトルはこちらに合流しながらも、目まぐるしく変わる状況の変化に思わず声を上げていた。
「ヴォル、あの魔族の男は何者だ!? なんかヴォルの知り合いみたいだけど」
ああ、そう言えばパトルたちはジョーカーおじさんとは初対面だったっけ。
「大丈夫! エーデ師匠の友人だよ。ジョーカーおじさんもかつては魔王軍に居たらしいけど、今は世間から離れて田舎暮らしをしているから」
「うわっ、一番信用ならなぇ経歴だな! だが今はそんなことを言っている場合じゃないか!」
パトルはスキル封じで2つの魔剣の扱いに精彩を欠いていたけど、魔剣の能力はそれを補うほどの能力だ。
メインをパトルを中心にして、僕とモコがサポートって言ったところかな?
そう言えば、エーデ師匠たちはどうするんだろう?
エーデ師匠はスキル無しでも鞭を使えるし、ジョーカーおじさんも時空波紋と言う裏技もある。
『風雷姫』は2つの祝福を受けし者で【風魔法】と【雷魔法】の2つの魔法スキルを使えるけど、今は【千載一遇】のスキル封じで全くスキルが使えない状態だ。
『風雷姫』の代名詞とも言える【風魔法】と【雷魔法】のスキルが使えない状態でどうするのかと見てみると、そこには僕が心配するのも烏滸がましい展開が繰り広げられていた。
「剣姫一刀流亜流・三斬華!」
「あら、珍しい剣術の流派ですね。ですが私には通じませんよ。例えスキルが使えなくても、戦うすべは有ります。伊達にS級冒険者を名乗ってませんので」
邪教騎士のクーロンが聞いた事が無い流派の剣術を放つけど、『風雷姫』はアイテムポーチから取り出したレイピアでクーロンの剣を捌ききる。
逆にカウンターで鎧の隙間を狙い三連突きを放つほどだ。
えええ~~~~~~っ!?
術師の動きじゃないよ!?
前に僕たちと戦った時とまるで違うし。
あんな動きも出来るんだ。
……ぅん? いや、よく見れば魔力を纏っている?
あっ! あれは魔力纏装だ!?
魔力纏装は、その魔力を体や武器に纏わせ威力や防御力、そして身体能力を高める技術だ。
だけど魔力纏装は魔族のある一族の秘術のはず。
僕は奥の手の1つとしてエーデ師匠に教えてもらったけど、なんで人族である『風雷姫』が使えるの!?
あ、前に戦った時は魔力纏装の事を知ってたから使えても不思議じゃないけど。
でも確かに魔力纏装ならスキルじゃないから【千載一遇】の効果は受けないので、状況には合っている。
よく見ればエーデ師匠も魔力纏装を使用しながら鞭を振るっている。
「あらぁ? なんでヴォルは魔力纏装を使わないのかしらぁ? 相手を舐めているのか、それとも自分の実力も把握していないのかしらぁ? これはまだ一人前と認めるのは早かったかしらぁ」
エーデ師匠に言われてそうだったと思い出す。
なんで僕は出し惜しみをしているんだ?
こういう時こそ魔力纏装の出番じゃんか。
うん、さっきまでの【回転】スキルが使えずチグハグだった動きを補って、スムーズな剣を振るう。
「ヴォル! お前はキュウベエをやれ! ここはあたし達に任せな!」
その動きを見たパトルは、僕をキュウベエの元へと向かえと言う。
キュウベエは相変わらず戦いの場から一歩引いた一から指揮を取っている。
そんな見下したキュウベエにムカついたのはあるんだろうけど、状況によっては逃げられる位置にいることを危惧しての事だ。
まさか儀式を始めてしまっているこの状況でキュウベエが逃げるだなんてあり得ないはずだけど、ゼロとは言えないのは確かだ。
こういう時のパトルの勘は当てになるから、僕は頷いてキュウベエの元へと向かう。
キュウベエはうすら笑いを浮かべながら僕を迎え撃つ。




