081.波紋使い
スキルを無効化するスキル。
スキルで生きていると言っても過言ではないこの世界では、スキルが使えないと生活面では死活問題にかかわる。
勿論、それは戦闘にも言える事だ。
「モコ! 大丈夫!?」
モコに襲い掛かる2人の邪教騎士を、僕は割り込むようにして剣で押し返す。
【ものまね師】が使えなくなったモコは、今はただの普通の冒険者の実力しかない。
流石に2人同時に相手するのは無理だ。
「助かったです。けど、状況は最悪です」
ヴァリアブル王子様を助けるつもりで忍び込んだ祭壇場だったけど、助けるどころかキュウベエに誘い込まれ、逆にピンチに陥ってしまっている。
「どうしました? ヴァリアブル殿下を助けに来たんでしょう? このままもたもたしていると儀式は終わってしまいますよ」
そんな僕の心情を察してか、挑発してくるキュウベエ。
そんな動揺する隙を突いて再び襲いかかってくる邪教騎士。
ジャリンッ!
そのうちの1人の邪教騎士の剣に蛇のような剣が絡みつく。
パトルの大蛇剣・蟒蛇の蛇腹剣だ。
「おらぁぁぁっ!」
その蛇腹剣を戻す勢いを利用して、パトルが僕たちの元へ飛び込んでくる。
「焼き喰らえ! 炎武帝!」
魔剣・炎武帝を振るい、近づこうとした邪教騎士を炎で押し返す。
「状況は!?」
「キュウベエのスキルを無効化するスキルが展開されていた。モコのスキルも無効化されていて僕たちの接近は気付かれていたんだ」
「……! 道理で、大剣を振るう動作に違和感がある訳だ」
それでも何気なく2本のグレートソードを振るうパトルは凄いよ。
スキルに頼らなくてもグレートソードを振るえるように、普段から真面目に鍛えているからだと思う。
アリエスは最初の偵察していた位置から動いていない。
と言うより一度は後方から魔法攻撃を行ったけど、【千載一遇】のエリアに入った魔法はかき消されてしまう。
それを見たアリエスは後方で待機していた。
うん、賢明な判断だ。
代わりと言うか、それでパトルが大蛇剣・蟒蛇を使って参戦したと。
「ヴォル、どうする?」
指示を請うパトルに僕は頭を悩ませる。
直ぐにでもヴァリアブル王子様を救出したいところだけど、スキルの使えない今、このまま戦闘を継続させるのは難しい。
ここは悔しいけど一旦引くべきだ。
だけど僕がそう判断する前に、キュウベエは畳みかける。
「クーロン、ノウェムの2人はそこのハーフドワーフの娘を抑え込みなさい。ノネットは黒髪の少年を。エニアドは一番厄介なピンク髪の女性を始末しなさい。その後でエニアドは黒髪の少年をノネットと一緒に止めを」
2人の邪教騎士がパトルに襲いかかる。
だけど決して無理はせずに上手く動きを抑え込んで僕たちに手助けに来れないようにする。
モコにも邪教信者が襲い掛かり、僕にも1人邪教騎士が向かってくる。
くそっ、【千載一遇】を考慮した戦闘を想定しているからか、このノネットと言う邪教騎士の動きはスキルの使用を前提とした動きじゃない。
そこにやり辛さを感じる。
……ううん、違う。
ただ単純に地力が違うんだ。
鎧の上からでも分かるぺったんこな胸の癖に、途轍もなく強い。
「貴様、今どこ見た!? 殺す!!」
僕の一瞬の視線に気が付いたノネットは、怒りを滲ませて襲いかかってきた。
あ、ちょとヤバいかも。
……ん? いや、かえって直情的になってやりやすくなった?
とは言え、僕たちは押し込まれているのは変わらない。
一番ヤバいのはモコだ。
向かっているのは邪教信者の術者だろうけど、彼女もまた【千載一遇】の元での戦闘訓練をしているはず。
モコは如意金剛・千変万化を上手く利用して、様々な武器に変化させてエニアドを翻弄しているけど、時間の問題だ。
って、あ!
エニアドの隠し持った短剣がモコの胸を突き刺そうとする。
「モコ!」
「やめろぉ!」
モコも間に合わないと思ったのか、覚悟を決めて目を瞑ってしまう。
だけどその凶刃はモコには届かなかった。
何故なら、モコの目の前には空間がたわわんでいたから。
時空波紋だ。
一瞬、マックスが戻ってきたのかと思ったけど、違った。
モコの隣には1人の魔族の男が立っていた。
但し変なポーズをして決め顔をしている。
「危なかったな、坊主。それにしても随分と探したぞ。ザースディーンの町に居ないかと思ったら、こんな辺境中の辺境で面白い事をしているじゃないか。ボクも混ぜてくれよ。パーティーの席はまだあるんだろう?」
「ジョーカーおじさん!」
「おじさんはやめてくれって言っただろう。こう見えてもボクはまだ若いんだぞ」
僕たちのピンチに駆けつけてくれたのは、エーデ師匠の友人のジョーカーおじさんだった。
ジョーカーおじさんは魔族の波紋一族らしく、その一族の中でも飛び切り優秀な波紋使いらしい。
波紋の究極系とも言える、時空波紋を起こすまで至ったと言う。
エーデ師匠とジョーカーおじさんはかつて魔王軍で共に戦った戦友らしく、戦線を離脱して東大陸で隠居していたエーデ師匠の元へたまに時空波紋で遊びに来ていた。
そんなジョーカーおじさんは、エーデ師匠の下で修業をしていた僕にも色々目を掛けてくれていた。
ここ最近は遊びに来なかったけど、まさかこのタイミングで来てくれるとは思わなかったよ。
けど、ジョーカーおじさんの参戦は非常に有難い。
「なぜ魔族がここに居る。どうやって来た。今この場はスキルは使用できないはず」
「ふむ? なるほど、この感じはスキル無効化か。ふふふ、残念だったな人族の若造。ボクの波紋はスキルなんかじゃない。れっきとした純粋なる技術! その努力で培った御業は何人たりとも止められはしない!」
そう言いながらジョーカーおじさんはモコを下がらせ両腕で2つの時空波紋を起こす。
「さぁ、坊主! 心強い仲間を連れて来たぞ!」
そうして2つの時空波紋から2人の人物が現れた。
僕はその2人を見て目を剥く。
「遅いわよぉ~。遅漏はこれだからダメなのよねぇ」
「遅い。まともに女性の扱いもできないのか?」
「2人とも酷い! ボクが迎えに行かなかったら戻ってこれなかったのに!」
現れた2人の女性は僕がよく知る人物だった。
「エーデ師匠! ……と『風雷姫』!?」




