077.教祖
「それじゃー、ここを暫く拠点にして東の祭壇を捜すよー」
僕たちがジル師匠の【テレポート】や、噂の邪神の村の様子に驚いていると、ジル師匠が今後の予定を話す。
「キュウベエが目指しているのは、ここじゃないって本当か?」
「そうだよー。ここの祭壇は私たちがもう10年も前に壊しちゃったからねー。村はもう邪神を祭ってはいないし、邪教信者は居ないからねー」
パトルの疑問に、ジル師匠が答えてくれるけど……
僕も俄かには信じがたいな。
密かにスパイを忍ばせているって事はないかな?
「なんだよ。俺たちの偉業が信じられねぇってのか?」
「なんです? 自慢ですか? 自惚れて足元を掬われていないです?」
初対面の印象が悪かったのか、オズがそのつもりはないだろうけど、自慢するような言葉にモコが食って掛かる。
「あのなぁ……、まーだ、巨乳の凄さが分かってないな。あいつ、どんなスキルでも使えるんだぜ? 再建したこの村に、邪教信者が入り込む余地はねぇよ」
「ですです。ジルベールさんのスキルは反則級なのなの。おかげで村の人たちからの信頼はピカイチなのなの」
そうなのだ。
僕たちが……と言うより、ジル師匠がこの村に付いた途端、村人からの歓迎が凄まじかった。
貢物の様に食べ物や装飾品を捧げようとするし、お年寄りなんかは拝んでたりするし。
僕たちの戸惑いを余所に、ジル師匠たちは村に馴染んでいて、東へ別の祭壇を捜すための準備を行う。
慌てて僕たちも付いて行く。
そんな僕たちの行動を嘲笑うかのように、村の中心で騒ぎが起こる。
「なんだぁ? おい、何があった?」
「あ、オズ様。きょ、教祖が出ました!」
オズが慌てて逃げようとする女の人を捕まえて、何があったのか問いただすと、教祖が出たという答えが返ってきた。
と言うか、教祖って……この場合、邪教の教祖って事だよね?
「あいつが来たのか!? やろう……、いい度胸じゃねぇか!」
オズは頭に血を上らせて村の中心へと走っていった。
「あー! 待ってよ、オズー。あーもうー、それじゃあまんまとジュウザの思うつぼじゃないのー」
「あの、ジル師匠? 教祖って……邪教の教祖って事だよね?」
「うんー、邪教教祖ジュウザ・テンスプレートって言って、もうかれこれ私たちとは10年もの腐れ縁だねー」
「邪神大戦で邪神の復活を目論んでいたのが教祖ジュウザなのなの。それを防いだのが神殿騎士団や私たち冒険者なんだけど、10年前は取り逃がしてしまったですです」
「奴は、あきらめが悪い」
「ですわね。邪神大戦の後も、何回か邪神の復活をしようとしたり、邪神の力を得ようと企んでいたりと、あたくし達とやりあっていますの」
ジル師匠やララクレット、フランチェスカ、まして寡黙そうなアベレージまでもが嫌悪を露わにしながら教祖ジュウザについて語る。
「でもちょっとおかしいです。何の脈絡もなく現れるなんて変なのです」
「タイミングもおかしいな。吾輩たちがこの村に付いた途端に、と言うのもな」
そう言えばそうだ。
モコとアリエスの言う通り、タイミングが合い過ぎている。
僕たちはオズを追いかけて、村の中心に辿り着く。
そこにはオズが忌々しそうに悠然とたたずむ老人を睨んでいた。
しわくちゃな顔に、真っ白な胸元まで伸びた髭。
ただ、お爺ちゃんにしては背がピンっと伸びて姿勢がいい。
杖を手にしているのは姿勢を正すと言うよりは、魔法的な意味合いがあるのかもしれない。
「おう、いい度胸だな。良く俺らの前に姿を現せたもんだぜ、このクソ教祖」
「ふむ、相変わらず口が悪いな、オズよ」
「オズー、落ち着いてー。そのジュウザは幻影よー」
え!? これが幻影!?
そこに本当に要る様にしか見えないんだけど。
「ちっ。ああ、分かっているよ。いきなりこの場に現れるなんておかしすぎるからな」
「それでー? わざわざ魔道具を使ってまで映像を届けているのはどうしたのー?」
「憎らしいほどに落ち着いているな、ジルベール。お前のその冷静さに何度煮え湯を飲まされたか」
「お褒めに預かり光栄だねー。でー? 用はなにー? 私たちはジュウザほど暇じゃないんだけどー?」
「それは、キュウベエが目指している祭壇を捜すため、か?」
っ!?
ジュウザのその言葉に僕たちは息を呑み、場に緊張が走る。
「そっかー、キュウベエはジュウザの差し金ねねー。キュウベエで私たちの目をそちらに向けて、目的は別にあるのねー」
「くくく、相変わらず読みが鋭いな。ジルベール、お前の事だ。私がこの場に現れたのが何のためか薄々感じているのではないか?」
「……」
ジュウザの言葉にジル師匠は沈黙で答える。
「そうだ。私の目的地はここだ。ここに在った祭壇を復元するためだ」
え? ここに在った祭壇ってジル師匠たちの話だと、完膚なきまで破壊されているよね?
「はっ! その祭壇なら10年前に跡形もなく、ぶっ壊しているぜ。魔脈もいじって魔力を集めれないようにしてもいる。とんだ無駄足を喰らったな」
「分かってないのはお前の方だ、オズ。キュウベエが向かう東の祭壇は、確かに魔脈の魔力が尤も集まる場所でもある。ならば、なぜそこを不死神Sunring様を祭る村にしなかった? 10年前、何故ここが不死神Sunringの復活の場となった?」
「邪神復活の儀式は、魔脈の魔力以外にも要素があったってことねー。それがここにはあると言う事だねー」
「分かっているではないか、ジルベールよ。流石だな。ならば私がこの後何をするか分かっているだろう。そうだ、この地を取り戻す。腑抜け共に10年預けてきたが、返してもらおう。邪魔をするなら力尽くでもな」
「宣戦布告って訳ですです?」
「子憎たらしいドワーフ、ララクレットよ。その通りだ。この10年、散々邪魔をされたが、私にはまだ万を超える戦力がある。その全てを以て、この地を奪わせてもらう」
「そうはさせませんわ。あたくし達を舐めてません? どれだけの戦力を揃えようが、あたくし達が退けて見せますわ」
「嘗ての生贄の巫女、フランチェスカか。ならば見せてもらおうではないか、お前らの力を」
「言われるまでもありませんわ。アベレージさん」
フランチェスカに促され、アベレージがいつの間にか取り出した剣をジュウザに向かって振り下ろす。
「これが俺たちの答えだ」
ジュウザの姿が斜めにずれたかと思うと、その姿が歪み、溶ける様に消える。
ジュウザが居たと思われる足元には小さな球状の物体があった。
今は真っ二つになっている。
おそらく、これがジュウザの幻影をこの場に映し出していた魔道具だろう。
「くくく、精々足掻くといい」
壊れかけた魔道具から、ジュウザの最後の言葉が聞こえた。




