074.『錬金』
「教えてもいいけど、当然対価を貰えるんですよね?」
冒険者にとって情報は命に係わることもある。
それをおいそれと超有名人だからってただで教えるわけにはいかない。
僕の挑発ともとれる発言に、オズさんがそれでこそ冒険者とニヤリと笑いながら答えてくれる。
「勿論だとも。相手が有名人だろうと、ただで情報を教える奴は冒険者失格だな。で、いくら欲しい?」
「いえ、お金は要りません。代わりに僕たちにも情報をください」
てっきりお金を要求されると思っていたオズさんは、僕の答えに意外そうな顔をする。
「……へぇ、いいぜ。俺が知っていることなら教えてやるぜ。あと畏まった言い方をしなくていい。いつもの口調で構わないぜ。名前も呼び捨てでいい。俺たちは冒険者だからな。尤も俺の本業は商人だがな」
ああ、確か『錬金』のオズは本当は商人だって話だ。
自ら商品を仕入れる為、また商品を安全に運ぶために冒険者になったって。
パーティーを組むようになってから冒険者家業の方が有名になって、終いにはS級まで上り詰めたのは本人にとってはおまけのような事だったりする。
「分かった。それじゃあ、ニコライの件についてだけど……」
僕はいつもの口調に戻し、ニコライが係わった邪教の件について話をする。
「ふーん……、なるほどな。魔女の森にも祭壇があったか」
「オズは邪教関係を追っているの?」
「ああ、何かと腐れ縁でな」
それじゃあ、キュウベエの件ももしかしたら知っているかもしれない。
思わぬところから情報を得られそうだ。
「俺たちは今は別件を追っていてニコライの件は掴んでなかったんだ。それがここに来て急に活動を始めたんで後手に回ってな。お前らのお陰で大事にならなかったのは幸いだな」
「S級パーティーが、後手に……? 信じられねぇ……」
「それだけ邪教信者共は油断ならねぇ相手だって事だ。十数年前に邪教をつぶしたと思ったんだが、残党がちらほらとあちこちで暗躍してな。しらみつぶしに探して叩き潰してもいくらでも湧いて出てきやがる。とてもじゃないが手が足りないぜ」
オズたちが後れを取ったことに驚きを隠せないパトル。
だけど、オズの話を聞いて納得した。
倒したと思ったらまだ残っていて、それが各地に散らばっているとなれば、簡単にはいかないだろう。
おまけに現在進行形で(主に貴族間で)信者が増えているようなものだし。
「俺の方が大体知れたからいいぜ。対価の情報は何が知りたい?」
と、丁度その時、タンジェさんがモコとアリエスを連れて来た。
「お、ドリルボーイのパーティーメンバーの猿真似と魔力お化けか」
「ちょっ!? なんです!? この口の悪い男は!? この人が本当にS級のオズなんです!?」
初対面のいきなりのあだ名に、モコが目を白黒させながら文句を言ってきた。
ああ、うん。
オズの口が悪いのは諦めた方がいいかも。
逆に、アリエスは落ち着いていた。
「まさかと思ったが、本当に商人オズだったとは。あの時は世話になった」
「あれ? 知り合い?」
「ああ、吾輩のこの魔道具を用意してもらったのが商人オズだ」
アリエスの魔道具の腕輪は、初級ながらも魔法を使う事が出来る優れモノだ。
そう簡単に用意できる代物のじゃない。
なるほどね。アリエスはオズからその腕輪魔道具を手に入れてたのか。
「どうだ? 役に立っているか? その魔道具は」
「お陰様でな。尤も手に入れたら手に入れたで、別の苦行が付いて回ったがな」
アリエスは最初は【極大魔力】のスキルを活かしきれなくて苦労してたけど、初級魔法が使える腕輪魔道具を手に入れたら、今度は逆に【極大魔力】で魔法をコントロールできなくて周りに迷惑をかけていたからね。
「だが、その苦行も解決したみたいじゃないか」
「仲間に恵まれたからな」
そう言いながら少し微笑むアリエス。
そんな僕たちのやり取りを面白く思わないモコが食って掛かる。
「それで! 私たちに何の用なんです!?」
さっきの猿真似呼ばわりが、余程機嫌を悪くしているんだな。
僕はオズがニコライの件について聞きに来たことを説明する。
対価として、キュウベエの事を聞こうとしたことも。
「そうです! ヴォルさん、こうしてはいられないです! キュウベエは僅かな手勢を連れて東へ向かったと情報があったです! そこにはかなり身なりの良い貴族も居たとかです。おそらくヴァリアブル殿下かと。今ならまだ追いつけるはずです」
モコが手に入れた情報も、キュウベエが邪教の本拠地だったみたい。
それを聞いたオズは、少し驚きながらも納得した表情をしていた。
「なるほどな。ドリルボーイが聞きたかった情報はキュウベエ・ナインスゲートだったって訳か。まさか奴がこうも急に動くとは。……いや、邪教騎士が下手をこいたことで動かざるを得なかったか? 何にしても、お前らも根倉貴族に関わっていたとはな」
「『も』って事は、オズ……もキュウベエを追っているのか?」
呼び捨てを許可されたものの、まだちょっと躊躇いがあるパトルがオズもキュウベエを狙っていたことに驚く。
「ああ、水面下で上手く隠れて動いていたが、俺たちは根倉貴族を追っていた。と言うか、今のお前らの話を聞くと、既に派手に動いているな。ちっ、ここに籠っていたせいで情報が遅れてしまったか。まぁいい。拠点に戻れば巨乳が最新の情報を仕入れているだろう。お前らも来い。どうせなら一緒に行動した方がいいだろう」
思いがけないS級パーティーからのお誘い。
……うん、恐れ多いけど、これ以上ない心強い仲間だね。
まぁ、若干1名は食って掛かっていたけど。
「そんなことより! 急いで私たちも東に向かうです! こんな不良冒険者を相手している暇はないです!」
「いいから来いよ。今から追いかけても間に合わねぇよ。と言うか、俺らと一緒の方がまず間違いなく追いつけるぜ」
有無を言わせぬ物言いに、僕たちは大人しく付いていくことになった。




