072.始まりの地
僕はシロップマシマシの激甘ブラック・ルシアンをちびちび飲んで待ち人を待つ。
前回と同様、グラスの半分を飲んだくらいで来た。
「待たせたな、ヴォルの旦那」
「先日ぶりだね、クロム」
僕が懇意にしている情報屋、クロム・ハート。
表向きは新興勢力の盗賊団、『鋼竜の晩餐』のメンバーだけど、その実態は西大陸のプラチナナイト帝国の裏組織『黒の機関』所属のエージェントだ。
「ヴォルの旦那の活躍は聞き及んでいるぜ。S級を狙っていたと思ったら、邪教信者と事を構え、極めつけは貴族となって婚約者まで出来て決闘をする活躍だ」
「耳が早いね」
ハチェットとの決闘はつい2・3日前の話だよ。
流石にこれには僕も驚いた。
「へへっ、ヴォルの旦那には期待しているんでね。ヴォルの旦那の行動は注目してるんでさ」
それって、売れる情報を期待しているって意味でもあるよね。
「それで、今回はどんな情報をお望みで?」
「邪神、邪教信者に関する情報だね」
「おや? ついこの間、邪教信者とやりあったばかりなのに、また、ですか?」
「決闘の話まで掴んでるんだ。どうせその決闘に邪教信者が絡んでいるのは知ってるんでしょ?」
「詳細までは知りませんぜ。決闘にチャチャを入れたのが邪教信者ってくらいで」
その情報を掴んでいるだけでも凄いんだけどね。
クロムの言う事が本当なら、ヴァリアブル王子様とナナ様が攫われたことは知らない、となるけど……
取り敢えず、キュウベエの行方を知っていないか聞いてみよう。
「この前、ニコライを捕まえたけど、それ以外の邪教信者で大きく動いている人物は居ない?」
「ふむ、俺が掴んでいる情報だと3人ほど居るな」
むむむ、3人も居るのか。
「その中で、邪神復活の儀式を行えそうなのは?」
「その条件だと、1人だな。キュウベエ・ナインスゲートって言うヴェルザンディ王国の貴族子息だな。これまでは大きく動くことはなかったので隠れて目立たなかったが、ここ最近痕跡を残すような動きを見せている」
ほら、やっぱり情報を掴んでいたよ。
「と言う事は、邪神復活の儀式に必要なものが揃っている?」
「揃えつつある、と言う事だな。ニコライの件でその情報を仕入れることが出来たから足取りが掴みやすかったぜ」
そう考えると、ニコライの事件は無駄じゃなかったと言う事だね。
あの時は牢屋に入れられたり、色んな人に忘れられたりと、結構酷い目にあったからね。
「すると、邪神像は既にキュウベエの手に渡っているって事か」
「骨董品やら貴重品やらの入手は貴族にはお手の物だからな。2週間ほど前に闇商人から仕入れたのは掴んでいるぜ。邪神への生贄は……」
敢えてその先は言わずにクロムは僕の方をチラリと見る。
「じゃあ後は祭壇だけど、これはそう簡単には用意は出来ないよね? そうなれば場所はほぼ決まっているようなものだけど……クロムはそこまで掴んでいる?」
邪神の復活をするための祭壇だ。
それなりの準備が必要になってくる。
魔力の流れによる地理的なものや、儀式を行うための魔力の循環をスムーズに行う魔法陣とかなどなど。
それは一日二日で用意できるようなものじゃない。
つまり、祭壇だけは数か月から年単位で準備が必要となる。
そうなれば、おのずと場所も絞られてくるし外部に動きも掴まれやすくなるはず。
そう思ってクロムに聞いてみたが……
「残念ながらその場所までは掴み切れなかったな。流石にその点は邪教信者も慎重に行っていたみたいで」
「そう……」
ちょっと期待していただけに、その答えに僕はガッカリする。
だけど、キュウベエの動きは掴んでいるかも、と聞こうとしたが、クロムは続きを話す。
「俺が知っている祭壇は2つだな。この前のニコライによって判明した魔女の森の奥が1つ。もう1つは――」
クロムの言葉に、僕は納得する。
それは確かに邪神復活の儀式に最適な場所でもある。
――始まりの地――
「つまり邪教信者の本拠地である、十数年前の邪教大戦の決戦場所だね」
神殿騎士やS級冒険者が邪教信者と争った事件。
とあるS級冒険者とそのパーティーが邪神を祭る村を発見し、そこから邪教信者との争いが発展した邪神大戦。
それは1年と短いようで長い戦争となった歴史に残る事件だ。
それ以降表立った事件はないけど、邪教信者は各地で、裏で、闇で、地下で活動をしている。
「邪教の本拠地での邪神復活。貴族としてプライドの高いキュウベエにしてみればこれ以上のない誉じゃないか?」
「キュウベエが向かった先としては確率は高い、と」
僕の言葉にクロムは頷く。
それと同時に1枚の地図を渡してくる。
邪教の村を示した地図だ。
この地図によると、僕たちが住むザースディーンの町の更に東、東大陸のやや北寄りの最東端を指している。
「むぅ……」
まさかこんなに遠い場所とは。
移動だけでかなりの日数がかかるのが予想される。
そこから逆算すると、キュウベエは既に向かっている可能性が高いな。
となれば、僕たちも直ぐに動かないと追いつけない。
「クロム、ありがとう」
「礼は要らないぜ。これはれっきとした仕事だからな。まぁ、他ならぬヴォルの旦那の依頼だから色は付けたけどな」
「それでもだよ。助かるよ」
僕はお礼を言ってクロムに少し多めの情報料を払って店を出る。
キュウベエに追いつくには直ぐに動いて追いかけないと言ったけど、まずはパトル達と合流して情報をすり合わせてからだ。
焦って手順を間違えればそれこそ時間のロスになるからね。




