064.問題への経緯
「あの貴族は、よりにもよってロクウェルに目を付けやがった。勿論ロクウェルにはヴォルと言う婚約者が居たから断り続けていたがな」
あれ? 居もしない婚約者を理由に断っていたの?
僕の疑問はまさしく悪手だったらしく、今回の件の問題に発展していったらしい。
ヴァリアブル王子様が深いため息とともに、今回に至った経緯を話す。
「だが、それがあの貴族のプライドを傷つけたみたいでな。当然、我が竜王国はヴォルを探していることを公表している。ロクウェルの婚約者がヴォルだと言うのは、少し調べれば分かることだ。だから居もしない婚約者を盾に断られたことが余程許せなかったんだろう。あの貴族はヴォルに決闘を申し込んできやがった」
「ヴァリア兄様、それは違いますですわ。あの人はそんなちっぽけなプライドよりも、ロクウェル義姉さまを手に入れる手段としてヴォル兄様に決闘を申し込んだんですわ」
貴族様の事だからプライドもあるんだろうけど、ヴィスクドール王女様の言葉にも真実味があるなぁ。
ヴァリアブル王子様の婚約者ナナ様を狙っていただけあって、女性を物としか見ていない可能性がある。
おそらくヴィスクドール王女様はそれを感じ取っているんだろう。
それはそれとして……
「あの……、居もしない人に決闘を申し込んできたんですか?」
「ああ、あの貴族の狙いはまさにそれだ」
「あの方は、私の婚約者が居るのであれば、決闘に出てこれるのだろう、と。これまでは、生きていると信じてヴォル様を婚約者としてきました。それを逆手に取ってきたのです」
「ロクウェルの婚約者を主張するのなら、それを証明して見ろとな。代理は認めず、必ず本人でなければならない。決闘に応じなければ、ヴォルの不戦敗と見なし、ロクウェルをもらい受けると」
ロクウェル様とヴァリアブル王子様が、貴族が決闘を申し込んできた理由を説明してくれる。
うん、確かに上手い手だなと思う。
こっちが婚約者を理由に断っていたら、その婚約者は書類上の存在だけだろうと指摘され、本当に居るんだったら目の前に連れてこいと。
確かにこれだけ聞けば、貴族同士での問題で、僕には全く関係ないんだけど。
「なぁ、それってあんた達の問題であって、ヴォルには関係なくね?」
相変わらず言葉遣いが乱暴なパトルな指摘に、僕も心の中で同意する。
「まぁ確かに、このままじゃロクウェルはヴォルの不戦敗により、あの貴族の物になってしまうだろうな。シクスセクス家が子孫繁栄の家だって聞いたか?」
ヴァルアブル王子様の問いに、僕たちは頷く。
「あの貴族の家は、お世辞にもまっとうな貴族とは言えないんだよ。そんな家にシクスセクス家の娘が嫁いでみろ。将来、あの貴族の領地が悪徳貴族で栄え、市井の民が悪政に苦しめられるのが確約されるようなものだ。同じ為政者として、それは許せないんだよ」
あの貴族って言うくらいだから、評判は良くないんだろうなとは思っていたけど、どうやら典型的な悪い方の貴族だったか。
「これまではシクスセクス家はそんな家に嫁がないように各家を精査して来たんだが、もし今回の件であの貴族の家に嫁ぐことになるようなことがあれば、これを機に今後も他の悪徳貴族に嫁ぐ可能性が出てくる。それは避けなければならない」
一つの悪徳貴族の家だけじゃなく、複数の悪徳貴族の家が栄える……
確かにそれは悪夢だね。
「あーもう、めんどくせぇ。だったら決闘に応じる必要はないと思うけど? 向こうが勝手に言ってきているだけだし。普通、決闘って本人に手袋を投げつけて申し込むものだろ?」
パトルは妙案とばかりに良い案を言ったと思っているようだけど、今からじゃそれはもうできないんだよね。
ヴァリアブル王子様も、パトルの得意げな顔を見ては苦笑して答えてくれる。
「確かに貴族同士の決闘には手袋を投げて、それを受け取ることで成立するが、今回の件はヴォルが居る事にして、あの貴族の申し出を退けていたことが原因で、決闘を断ることが出来なくなっているんだ」
「貴族同士の間でも、私がヴォル様の婚約者だと知れ渡っています。ただそれだけなら私が行方不明になっているヴォル様を慕う、一途な女性として美談で済んでいたのですが、今回の件でただの美談では済まなくなりました」
「散々ヴォルを盾に断っていたのに、決闘を受けないのかってな。もし決闘を断るようなことがあれば、俺たちは貴族としての信頼を失う事になる」
だよねぇ。
都合のいい時だけ婚約者が居て、都合が悪ければ出せませんなんて言えないよね。
そしてヴァリアブル王子様とロクウェル様の説明を聞いたパトルの一言。
「うわぁ、貴族って面倒くせぇ」
うん、僕もそう思う。
貴族でなくて良かったよ。
と、この時の僕はそう楽観視していたんだけど、ヴァリアブル王子様の思い付きの提案に、僕は子の指名依頼を受けたことを後悔することになる。




