063.ヴァリアブル
「これは、驚いたな。本当にそっくりだ。あ、いや、双子だから当たり前なのだが」
「……あの、双子じゃないです。でも、そっくりなのは驚きました」
目の前のヴァリアブル王子様は僕を見て驚愕していた。
僕も、そっくりな姿のヴァリアブル王子様に思わず言葉を失っていた。
確かに、これなら僕を行方不明になったヴォルテスク王子様と見間違っても仕方ないと思う。
後ろでは、パトルが驚いている気配が伝わってくるし、モコとアリエスも言葉が出ないようだった。
因みに、ヨンタナとサンドラ、ミッツの3人は臨時パーティーだったので、モノクローム様のお屋敷を出た後は分かれて今回のヴァリアブル王子様に会う事はしなかった。
別れ際には「何か困ったことがあったら連絡をくれ。ミッツを助けてくれた御礼をしたいからな」と言って、今後も交流を持つこととなった。
……今現在進行形で困ったことが起きてるんだけど、それはスルーなんですかね?
あの後、モノクローム様のお屋敷で一通りの事情を聞いた僕たちは、流石に人違いでしたで済む話ではなく、問題の解決に協力をお願いされて、東大陸の竜王国が管理する領地に赴くこととなった。
協力と言うか、強制と言うか。
冒険者ギルドを通しての指名依頼となったで、一応断ることは出来るけど、流石にこの状況で断る勇気は持てなかった。
パトルは平気でぞんざいな口をきいているけど、相手は貴族様だよ。
普通は逆らう事なんて出来ないよ。
僕は普通の平民だから。
そんなわけで、僕たちはザースディーンの町から馬車で5日程北西に進んだところのシクスティーンの町に、ヴィスクドール王女様とロクウェル様に連れられてやってきた。
この町の領主様は、件の行方不明の双子の兄、ヴァリアブル王子様だと言うので、町に着くなり早速面会となって、初対面の感想が先のセリフだ。
「いくら双子とは言え、育った環境により雰囲気、仕草、恰好などは違うくなるものだが、驚くほど似ているな、俺たちは」
「だから、双子じゃないです」
いくら双子じゃないって言っても聞かないよ、この貴族様たち。
「ヴァリア兄様……、ヴォル兄様はヴォル兄様じゃなかったですわ」
「私たちも、これほどヴァリアブル様に似ているのだから、そうだと確信していたのですが、どうやら違うみたいです」
明らかに気落ちしたヴィスクドール王女様とロクウェル様の言葉に、ヴァリアブル王子様は信じられないのか、再度確認してくる。
「本当に間違いないのか? ヴォルと別人なのは」
「はい。港町フォルスのAlice神教教会に確認を取りました。そこでヴォル様はお生まれになったのは間違いないとのことです」
いつの間に。
でも移動で5日もかかっているから、その間に連絡を取る手段はいくらでもあるか。
ましてや貴族様だ。
いざという時などの連絡手段は幾つも持っているのは貴族としての嗜みなのかも。
「そう、か。漸く弟が見つかったと思ったが、今回も違った訳か」
この人たちは10年以上も探しては期待して裏切られ、何度も同じ思いをしたんだろう。
しかも、今回は間違いないようなそっくり人物だっただけに、その反動は大きいと思われる。
ヴァリアブル王子様は、どかりとソファーに腰を下ろし深いため息をつく。
「ああ、スマンな。客人に立ちっぱなしにさせてしまって。まずは腰を下ろしてくつろいでくれ」
僕たちは恐る恐る対面のソファーに腰を下ろす。
まぁ、パトルだけは物怖じせずに堂々と座ったけど。
ヴィスクドール王女様とロクウェル様もヴァリアブル王子様の隣に腰を下ろす。
「あの、それで僕たちは何をすれば……? 冒険者ギルドでの指名依頼と言う事でヴァリアブル様に会う事にはなっていたのですが」
「……お前がヴォルなら問題は解決していたんだがな」
そう言いながら苦笑するヴァリアブル王子様。
と言うか、ヴォルテクス王子様も愛称がヴォルだから、名前が被ってややこしいよ。
それも僕がヴォルテクス王子様だと勘違いさせた要因の1つなんだろうなぁ。
「さて、何から話そうか。問題が起こった原因は、1人の貴族がロクウェルに惚れたことが発端だ」
……これだけで、物凄い面倒ごとに巻き込まれた予感しかしなんだけど。
「その貴族と言うのは、西大陸ではセントベル王国の貴族で、最初はある夜会で出会った俺の婚約者のナナ・セブンスに一目惚れをしていたんだ。だが、ナナに婚約者――俺が居る事が分かり、次第に諦めていったんだが……」
後で聞いた事だけど、その夜会は各国の交流を目的としていたらしく、かなり大規模な夜会だったらしい。
そんな大勢の王侯貴族が参加する夜会で、その貴族はヴァリアブル王子様の婚約者ナナ様に一目惚れしたのだとか。
セントベル王国と竜王国ヴェルザンディの距離は物凄く離れているんだけど、そんな距離は何のその。
まさに虚仮の一念岩をも通す。
「最初の頃はこちらの迷惑を考えずにナナに猛アタックを仕掛け来たんだよ、あの貴族は。俺がこのシクスティーンの町の領主になったことでナナも付いてきて、それを知ったあの貴族は、そいつも自国の東大陸の領地の領主になって追いかけてきやがった。だが、俺が婚約者だと分かると敵わないと思ったんだろうな」
自信過剰なのか、それとも自分で言うほど優秀なのか。
多分後者で、ヴァリアブル王子様はそれ程自分が頑張ってきたという自負があるんだろう。
「次第に諦めてこれでようやく安心だと思ったら、今度は婚約者が双子と言う事でよく一緒に居たロクウェルに目を付けやがった」
だよね。
虚仮の一念でナナ様を狙うような貴族様だ。
そう簡単に引き下がるわけがない。




