061.婚約者
「私たちはどんな些細な情報も見逃さず集めてきました。ヴォル様の名が出てきたときはどんなに嬉しかったことか。生きていてくれた喜び、やっと見つけた嬉しさ、その一つ身で名を馳せた誇らしさ。私たちはヴォル様の所在を把握すると直ぐにモノクローム様の協力を仰ぎに来たのです。そして漸く会えました」
「ザースディーンの町で冒険者として活躍するヴォル兄様が黒髪黒目と言う情報を得て、ヴォル兄様に間違いないと思ったのですわ」
ロクウェル様は嬉しさのあまり涙を流し、ヴィスクドール王女様は興奮しすぎてふんすっと言う鼻息まで聞こえそうだ。
確かに、ヴィスクドール王女様は僕と同じ黒髪黒目だけど、それだけじゃ確証はないと思うんだけど。
黒髪黒目は珍しいけど全くいないわけじゃない。
実際、冒険者の中には僕の他にも黒髪黒目の人は一定数居る。
冒険者の中だけでも見かけるのだから、冒険者以外にも探せば居るだろう。
そう思っていたのだけど、ヴィスクドール王女様が決定的な一言を告げる。
「そして会ったらヴォル兄様だと間違いなかったですわ! だって、こんなにも双子であるヴァリア兄様とそっくりなんですもの。そして何より、私の中の血の繋がりがヴォル兄様だと言っていますですわ!」
え、そんなに似ているの? そのヴァリアブル王子様に。
チラリとモノクローム様を見れば、鷹揚に頷く。
「うむ、私も最初ヴォルを見たときは、ヴァリアブル王子にそっくりだと驚いたものだ。おっと、これまでははっきりしなかったから呼び捨てだったが、ヴォルテクス王子と呼ばねばならぬか」
「あ、いえ、ちょっと待ってください。そんな王子だなんて呼ばないでください。まだそうだとは決まった訳じゃないんですから」
僕が慌てて呼び方を止めようとするけど、最早流れは僕がその行方不明のヴォルテクス王子様ってことになってるみたい。
でも、モノクローム様がこれまで僕を優遇してくれていた理由が分かった。
僕が『十三番目の狐』の頭領を討伐し、褒賞やお褒めの言葉を貰う時に会ったんだけど、その時から僕をヴォルテクス王子と思っていたんだろう。
だから、エーデ師匠が魔女で魔族だと分かった時も、僕の師匠と言う理由で魔女退治を止めてくれたり、僕がニコライに捕まった時も庇ってくれたりと何かと便宜を図ってくれたのだ。
尤も、僕がヴォルテクス王子と判明した時に、その情報をヴィスクドール王女様とロクウェル様に流したのもモノクローム様だけど。
「……なぁ、そこのちびっ子王女様は兄貴を探して必死になっているってのは分かるが、あんたはなんで行方不明の王子様を探しているんだ? ただの自分の国の王子様だってだけじゃそこまで必死になる理由がねぇと思うけど」
「ちょっ!? パトル、口の利き方!」
それまで黙って聞いていたパトルが口を開いたかと思うと、いつも通りのぞんざいな口調で貴族様に話しかける。
だけど、ヴィスクドール王女様とロクウェル様は左程気にした様子は無く、僕はホッとする。
……ただしロクウェル様の雰囲気が少し変わったと思うのは気のせいかな?
「何故私がヴォル様を探すのですか。確かに一貴族としては自国の王族とは言えここまで必死になって探す理由は無いですね。ですが、その行方不明となった方が、私の婚約者とならば必死になって探す理由となります」
「い、婚約者ぁっ!? おま、ヴォル! お前婚約者なんて居たのかよ!? よくも黙っていやがったな!」
そう言いながら、パトルはソファーから立ち上がり僕の肩を激しく揺さぶる。
「ちょっ!? おち、落ち着いてよ、パトル!?」
「これが落ち着いてられるか!」
ガクンガクン揺さぶられ頭がシェイクされる~
「おー、貴族様の前で言うのはなんだけど、なんかちょっと面白くなってきた」
「だね。冒険者と貴族の三角関係が出来上がったね」
「名を上げてきた冒険者。その正体は行方不明だった王子様。その王子様を必死になって探している婚約者。これって王道的はラブストーリーですよね」
最早、完全な部外者と化しているヨンタナ、サンドラ、ミッツが口々に好き勝手言っている。
見てないで助けてよ。
「竜王国のシクスセクス家は有名でな。我が太陽王国にもその名は届いている。シクスセクス家は女系家系な為、生まれてくる子供は必ず女の子となる。その為、当主は長女が継ぎ、それ以外の子供は他家に嫁ぐわけだが、その嫁いだ家で生まれた子供は繁栄をもたらすと言われておる。と言うか、必ず繁栄する」
「そんな家ですから、私のお母様やお父様は姉妹の嫁ぎ先は慎重にならざるを得ません。例えそれが我が国の王族でもです。ですが私とヴォル様の婚約は、そんな試練を乗り越えて結ばれたものなのです。婚約を結ぶまで紆余曲折あったそうですが。ですので、私がヴォル様を探すのは必然的なのです」
パトルが僕に掴みかかって騒いでいるのを余所に、モノクローム様とロクウェル様がさらにとんでもない爆弾を落としてきた。
え? 何その情報。別に今ここで言う事じゃないでしょ!?
更にヴォルテクス王子様の捜索の重要性が増したじゃないか。
「って待てよ。ヴォルが生まれて1年で行方不明になったんだろ。居ない奴との婚約は出来ないじゃん」
そこでパトルはふと気が付いて、僕を揺さぶる手を止める。
「あら可笑しなことを言いますのね。貴族間での婚約は、生まれてすぐに決まることもあるのですよ? ましてや我がシクスセクス家では嫁ぎ先が重要なのです。生まれた瞬間に、いえ、生まれる前から決まっていましたのよ」
そう微笑みながらパトルへと答えるロクウェル様。
「へぇ~~~~、婚約して1年もしないうちに婚約者に逃げられるのも貴族様のお約束なのか?」
負けじと言い返すパトル。
何というか、2人の間に流れる空気が冷たくなってきているのは気のせいかな?




