059.後始末
「一連の事件が解決したことを祝って、カンパーイ!」
「いや、まだ早いよ!」
実際、エールのジョッキを持っているのはパトルだけ。
僕たちはニコライ達を倒し、さっきザースディーンの町へ戻ってきたばかりだったりする。
今居るのはウエストザースディーンの冒険者ギルドに併設されている酒場だ。
そこでパトルは全部が終わったとばかりにエールを注文し、くつろぎ始めたと。
「えー、何だよ。事件の主犯のニコライは倒したんだぞ。ヴォルも無事取り戻したし、万事全部解決じゃねぇか」
「まだ全部解決した訳じゃないよ。少なくとも僕はまだ世間一般には邪教信者の容疑がかかっているし」
ニコライが僕を邪教信者として連れていかれてまだ3日しか経っていない。
おまけに、ニコライが領主様のお城を襲ったのは世間には伏せられている。
領主様のお城が襲撃された事実は外聞が悪いからね。
「そして理由があったとはいえ、僕は脱獄犯でもあるし」
その時はニコライの【存在の証明】の『非存在』により、僕は存在していないことになっていたけど今は存在を取り戻したため、牢屋に居ない僕は脱獄犯扱いになる。
「そのあたりの説明を領主様にしないと僕たちこの後、ザースディーンの町で活動できないよ?」
「うへぇ~、めんどくせぇ。ニコライを倒したんだからそれでいいじゃんか」
「あと、ゴールの件もあるね。フィフスフィスク商会の依頼を受けていたよね? それってパトルたちが依頼を受けたふりして押し込み強盗をしたことになっているよ」
「はぁっ!? 何でって……、あぅ、そっか、傍から見ればそう見えるのか」
ゴールの正体が邪教信者だったけど、それもまだ世間には知られていない事だ。
その理由を知らない世間からは、パトルたちは依頼を受けるふりをしてフィフスフィスク商会を襲った冒険者とみてしまうのだ。
このままじゃ『躍る冒険者たち』の活動が危うくなるから、それもどうにかしないと。
「まぁ、そのあたりは今モコが冒険者ギルドに説明しに行っているけど」
モコがフィフスフィスク商会から押収した証拠を提示しながらゴールが邪教信者だったことを説明し、冒険者ギルドからのペナルティを免除してもらう手続きを行っている。
尤も、ゴールの邪教信者の証拠は、この後領主様に提出するので冒険者ギルドには提示するだけになる。
領主様の方にもフィフスフィスク商会の事を説明しなければならないし、会長が邪教信者だったとはいえ、長年ザースディーンの町の発展に貢献してきた大商会の対応を領主様は考えなければならないのだ。
癒しの女神像改め邪神像もあの祭壇から回収して、領主様に提出することになっている。
因みに、あの時ニコライに背中から斬られた傷は、邪神像じゃなくモコの【ものまね師】による【治癒魔法】で治してもらっている。
流石に邪神像と分かって使う気になれないからね。
「……なんかさぁ、最近のザースディーンの町って大丈夫か? 大盗賊団が居なくなって木っ端共が騒ぎまくっているし、町を支えていた大商会のトップは実は邪教信者だったとか」
まぁ、これからのザースディーンの町は大変なのは間違いないけど。
その両方に僕たちが関わっているのが何とも言えない。
「どちらの事件に関わっている吾輩たちが言う事ではないな」
あ、アリエスからも同じツッコミが入った。
「その事に文句が言えるのは領主様だな。精々この後、叱られてきな」
「おい、少なくともその片方に関りがあるお前らも文句を言われる立場なんだぞ」
「いやいやいや、俺たちは巻き込まれた被害者だぞ」
「そうそう、可愛い妹を攫われた被害者なの」
「邪教信者が町に潜んでいたのは私たちの所為じゃないような気も……」
ヨンタナがパトルを揶揄っていたら、逆に同じ関係者だろとパトルは巻き込みを図るも、ヨンタナたち3人は被害者だと言い張る。
それを言ったら僕たちも邪教信者に関しては被害者なんだけど。
そうこうしているうちに、モコが戻ってきた。
「冒険者ギルドには話を付けてきたです。これでフィフスフィスク商会の依頼に関してはお咎めは無いです」
「そっか、良かった。後は領主様のところで一連の事件の概要と解決の説明か」
「それが一番大変なのです」
まぁそうだよねぇ……
でも、このまま黙っている訳にもいかないし、領主様にはニコライから守ってもらった恩もあるから、事件が解決したことの説明をしておかないとね。
少しばかり重い足取りを何とか領主様のお城に向けて僕たちは歩き出す。
「そうか、事件の解決に尽力を尽くしてくれて感謝する。我々だけだと儀式により邪神が復活していた恐れがある。大儀であった」
領主様からお褒めの言葉を授かり、僕たちは頭を下げる。
ザースディーンの町の領主様は、ハーフハート大陸にあるブロークンハート大陸を繋ぐ港町を持つ大国・太陽王国サンフェルズの公爵家の長男であるモノクローム・アル・グラデーション様だ。
僕たちは謁見の間ではなく、モノクローム様の執務室で一連の事件の報告を行っていた。
謁見の間での説明となると公式記録に残ってしまうため、まずはその前の調整と言う事で執務室での報告となった。
その為、モノクローム様の人柄や鷹揚さもあって、それほど堅くならない面会だ。
一通りの説明を終えて、ようやく僕たちは肩の荷が下りた。
少なくとも僕は邪教信者の疑いは領主様公認で否定され、パトルたちがフィフスフィスク商会へ押し入ったことは商会の不正調査のためと公表される事になる。
ニコライとゴールの事については公表されるか否かはこの後の、モノクローム様が宰相様とかと会議で話し合いをして決める事だ。
話がひと段落し、僕たちは退出の流れとなったその時、モノクローム様のお客様――貴族と思われる2人の少女――が入ってきた。
まぁ、それだけならば僕たちは平民で、お客様は貴族様なのだからすれ違うだけで済む話だったのだけど、そのお客の貴族様がとんでもない発言をしたことにより、新たな問題が発生した。
「ようやく会えましたですわ! ヴォル兄様!」




