051.用心棒
「ねぇ、僕たち誘い込まれたみたいだけど?」
「あー……、スマン。ちょっと情報の裏取りが足りなかったな。だが、この程度なら大したことはないだろ」
まぁ、最初は大人数にピンチかと思ったけど、よく見たらそれ程手強い者はいないから大丈夫そう。
ヨンタナとそう話している間にも、ゴールの傍に居た数人の冒険者たちが襲い掛かってくる。
イーストザースディーンの冒険者ギルドでは見かけない者ばかりだから、もしかしたらウエストザースディーンの冒険者たちかな?
と言うか、邪教信者だと分かって雇われているんだろうか。
この冒険者たち、後で冒険者ギルドからペナルティとか受けそうだけど。
それはそれとして、グレートソードを持った冒険者が僕に向かって振り下ろしてくる。
……遅い。
パトルなら、もっと早く、正確に体の中心線を狙って攻撃してくるよ。
相手の冒険者は、グレートソードを振るのが遅い上、狙いも大雑把な当てればいいばかりの大振りだ。
僕は【回転】スキルを使いながらギュルンと半回転をしながら鞘を付けたまま剣を振るい、冒険者の脇腹を薙ぐ。
「ぐぶぅっ!?」
たった一撃であっけなく崩れ落ちる冒険者。
そして僕の攻撃の隙を突き、左右から挟み込むように別の冒険者たちが襲ってくるけど……ただ単向かってくるだけで、連携も何もあったものじゃない。
僕は難なく襲い掛かる冒険者たちを排除し、ヨンタナ達の方を見る。
ヨンタナもサンドラの足元には冒険者たちが蹲っている。
うん、思った通り、この2人の実力はかなり高いね。
「ぐふふ、女の方は傷をつけるなよ。私自ら拷問するからな。男の方は殺さなければ何をしても構わん。我が屋敷に侵入したことを後悔させてやれ」
ゴールは悠長に構えながらそんなことを周囲に大声で話しかけていた。
……状況が見えてないのかな、この人。
と言うか、自分のセリフに酔っているみたい。
「んん~~、いい悲鳴だ。良く分かったか? 私に逆らうとどうなるか。……って待て。なぜ悲鳴がいくつも聞こえる」
ここでようやくゴールは様子がおかしいことに気が付いたみたいだ。
「なっ!? 馬鹿な! こいつらはC級冒険者だぞ! たった3人でこうも簡単に……!」
えー? これでC級冒険者?
もしかして騙されてない?
でも邪教信者だけど、成功した大商人なんだよね。人を見る目はあるか。
と言う事は、本当にこいつらはC級冒険者って事か。
「ぐぬぬ……! だがいい気になるのはそこまでだ! 先生! 用心棒の先生、出番です!」
「どうやらお代わりがあるみたいだな」
「そうだね。でもこの感じだと、その先生とやらも大したことなさそうだね」
ゴールは別枠の用心棒を雇ったみたい。
「言っておくが、今度の冒険者は絶賛大活躍中のパーティーだ。少人数だからと言って侮らない方がいいぞ」
へぇ……、今度は評判倒れじゃなきゃいいけどね。
「それはこっちのセリフよ。大人しく捕まってニコライの居場所を吐いた方が罪の減軽がされると思う……って、きゃぁぁぁっ!?」
サンドラがゴールに向かって投降を促していたけど、突然悲鳴を上げて近くに居た僕にしがみ付く。
「えっ? ちょっと、どうしたの?」
「へ、蛇! 蛇が居たのっ! 私、蛇はダメなの!」
しがみ付くサンドラを何とか落ち着かせながら周囲を窺うけど、蛇は見当たらない。
あ、もしかして【サードアイ】が発動したのかな?
「多分だが、未来視だな。数分後か数時間後かは分からないが、この部屋に蛇が出るんだろ」
「もしかして暫く使い物にならない?」
「直ぐに落ち着くとは思うんだけどな」
直ぐに落ち着くにせよ落ち着かないにせよ、僕にしがみ付いたままだと困るんだけど。
「何をごちゃごちゃ言っている! 覚悟しろ、侵入者どもが!」
相手にされないゴールはキレるし、サンドラはパニックになるし、ちょっとしたカオスだね、これ。
バンッ!
と、ちょっとした現実逃避をしていると、部屋に飛び込んでくる1人の人物。
ゴールが言う、用心棒の先生かな?
だけど、僕はその人物を見ては驚愕する。
飛び込んできたのはまさかのパトルだった。
「どこのどいつだ、旦那の屋敷に忍び込んだ大馬鹿は!」
え!? 何でパトルがここに!?
と言うか、絶賛大活躍中のパーティーって僕のパーティーって事!?
じゃ、じゃあ、モコもアリエスも居るって事なの!?
僕の動揺を余所に、パトルは僕たちを見つけて訝し気な視線を這わせる。
「何だてめぇは? 誰の許可を取ってそうしてやがる。ああ?」
…………っ!
許可とか良く分からないことを言っているけど、やっぱり僕の事を覚えていないんだ。
分かっていたけど、ショックだな。
「ははっ、見た目に騙されない方がいいぞ! こう見えて先生はA級冒険者すら退ける実力者だ」
えー……、いつの間にパトルはA級すら退ける強者になったんだろう。
確かにそれくらいの実力はあるかもしれないけど、そんな周囲の評判になるような事実はないんだけど。
パトルは殺気立った視線をこちらに向けながら、背中の2本のグレートソードの魔剣を引き抜く。
と、同時に魔剣を発動する。
右手の大蛇剣・蟒蛇を蛇腹剣モードに。
左手の魔剣・炎武帝に炎を纏わせる火炎モードに。
「ひっ!!」
サンドラがパトルの大蛇剣・蟒蛇の蛇腹剣モードを見た瞬間、僕にしがみ付いたまま飛び上がる。
あ、サンドラが【サードアイ】で見た未来視の蛇って、パトルの大蛇剣・蟒蛇の事か。
確かに大蛇剣・蟒蛇の蛇腹剣モードは本当の蛇にも見えなくないからね。
飛び上がったサンドラは体勢を崩して転がりそうになるところを、僕はお姫様抱っこで落ちないように抱え込む。
「なぁっ!? ヴォルのお姫様抱っこだと……っ!? 羨ましすぎる。おい、てめぇ! あたしのヴォルから離れやがれ!!」
……あれ?
パトルは僕のことを忘れていたんじゃなかったの?




