049.存在の証明
ヨンタナ曰く、このままじゃ僕は死んじゃうらしい。
牢獄から脱出する時に、僕の存在が忘れられているって言ってたけど、それと関係があるのかな?
「まぁ、ぶっちゃけニコライのスキルの所為なんだけどな。奴のスキルは【存在の証明】。対象物をそこに存在すると言うのを証明するスキルだ」
「聞く限りじゃ、そんな大したことの出来るスキルじゃないような気がするけど」
と言うか、意味があるのかな? このスキル。
誰に証明するの? 証明してどうするの? って感じだ。
「まぁ、聞く限りじゃそう思うよな。判明している能力もそんな大げさなものじゃないし」
ヨンタナの解説によると、【存在の証明】のそこに存在と言う事を利用して、戦闘とかで敵の注目を集めるスキルだ。
名前は違うけど、【戦士】スキルとかでよくある【ウォーリアハウル】と同じ効果だと思えばいいかも。
だけど、当然これだけじゃない。
「そのものの存在を証明すると言う事は、裏を返せば証明されなければそこに存在しないと同じだ」
「存在しないって、認識されなくなるって言う事?」
「ああ、姿を消すスキルって言った方が分かりやすいか?」
あー……、『十三番目の狐』の頭領・カウボーイのスキル、【石法師】の【路傍石】のような効果か。
あのスキルも目に映っているのに"そこに在るのが当たり前"と認識されるスキルだし。
「まぁ、それが自分にかけて隠密行動したりする場合だと周囲に効果を及ぼす程度だが、これが敵対者に全方位――全てに人に効果が及ぶように掛けるとどうなるか」
「誰にも存在を認識されなくなったものは、そこに本当に存在しなくなる。何故なら誰もそこに存在すると認識されなくなるからね。存在の死。この世から消えてなくなるのよ」
サンドラがヨンタナの言葉を引き継ぐ。
だけど僕はサンドラの言葉を呆然と聞いていた。
このスキルの恐ろしい危険性にただただ恐怖していた。
姿を隠すスキルだなんてとんでもない。
この【存在の証明】のスキルを使えば、誰にも気付かれずに直接手を下すことなく消すことが可能なのだ。
「つまり、今のヴォルは、誰にも気付かれなくなった時点で死亡が確定する危うい状態だって訳だ」
やばいやばいやばい。
このままじゃ、本当に僕と言う存在は消えてしま……う?
あれ? それだったらなんで僕はまだ存在が消えていないの?
そう思ってヨンタナ達を見れば、ニヤリと笑う。
「なんでまだ自分の存在が消えてないか、そう思っているだろ?」
「うん」
僕は素直に頷く。
「まず一つ。元々【存在の証明】はそこに在るのを証明するためのスキルだ。逆の効果を及ぼす存在を消すのは一瞬じゃなく、時間を掛けてとなる。親しい人ほど反動が大きくなり直ぐに忘れられるが、それほど親しくない人や付き合いが浅い人などはゆっくりと存在を忘れられる」
なるほど。
親しくない人などは、元々その者の存在を認識していないから忘れられる土台が無いわけだ。
逆に親しい人ほどその存在を強く認識しているから、その取っ掛かりを無くせば直ぐに存在を認識されなくなると。
「そしてもう一つ。何事にも例外があるってな。それがサンドラのスキルだ」
そう言ってヨンタナはサンドラを見る。
「サンドラのスキルは未来視が出来るスキルだったって聞いたけど?」
「脱出の時も言ったけど、それも私のスキルの内の一つよ。私のスキルは【サードアイ】。未来視・千里眼・魔眼・鑑定眼・神託眼など瞳術系のいいとこ取りのスキルね」
なんだそれ!? 反則級のスキルじゃん!?
「まぁ、尤も思い通りに使う事の出来ないスキルだけど。これ、使うたびにランダムで効果が発揮するのよ。使おうとしなくても勝手に発動したりね」
「あ、やっぱりそう都合いいスキルって訳じゃないんだ」
サンドラは「まぁね」と苦笑いしながら答えてくれる。
未来視を使おうとしても鑑定眼が発動したり、普段の生活の中で唐突に千里眼が発動したりと、確かに使い勝手は悪いね。
「この目のお陰であたしは貴方を認識できる。誰か1人でも貴方を認識できれば貴方は消えることはないわ」
「……そっか。だから僕はまだ消えずにいて、サンドラは僕を認識して助け出す事が出来たんだ。って……それだとヨンタナは僕を覚えているのはおかしくない?」
「そうでもないさ。例外は1つじゃない。俺のスキルは【ユニゾンアイ】。他者の視界を共有するスキルだ。このスキルで俺はサンドラの見たヴォルを助ける神託眼を共有して、ヴォルの存在を認識しているって訳」
むむむ。
一見、それほど大したことのないようなスキルだけど、このスキルって僕の【回転】同様に使いこなせば強力なスキルだね。
例えば、牢から脱出する時に使ったように、周囲に人が居ないかを確認するとか(人が居れば視界を共有できるし、その視界で自分たちが見つかっていないか分かる)、戦闘時にはその視界でどこを狙っているかとかを見ることが出来る。
それに、サンドラの【サードアイ】を共有できるように瞳術系のスキルを共有できるのも強みだと思う。
「さて、状況も敵も認識できたところでこれからの事を話し合いしようじゃないか。ヴォルはどうやってもニコライをどうにかしないと俺たち以外の人から忘れ続けられている状態だからな。俺たちもニコライに用がある。協力して邪教信者のクソ共を倒そうじゃないか」
「そう、だね。うん、やろう。ニコライを倒して僕と言う存在を取り戻す」
そう。この手のスキルは使用者が解除するか死亡するかで解くことが出来る。
今現在も、僕はパトル達から忘れ続けられているんだ。




