046.牢獄
まぁ、そんな訳で僕は今牢屋に居る。
なんだよ、僕が邪教信者って。
「はぁ……、モコとアリエスが何とか僕の無実を晴らしてくれることを期待するか」
因みに、僕が今は言っている牢屋は領主様のお城の地下にある牢獄だ。
僕を捕まえたのはAlice神教教会の聖騎士だけど、ザースディーンの町のAlice神教教会には牢屋は無い。
そもそも新大陸での開拓地で宗教に戦力があるのはおかしいからね。
町が都市にまで発展すればそこまで考える必要はあるかもしれないけど。
で、捕まえた僕を閉じ込めておく場所に領主様のお城の牢を使わせてもらっていると。
「それにしても……、拷問があるかと覚悟を決めていたけど、いつまでたっても……ないね」
Alice神教教会の神官騎士たちの邪教に対する扱いは苛烈を極めるのは、噂では聞こえていた。
なので、邪教信者扱いをする僕をなんとしても邪教信者と認めさせるためや、もしくは邪教信者嫌いの鬱憤を晴らすための拷問があると思っていたんだけど。
それどころか、牢屋に入れられてかなりの時間、放っておかれているんですけど?
光の届かない地下牢獄の為、時間の感覚が分からなくなってきたけど、少なくとも1日以上は経っているよね。
まぁ、拷問が無ければ無いに越したことはないけど。
そうなると、事態が動くまで暇だね。
なので、僕は今できる事をする。
いつも練習用に持っている石を取り出して手のひらに乗せる。
武器とか防具とかアイテムポーチとかも全て取り上げられたけど、流石にただの石ころは取られなかった。
手のひらに乗せた石を、スキル【回転】で回転させていく。
最初はゆっくりと、次第に回転を増やして徐々にスピードを上げていく。
ギュィィィィィィィィィィィィィィィィィィィンッ!
音が鳴るほど回転を加え、今度は回転を急停止&急発進をかける。
これを何セットか繰り返す。
「ふぅ……。うん、いつも通り順調だね」
今度は応用で、石に掛ける【回転】を下から小さく早く回転させ、上に向かって行く程大きくゆっくりとしていく。
つまり、下から螺旋状に広がる【回転】を掛けるのだ。
すると、石は一瞬だが上に向かって飛ぶ。
これを極めれば、貫通攻撃が可能となる。
他にもいろいろと【回転】での訓練を重ね、時間を潰していく。
「うーん……、本当に僕の事忘れられていない……?」
いくらでも訓練は出来るので暇ではなくなったんだけど、本気で僕の元には誰も来なかった。
少なくとも体感で3日は経っているよ?
そろそろ空腹でヤバくなってくるころだ。
と言うか、いくら何でも食事くらいは出してよ。
そう思っていたら、足音が聞こえてきた。
やっとアクションがあったよ。
足音から2人かな?
だけど、足音を殺して忍び足で来ようとしているみたい。
どうやら、あまり歓迎できる来客じゃないっぽい。
そうして人目を忍ぶように僕の閉じ込められている牢の鉄格子の前に現れたのは2人の冒険者だった。
男の人と女の子の2人組の冒険者。
格好は革鎧の軽装備で動きやすさをメインとした感じっぽい。
男の人の方は剣を腰に下げ、女の子の方はショートソードを二刀腰の後ろに差していた。
「お前がヴォル、か?」
「そうだけど、貴方達は? どう見てもお城の兵士さんには見えないし、Alice神教教会の神官戦士にも見えないんだけど」
「見ての通り、俺たちは冒険者だ。俺はヨンタナ・フォースレイブ」
「私はサンドラ・サードアイよ」
「で? 僕に何の用? わざわざ忍び込んできてまで」
兵士や神官戦士じゃないのなら、ここには忍び込んで来たと言う事だ。
そんなヨンタナとサンドラは僕に思いもよらないことを言う。
「お前を脱獄させに来た」
…………は?
え? 脱獄? 僕を? わざわざ? 見知らぬ人が?
「えっと、僕たち初対面だよね?」
「そうだな」
「なんで僕を脱獄させるの?」
「それは私のスキルの所為なの。私のスキルで貴方をここから脱獄させる未来を見たから」
「え? 凄い。未来視が出来るスキルなんだ」
ん? 僕を脱獄させる未来を見たのは分かったけど、それって必ず実行しなければならないわけじゃないよね?
ヨンタナたちも僕を助ける明確な理由はない。
ただ未来視に従っているだけ。
そもそも未来視は必ず当たる訳じゃない。
どちらかと言うと、外れる事の方が多いらしい。
未来を見たことで、未来そのものが変わってしまうとかなんとか。
「正確には未来視も出来るスキル、ね。詳しい話は今は省くけど、私達は貴方をここから脱獄させる理由があるのよ」
「えー……、イマイチ信じられない話だね」
「まぁ、信じられないのも無理はないが、俺たちも危険を冒してここに来たんだ。いやでも無理に連れ出すぜ。それに……お前、このままここに居れば死ぬぜ」
「死ぬって、やっぱり拷問的な?」
「それもあるが、お前の存在は今は他の奴らに忘れられている。お前の存在を知る者が誰も居なくなればお前はこの世から消えてなくなる」
「え? 何それ、怖い。って、ちょっと待って! それじゃあパトルやニコ、アリエスたちにも僕の事を忘れているって言うの!?」
「ああ。現にこれまでお前の元に誰か1人でも来たか?」
……確かに誰も来ていないね。
単に忘れられているかと思ったけど、本当に本気で忘れさせられていたとは。
何かしらのスキルの効果だろうか?
「ま、そんな訳だからそこから出た方がいいぜ」
「……分かったよ。確かにこのままここに居ても事態は好転しないみたいだし」
「よし、そうなればさっさとここから出るぜ」
そう言いながらヨンタナは鍵束を取り出して僕の前の鉄格子の扉の鍵を開けようとする。
が、どうやらそう簡単にいかないみたいだ。
「……あれ? おかしいな」
「ちょっと、何やっているのよ。さっさと開けなさいよ。ヴォルの存在は忘れかけているかもしれないけど、私達の事はきっちり認識されるんだから」
「分かっているよ。だけどおかしいな。鍵が合わない」
えー、まさか意気揚々と助けると来たのに、まさかの鍵無しとは。
「なにそれ。その鍵束ってここの地下牢の鍵よ。開かないなんてあり得なんだけど」
「そんなこと言ったって開かないものは開かないんだよ」
うーん、埒が明かないね。
「ちょっとどいて、僕が開けるから」
そう言って僕は鍵穴に向かって手を翳し、【回転】スキルを使い鍵穴を回す。
ガチャリ
キィ
見事鍵は開いて鉄格子の扉が開く。
それをヨンタナとサンドラの2人は驚愕した表情で僕を見ていた。




