043.蟒蛇
「ふむ、確かに完膚なきまで壊されているな」
パトルのお父さんは、折れたグレートソードを手に持ちつぶさに観察してそう言葉にする。
「S級冒険者と戦ってこうなったんだったか?」
「ああ、手も足も出なかったよ」
「まぁそうだろうな。S級冒険者は化け物ぞろいだから」
真ん中から先が無くなった刀身のグレートソードを置き、今度は剣先の刀身を手に持ちいろんな角度から見るパトルのお父さん。
「もう1本の剣はどうした?」
「ああ、ここにあるよ。こいつも一度修理に出しているぜ」
そう言って、パトルは背負っていたアイテムバックの中からもう1本のグレートソードを取り出してお父さんに渡す。
「刀身の真ん中が損傷したんだな」
おお、凄い。流石鍛冶師だ。
修理済みとは言え、どこが壊れたのか分かるんだ。
「ああ、こいつに焼き切られそうになったんだよ」
今のパトルのメインウエポンとなっている魔剣・炎武帝を見せる。
「そいつは魔剣か……。なるほどな、損傷具合が普通の斬りあいと違うから不思議だったが、魔剣なら納得だ」
お父さんはパトルが魔剣・炎武帝を取り出した時、一瞬だけ視線が鋭くなっていた。
「結論から言おう。パトルには新しい剣は打ってはやれない」
お父さんはグレートソードを台座に置いて、そうパトルに告げる。
「なんでだよ。それはあたしが未熟だからか? 親父に貰った剣を無様に壊したからか?」
「ふふ、違うよ。お父さんがパトルに送った2本の剣は、お父さんが今打てる最高の剣なんだよ。あれ以上となると今のお父さんには打てないからね。だからパトルがこの剣以上のものを求めているなら打ってやることは出来ないんだ」
お父さんは苦笑しながら言う。
「え? これって親父の傑作だったのかよ。てっきり手慰みに打った奴かと思ってた」
「おいおい、娘の門出にそんな手抜き品を渡すか」
「いやだって、親父はあたしが冒険者になるの反対してたじゃないか」
「……む、愛しい娘が荒くれ者が集う冒険者になるって言うんだ。父親としては反対するに決まっているだろう」
そう言いながらお父さんは僕に殺気を込めた視線を向けて「現にこうして頼りない男に引っかかって」なんて呟いている。
引っかかってって、普通にパーティーを組んだだけなんだけど、パトルのお父さんは何が気に食わないんだろう?
「あー、それじゃあ仕方ねぇな。親父、同じ奴でいいからもう1本剣を打ってくれ」
「いや、それよりもパトルにはお父さんの剣よりもいいものをやろう。戻ってきたときに強くなってたらやるつもりだったけど、まさか直ぐに渡すことになるとは思わなかったぞ」
お父さんは一度席を立ち、鍜治場の奥から布に包まれた1本の剣を持ってきた。
大きさからグレートソードの様だ。
「親父、これは?」
「お父さんが若い時に手に入れた魔剣だ」
「っ! マジか! 家に魔剣があったのか!?」
お父さんの言葉にパトルは驚く。
勿論、僕たちもだ。
「お父さんはこの魔剣に勝てるような剣が欲しくて鍛冶師になったようなものだからね。言わばこの魔剣はお父さんの剣の祖になるかな?」
「い、いいのかよ。そんな魔剣をあたしにくれて」
「いいんだよ、いつかパトルに渡すつもりでいたからね。本当はいつかこれを超える剣を渡したかったんだけど。それに魔剣と言っても丈夫なだけで大した能力は持っていないんだ」
「……ん? 魔剣なんだよな?」
「ああ、これは大蛇剣・蟒蛇。持っていると、お酒が底なしに呑めるだけの剣なんだ」
「……………………………………なんだそりゃあ!?」
うん、パトルの沈黙と叫ぶ気持ちは分かる。
魔剣なのに、酒飲みの剣とは。
「よくおふくろが欲しがらなかったな」
お母さんはドワーフだからね。
そりゃあ、お酒に目が無いからこの魔剣を欲しがるはず。
そう、僕も思っていたんだけど。
「お母さんは、魔剣でお酒を呑んでも旨くないって言って、これを持つことはなかったんだよ」
どうやら本当にお酒好きなだけあって、変なこだわりがあるみたい。
「……分かった。ありがたく受け取るよ。ありがとうな、親父」
「パトルがこの魔剣のお陰で無事に帰って来れるなら、贈りがいがあるよ」
うんうん、いい話だなぁ。
……パトルのお父さんが所々、僕に向かって殺気を飛ばす視線を向けるのが無ければだけど。
その後、パトルの剣以外に僕たちの防具を見繕ってもらったんだけど、モコとアリエスはすんなり通って、僕だけがまたひと悶着があったのは困ったね。
まぁ、パトルのお母さんがまた出っ張って、パトルのお父さんに拳骨を喰らわせていたけど。
一晩、フォードティンの村に泊まり、ザースディーンの町に戻る途中で大蛇剣・蟒蛇の試し切りをする事になった。
出くわしたモンスターのゴブリン・ホブゴブリンの群れにパトルは大蛇剣・蟒蛇と魔剣・炎武帝を構える。
パトルのスキルは【大剣二刀流】だから一応、魔剣・炎武帝も構えているけど、今回メインで使用するのは大蛇剣・蟒蛇だけだ。
「うん、なんかしっくりするな」
蟒蛇(酒の呑み剣)だけあって、ドワーフの血を引くパトルには使い勝手がいいみたいだ。
「お前らは見ているだけでいいぜ。多分、一瞬で終わる」
「了解。まぁ、数が多いから取りこぼしがあったら手を出すかもね」
「ですね。ゴブリンだけど、これはちょっと数が多すぎです」
今、僕たちの前にいるゴブリン・ホブゴブリンの群れは、優に30匹を超えている。
「もしかしたらどこかに巣があるかもしれん。汝パトルの試し切りが終わったら、周囲を捜索した方がいいだろう」
アリエスの言う通り、フォードティン村に被害が及ばないように潰しておいた方がいいと思う。
「ならとっととこいつらを片付けてゴブリンの巣でもうひと暴れするか!」
そう言いながらパトルは大蛇剣・蟒蛇を振り回す。
まぁ、ゴブリン・ホブゴブリン如き、今のパトルには相手にもならないからね。
あっという間に数を減らし、残り数匹となったところでゴブリンたちは逃げ出した。
「あ、逃がすかよ!」
僕たちも逃がさないと追いかけようとしたけど、その前にパトルの大蛇剣・蟒蛇が反応した。
ジャララララララッ
なんと、大蛇剣・蟒蛇の刀身が割れて蛇のように伸びたのだ。
そう、大蛇剣・蟒蛇は蛇腹剣だったのだ。
しかも魔剣な為、その刀身は普通の蛇腹剣の様にただ分割するのではなく、刀身が組み替えられてグレートソードの幅のある蛇腹刀身ではなく、シュっとした細身の蛇腹刀身となっていた。
そのお陰で、蛇腹剣の長さはあり得ないくらい伸びている。
本当の蛇のように地面を張って逃げ出したゴブリンたちを瞬く間に串刺しにしていく。
ゴブリンを喰らいつくした大蛇剣・蟒蛇は、再びグレートソードの刀身へと戻る。
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
僕たちは、一同暫くの間無言でいた。
「お、親父――――! 何がただの丈夫なだけの魔剣だよ!」




