042.帰省2
「ところで、なんで帰ってきたのかしら? 帰ってくるのが早すぎると思うけど?」
さっきまでのほんわかしたパトルのお母さんが、急に剣呑な雰囲気に包まれる。
「あー……、待て待ておふくろ。別に弱音を吐いて逃げてきたわけじゃないから。もしそうだったとしても、仲間と一緒に帰ってこねぇだろ」
「……そう言えば、そうね。それじゃあ、なんで帰ってきたの?」
「親父に新しく剣を打ってもらってほしくて帰ってきたんだよ」
「あら、お父さんが貴女が冒険者になる記念にプレゼントで送った剣じゃ物足りないって言うの?」
そう言いながらパトルの背中にあるグレートソードを見る。
パトルのお母さんの表情が少しだけ変わる。
「物足りないってのもあるけど、1本ぶっ壊れちまったからな。どうせだから新しく欲しくなってさ」
「壊れたって……、雑に扱ったんじゃないでしょうね?」
「なんだよ、おふくろ。さっきから疑うような言い方して。そんなにあたしが信用できないのかよ」
まぁ、折角帰ってきたのに歓迎するどころか非難ばかりされていれば面白くないよね。
「強くなったみたいだけど、強さに奢って天狗になっているんじゃないかと思ってね」
「ばっか、そんな暇ねぇよ。上には上が居るってしっているから」
「随分と殊勝な事を言うようになったわね。ふーん……、確かに強さに見合った心構えも出来るようになったわね。いいわ、お父さんに新しい剣を打ってもらいましょう」
「そうこなくっちゃ。おい、行こうぜみんな」
パトルのお母さんが先頭になり、その後をパトルと僕たちが付いていく。
「そう言えば、パトル。貴女何と戦って剣を壊したのよ」
「あー……、S級冒険者と戦ってな。完膚なきまで叩き潰されたよ」
「S級……っ!?」
流石にS級冒険者と戦ったともなれば驚くよね。
「よく無事だったわね、パトル」
「まぁ、生き残ったのは仲間に恵まれたのと、運が良かっただけだな」
「なるほどね。貴女の成長ぶりも納得だわ」
その後も、パトルとお母さんは再会を喜ぶように会話を弾ませる。
そうして歩くこと暫し、他の家よりも少し大きい家が見えてきた。
家の中――と言うより、併設された作業場かな?――から鉄を叩く音が聞こえていたけど、その音が止まる。
「ここがあたしの家だよ。剣を打つ音が止まったって事は、打ち終わったか、休憩かな?」
「ただいまー。お父さん、今大丈夫かしら?」
パトルのお母さんが家の中に入り、パトルのお父さんに話しかけている。
僕たちもパトルに促され家の中に入る。
「おお! パトル、戻ってきたのか! うーん、相変わらず美人だ! 流石母さんの娘だな!」
流石に鍛冶師だけあって、パトルのお父さんは背の高いがっしりした体の持ち主だった。
そのパトルのお父さんが、パトルを見るなり思いっきり抱き着く。
「ちょっ!? 親父、恥ずかしいからやめろって言っているだろ!? 今日は仲間も連れてきているんだ。恥ずかしいところを見せるなよ」
「おお! パトルの仲間か。歓迎する……よ。言っておくが、パトルはお前にはやらんからな」
にこやかに歓迎していたパトルのお父さんだったが、その視線がアリエス、モコ、そして俺に向かったとたんに急に不機嫌になり変なことを言い出した。
「親父っ!? 急に何を言っているんだよ!?」
「パトルは黙ってなさい。これは父親として言っておかなければならない事なんだ」
パトルから離れたお父さんは、僕の前に立ち見定めるような視線を上から下へと向ける。
「……ふん、頼りなさそうな男だな。そんななりで冒険者などやれるのか? それともパトルに寄生する蛆虫か? ん? 黙ってないで何とか言ったらどうなんだ?」
いや、いきなり罵倒されて会話をさせてもらえなくて、口を挟めないんだけど。
取り敢えず、挨拶だけはしておこう。
「えっと、初めまして。ヴォルって言います。一応パーティーリーダーをやっています」
「パーティーリーダーだと? お前のような小僧が? 実に頼りにならん。パトル、こんな男のパーティーなど抜けてしまえ」
……酷い言われようだ。
僕パトルのお父さんに何かしたのかな?
と言うか、何で僕だけなんだろ?
モコとアリエスは何故かニコニコして僕たちのやり取りを見ている。
……そう言えば、この前のパトルとのやり取りも同じようにニコニコ見ていたっけ。
そんな僕に罵声を浴びせるパトルのお父さんのあまりの言い方に、パトルが食って掛かる。
「おい、親父。あまりふざけたことを言うと、本当に怒るぞ。ヴォルはあたし達の頼りになるリーダーなんだよ。それに、こう見えてもあたしよりも強いんだ」
ついこの前まで、エーデ師匠が居なくなった影響で落ち込んで頼りにならなかったんだけど……
でも、パトルにそう言ってもらえると嬉しいな。
「パトル、これはお前のために……ごあぁっ!?」
パトルを諭すように話しかけていたお父さんの横にパトルのお母さんが立ち、お父さんの脇腹に向かって拳を打ち込んだ。
「お、お母さん、何を……」
「あなた」
パトルのお母さんの冷たいたったその一言。
それだけでパトルのお父さんは口を紡ぐ。
「わ、悪かった。もうこれ以上は言わないから」
「ん、よろしい。ごめんねぇ、この人ったらパトルを溺愛していて。パトルが村を出て冒険者になるって言った時も揉めたのよねぇ」
そうなんだ。パトルは愛されているんだね。
「いえ、親なんですから子供が大事なのはわかりますから」
「ふふふ、ありがとうね。パトル、いい男捕まえて来たじゃないの」
「ばっ! おふくろ、ヴォルはそんなんじゃねぇよ!」
パトルとお母さんがなにやら言っているけど、意味が良く分からないや。
でも仲がいいのは分かるよ。うん。




