040.励まし
「クローディアはどこに居るの?」
「残念だけど、それは教えられないな」
僕は再びクロム・ハートを呼び出して、クローディアの行方を聞いた。
だけど、クロムからの答えは、ノーだった。
「クローディアを庇うの? だったら力尽くでも聞き出すよ」
「怖い事を言うなよ、ヴォルの旦那。それと勘違いしてもらっては困るな。教えられないって言うのは、知らないからだよ」
「クロムは、『黒の機関』の中じゃかなり上役だって聞いているけど? それでも知らないの?」
「まぁ、確かに組織の中じゃかなり上役だな。だけど、彼女に関しては機密事項になっているんだ」
クローディアが機密事項……?
それほどクローディアは重要人物だったの?
そんな風には見えなかったけど。
僕がクローディアを探しているのは、エーデ師匠と『風雷姫』の戦いで使われた、腕輪型の時空波紋を起こす魔道具のことについてだ。
あの戦いでエーデ師匠はクローディアからその魔道具を貰ったって言っていた。
最初はエーデ師匠の助けになる魔道具を渡していたことに助かったと思っていた。
けど、それは暴走の可能性を秘めた欠陥魔道具だったとなれば話は違う。
僕はクローディアにどうやってもその事を問いたださなければならない。
可能ならば、エーデ師匠を連れ戻す方法も。
なので、僕は間を置かずにクロムを呼び出したのだ。
「……はぁ。これからもヴォルの旦那と良い付き合いをしていきたいと思っているからこの情報を教えるが、これはあくまで俺の予想でしかないからな」
見かねたクロムは僕に特別に情報を教えてくれると言う。
「クローディア様は人魔大戦での勇者パーティーの一員だった。これは公式記録にも残っているので秘密でもなんでもないがな。肝心なのは、クローディア様はその戦いの中で、戦時中行方不明の扱いになっている」
「戦時中行方不明……?」
「ああ、生死不明って事だ。記録上の死亡扱いだな。実は生きていて数年後に見つかるパターンもあるが、クローディア様に関しては文字通り行方不明扱いだ。で、ここからが俺が仕入れた情報によるが、クローディア様は時空波紋の暴走に巻き込まれて行方不明扱いになったと思われる」
時空波紋。
エーデ師匠も巻き込まれた時空波紋は、扱い方を間違えなければすごく便利な移動手段でもある。
エーデ師匠の友人がよく使って遊びに来ていたけど、使用には注意しなければならないとよく言っていた。
下手をすれば、世界中のどこかへ、過去か未来の膨大な時間の流れのどこかへ飛ばされてしまうと。
実はクローディアも時空波紋の暴走に巻き込まれていたの?
それなのに、何故エーデ師匠に暴走する時空波紋の魔道具を渡したの?
「俺も、行方不明扱いになってたクローディア様が目の前に現れたことに驚いたさ。だからこそ、時空波紋の暴走に巻き込まれたと予想できたんだがな」
「時空波紋の暴走に巻き込まれたのに、戻ってこれた……?」
「おそらくな。だけどまた直ぐに行方が分からなくなってしまった。おそらくだが、また時空波紋関連でいなくなったと思うが」
「それじゃあ、どうやってもエーデ師匠の行方を追えないの……?」
僕の呟きに、クロムは肩をすくめてそれ以上何も言わなかった。
その後は、どうやって冒険者ギルドの併設された酒場まで戻ってきたのかは覚えていない。
気が付けば、僕はテーブルについて虚ろな表情をしていたみたいだ。
同じテーブル席には僕を心配してか、パトル達が座っていた。
「ヴォルさん、元気を出すです。少なくとも師匠さんは死んだわけではないです。必ずどこかで生きているです」
「時空波紋は人に害をなすものじゃない。あくまで場所を移すだけものだ。汝ヴォルよ、気持ちは分かるが、師匠エーデリカを信じて待つのも1つの手だぞ」
モコとアリエスが励まそうと声を掛けてくれるけど、今の僕には彼女たちの言葉は頭には入ってこない。
その後も何回も話しかけてくるけど、僕は何の反応を示さない。
と、その時、これまで黙っていたパトルがゆっくり立ち上がり僕の傍に立つ。
そう言えば、いつもなら何か言いそうなパトルは何も言ってこないな。
バキッ!!
そう思っていたら、徐にパトルは僕を殴りつけた。
「いつまでうじうじしてんだよ! おまえ、あの魔族の女に一人前の冒険者と認められたんだろ!? 今のお前の姿はあの魔族の女の認めた一人前の冒険者の姿かよ!」
「いつつ……、パトルに僕の気持ちは分かんないよ」
「ああ、分からねぇな! 諦めちまった奴の気持ちなんかな!」
「……諦めた? 僕が?」
「なんだよ。諦めたからここで落ち込んでいたんだろ」
「僕は……諦めてなんかいない!」
「だったら、こんな場所で燻っているなよ。あの魔族の女は死んだわけじゃないんだろ? 場所も時も違うかもしれねぇが、探し出せよ。今すぐなじゃなくても、いつか必ずな。そんな、諦めないヴォルがあ・あたしは好きだぜ」
そうだ……
エーデ師匠は死んだわけじゃない。
今は、場所も時代も分からないけど、エーデ師匠は必ずそこで生きているはず。
だったら僕は、それを見つけて迎えに行ってやらないと。
「パトル、ありがとう。僕、このまま挫けるところだったよ」
「お、おう。ヴォルが元気になってくれればそれでいいさ」
「……? パトル、顔が赤いよ? あ、そう言えば、さっき最後の方でなんて言ってたの? ごめん、よく聞いてなかったや」
「な、何でもない! 大したことを言ってないから! って、モコ! アリエス! 何をニヤニヤしているんだ!」
パトルに言われて見れば、2人ともニコニコしていた。
なんか楽しいことがあったんだろうか?
……パトルには感謝だね。
うん、エーデ師匠、いつか必ず見つけ出すから。
それが、僕がエーデ師匠に育ててもらった恩返しだ。




