034.S級冒険者
僕は今、魔女の森の前に居る。
勿論、それはエーデ師匠を討伐しに向かうS級冒険者を迎え撃つためだ。
結局のところ、僕が出した結論はS級冒険者を倒す事だった。
うん。頭の悪い答だって分かっている。
でも、僕が今できるのはこれだけだから。
集めた情報をもとに考えると、どうしてもこれしか思いつかなかった。
S級冒険者、『風雷姫』イチカ・ファーストクラス。
【風魔法】と【雷魔法】の2つの祝福を受けし者。
7歳の時に冒険者登録をし、僅か13歳でS級冒険者に認定。
何故か魔族を酷く毛嫌いし、人魔大戦が終了した後も世界中の魔族を狩って回っている。
S級冒険者は他の冒険者とは一線を画すと言われているだけあって、幼いころに冒険者登録をしてたった6年でS級までに上り詰めている。
そしてS級は規格外と言われるだけあって、奇人変人が多いとも。
その奇人変人という点で見れば、『風雷姫』は魔族嫌いという事になる。
彼女はどんな理由があろうと、どんな事情があろうとも魔族を狙い、これまで全て倒してきていると言われている。
今回のエーデ師匠の討伐――領主様による魔女討伐の依頼は、元々魔女討伐を出来る者を探していたらしい。
ただそれは、強制ではなく出来ればと言う形で冒険者ギルドに依頼されていた。
しかし、もう1つの懸念事項であった『十三番目の狐』が壊滅してたため、ならばと確実を期すためS級冒険者を呼ぼうとなったのが経緯だ。
但し、S級冒険者は先ほども言ったように、元々数が少ない上に奇人変人が多数を占めていて、所在も不明な者が多かったりする。
だけど、魔女――魔族を討伐すると言う事で、『風雷姫』が名乗りを上げて領主様の強制依頼を受けたのだ。
クロム・ハートの情報によると、2日後にザースディーンの町に『風雷姫』が到着し、領主様の館で体を休めた後、エーデ師匠の討伐に向かうとの事。
出来れば話し合いで解決したかったけど、僕が『風雷姫』と顔を合わせる機会は殆ど無く、こうしてエーデ師匠の討伐に出向くところを待ち伏せするしかなかった。
万一にも見逃せないと、万全を期して今から魔女の森の前に居るわけだ。
そうして丸2日ほど魔女の森の前に居を構えていたんだけど、まさか本当に2日後に訪れて直ぐに魔女の森に向かってくるとは思わなかったよ。
今、僕の目の前にはS級冒険者『風雷姫』イチカ・ファーストクラスが立っていた。
金髪のストレートには一房だけ緑の髪が混じっている。
顔はやや釣り目の整った美人だ。
背は高く、僕よりも10㎝も上の170㎝以上もあるように見える。
格好は、魔法系のスキルの為、体には鎧の類は一切つけておらず、腕と脚には革の篭手と脛当を付けているくらいだ。
あとおっぱいは普通。Cカップくらいかな?
そんな『風雷姫』が森の前に立つ僕に声を掛けてくる。
「そこをどいてもらえませんか? 私はこの森の奥に用があるのですが」
「初めまして、『風雷姫』イチカ・ファーストクラスさん。僕はヴォル。E級冒険者です。申し訳ないんですが、貴女を森の奥に行かせるわけにはいかないんです」
「理由を聞いても?」
「貴女は領主様の強制依頼を受けてこの森の奥に居る、魔女の討伐の為にここへ来たんですよね。僕はそれを阻止しに来ました」
僕の答えに『風雷姫』は目を細め、僅かに殺気を飛ばしてくる。
「魔女は魔族、それを分かっていて私の前に立ち塞がると言うのですか」
「魔女は確かに魔族です。ですが、彼女は人族の味方です! この町も魔女の協力によって発展してきました。だから僕は貴女を止めに来たのです」
僕は必死になってエーデ師匠が人族に敵対する魔族じゃない事を訴える。
多分無理であろうけど、説得で引いてもらえるのならそれに越したことはないから。
「貴方は魔女が魔族だと知っているのですね。しかもそこまで詳しいとは、魔女との関わりがあるのですね」
「……っ! 確かに、僕は魔女とは面識がある。だから分かるんだよ。彼女は人族に害をなす魔族じゃないって!」
段々と『風雷姫』から放たれる殺気が強くなってきているのが分かる。
それに伴って、彼女の周りに風が集まり始め、空気に電気が帯びたようにピリピリしてきた。
「人族に害をなさない魔族? 関係ありません。魔族は魔族です」
「人族だって悪人は居る。魔族にだって人族に害をなさない善人だって居るんだよ。貴女はそんな人も倒すのかよ」
「言ったはずです。そんなのは関係ありません。魔族は殺す。ただそれだけです」
……っ、ダメだ。
やっぱり話が通じない。
S級冒険者『風雷姫』は、魔族に関してだけは異様な執着を見せると言う。
例えどんな理由があろうと、事情があろうと一切聞く耳を持たないと。
「1つだけ質問をします。貴方と魔女の関係は?」
どうしよう。
今ならまだ引き返せると思う。この答え次第によっては。
エーデ師匠も言ってたじゃないか。
関りを否定して、普通の一般人として、普通の冒険者として生きろと。
……………………だけど、そんなのはあり得ない。
ここでエーデ師匠との関係を否定してたまるか。
僕が今、こうして冒険者としてやっていけているのはエーデ師匠のお陰なんだ!
だから僕は胸を張って答えよう。
「魔女の森の魔女は、僕の師匠だ!」




