033.クロム・ハート
僕はエーデ師匠に追い出されて、トボトボとザースディーンの町へ戻ってきた。
エーデ師匠には手を出すなと言われたけど、だからと言ってこのまま指をくわえてみているつもりはない。
確かにエーデ師匠の言うことは分かるけど、人族とか魔族とか関係なしに、世話になった人を――特に師匠である人を――助けることは"人"として間違っていないと思う。
うん、そう考えたらちょっとは元気が出てきた。
まずはエーデ師匠の討伐依頼を受けたS級冒険者の情報を集めて、どう対処するか、どういった落としどころを見つけるかを探らないとね。
そう考えながらイーストザースディーンの冒険者ギルドに併設された酒場へと戻って来たけど、そこにはいつのもパーティーメンバー――パトル、モコ、アリエスの3人はいなかった。
あー……そっか。そりゃあそうだよねぇ。
僕がやろうとしていることは、世間一般では人族として間違っていることだもんね。
おまけに今回の魔女討伐は領主様直々の強制依頼だし。
魔族に味方し、領主様に逆らう人には誰も付いてこないか。
折角集めたパーティーメンバーだけど、見捨てられちゃったなぁ……
パンッ
僕は頬を叩いて気合を入れ直す。
今は落ち込んでいてもしょうがない。
反省は後にして、今はエーデ師匠を助ける事だけを考えよう。
僕は早速、魔女討伐の依頼内容の詳細を知るため、ある場所へと向かう。
僕が訪れたのは、ウエストザースディーンの一角にある酒場だ。
少し寂れた場所にある少々年季の入った建物に居を構える酒場には、それなりに人が集まっていた。
見た感じ、冒険者が大半を占めていたけど、旅人や商人と言った人たちも見える。
と言うか、真昼間から酒盛りなんて、旅人は兎も角、冒険者や商人たちは仕事は良いんだろうか?
まぁ、冒険者は自由な職業でもあるから別に我武者羅に依頼を受けなくてもいいんだけどね。
僕は店の様子を窺いながらカウンターへと座る。
カウンターの奥で配膳やらつまみやらの作業に追われているマスターが僕をじろりと見ては声を掛けてくる。
「初めて見る顔だな」
「うん、ちょっと知り合いからの紹介でね」
まだ成人したての子供ともいえる僕がこんな酒場に来るなんてことはないんだろうね。
まぁ、直ぐに興味を失ったのか、マスターは注文を聞いてくる。
「ふん、そうかい。これからも贔屓にしてくれるとありがたい。それで? 何を呑む?」
「ブラック・ルシアンを。シロップ多めで」
その言葉にマスターは再び僕を凝視する。
「……へぇ、それを頼むのか。若いの、通だな。なるほどなるほど」
ドキドキ。通じたかな?
マスターは直ぐに僕の前にカクテルを置く。
「ゆっくりしていきな」
それ以降、マスターは僕に話しかけることはなかった。
まぁ、それなりに賑わっているから忙しいんだけど。
僕は出されたカクテルをちびちび飲んで待つ。
シロップ多めなんて頼んだから、甘い。
これ、お酒って言えるのかな……?
そうして待つ事暫し。
「先日ぶりだな。ヴォルの旦那」
「あ、良かった。呼び出しの合図、間違ってなかったんだね」
僕の隣に座った男は、クロム・ハート。
一見どこにでもいる普通の男に見えるけど、その正体はつい先日『十三番目の狐』の壊滅した気を狙い、うまい具合に後釜に座った『鋼竜の晩餐』のメンバーだ。
つまり、西大陸のプラチナナイト帝国の裏の組織『黒の機関』のメンバーだったりする。
実は、クローディアから今後の事を考えると諜報員の協力者が必要だと言うので、『鋼竜の晩餐』のメンバーを紹介してもらったのだ。
『十三番目の狐』が壊滅した後の周辺盗賊団の情報を教えてもらったのも、このクロム・ハートから。
「それで、今回は何を知りたいんだ?」
クロムもマスターから飲み物を頼み、周囲に気取られないよう普通の雑談をしている風を装い、早速呼び出した理由を聞いてきた。
「うん、冒険者ギルドに領主様からの強制依頼である魔女の森の魔女の討伐が来ているんだけど、その詳細だね。特に依頼されたS級冒険者について」
「へぇ、ヴォルの旦那が次に狙うのはS級冒険者か」
「狙うって人聞きが悪いな。やむを得ない事情があるから詳しく知りたかったんだよ」
「その事情ってのは師匠を助ける為か。大変だな、師匠が魔族だと」
僕はその言葉に一気に気持ちが戦闘モードへと切り替わる。
「おっと、別にヴォルの旦那と敵対するつもりはないよ。少しでも俺が有用だと分かってもらうためさ。だからその殺気を収めて欲しいな」
言い換えれば敵に回った時は容赦しないと。
とは言え、実際クロムが使える人物なのは間違いない。
仲間以外喋ってなかったはずのエーデ師匠の正体に辿り着いていたんだから。
僕は気持ちを落ち着ける。
逆にエーデ師匠の事を知っているのなら話は早いかも。
「それで、魔女討伐の依頼の詳細は?」
「ああ、それは――――――」
クロムから領主様がエーデ師匠を狙った経緯、冒険者ギルドの対応、依頼されたS級冒険者の詳細などを詳しく聞く。
情報料としてクロムに周囲に目立たないようにお金を払いながらカウンターを立つ。
「ヴォルの旦那、気を付けろよ。S級は総じてどいつもこいつもヤバい奴らばかりだ。普通じゃない。そんな奴を相手にするんだ。死ぬなよ」
「死なないよ。そんなつもりは無いし。と言うか、情報屋なのに僕の心配をしてくれるんだ」
「そりゃあ、ヴォルの旦那はクローディア様からの紹介だし、俺の勘が言っているんだ。ヴォルの旦那はお得意様になるってな」
クローディア様?
まぁいいや。
必要な情報は手に入った。
後はどうにかしてエーデ師匠を守らないと。




