028.頭領
整理整頓された部屋の一角、ソファーに男がふんぞり返る様に座っている。
『十三番目の狐』の頭領であるカウボーイだ。
名前にボーイと付いてはいるが、目の前の男は立派な青年だ。
まぁ、数年前は少年だったかもしれないけど。
賞金首の手配書にある似顔絵の通り、黒髪黒目の風変わりの容姿に一種の凄味のある雰囲気を纏っていた。
「どこのどちら様で? ここは私の家です。勝手に上がってもらっては困るのですが」
「僕たちは冒険者だよ。まぁ、勝手に上がったのは申し訳なかったけど、僕たちがここに来た理由は分かっているよね?」
冒険者、その言葉を聞いたカウボーイはそれで察したのか深いため息をついた。
「居るんですよね。年に1回か2回は。自分たちの実力を過信して私に挑む愚か者が」
「まぁ、これまではそうだったんだろうね。だけど今回は今まで通りとはいかないよ。今日で『十三番目の狐』は終わりだよ。もう既に幹部5人は捕まえている」
「今日は組織の動きがおかしかったのはそれが原因ですか。困りますね、勝手な事をして」
いや、勝手もなにも悪事を働いている輩に断りを入れる必要はないでしょ。
カウボーイに言ったように、既に幹部5人は捕まえている。
サルサ襲撃の後、『流通』担当のミ・ホースと『強奪』担当のティガーの2人も問題なく捕まえた。
そして今、クローディアの情報の元、ウエストザースディーンにある繁華街から少し離れた屋敷を拠点とする、『十三番目の狐』の頭領カウボーイを捕らえに来ていた。
「言っておきますが、私には誰も勝てませんよ」
そう言うと、カウボーイは僕たちの目の前から姿を消す。
部屋の壁に立て掛けていたグレートソードも見えなくなっていた。
カウボーイが瞬間移動とかでこの場を逃げたとかじゃない。
文字通り姿を消したのだ。
普通であれば慌てるところだけど、僕たちは落ち着いて様子を見ていた。
何故なら、これもまたクローディアの情報にあったからだ
カウボーイのスキルは【石法師】。
かつて勇者パーティーが苦しめられた魔王軍の幹部が所持していたスキルでもある。
特に厄介なのが、【路傍石】と言うスキルだ。
これはそこら辺にある石が気にならないのと同じで、目の前に居るのに居なくなったと同じ効果を発揮するスキルだ。
つまりいきなり透明人間になったのと同じという事でもある。
おそらく、この【路傍石】で数々の襲撃や討伐隊を退けたんだろう。
本来であれば、僕たちもこのスキルの前に手も足も出なかったんだけど、今は違う。
一見無敵に見えるような【石法師】だけど、弱点が無いわけではない。
【ストーンコレクター】と言うスキルには【路傍石】は効果を発揮しない。
石に注目するスキル故に、路傍の石にすら目を付ける為だ。
勇者パーティーの中に、このスキルを持つ者がいたため魔王軍の所持者に対抗できたと言われている。
そしてもう1つ、同じ【石法師】には当然【路傍石】は効かない。
普通であれば、【石法師】のスキルを持つ者は簡単には居ないんだろうけど、僕たちにはスキルを真似る【ものまね師】のモコが居る。
今やLv99となったモコの【ものまね師】は【石法師】を真似るのだ。
カウボーイが消えたのと同時にモコも動く。
剣を抜き、誰も居ないと思われる場所に一振り。
ギンッ
剣と剣がぶつかる音がして、カウボーイが姿を現した。
「……馬鹿な。私の姿が見えるのですか」
「残念だけど、あんたの【路傍石】は効かないよ」
「……っ! 何故、私のスキルを知っているのですか。どこから情報が漏れた……?」
それでも僕の言葉が信じられないのか、再び姿を消すカウボーイ。
「無駄です。私には貴方の姿が丸見えです」
モコの目にはその場を移動するカウボーイの姿をしっかりと映っているらしく、僕たちの背後に回り込む前にモコが再び立ち塞がる。
「【スラッシュ】です!」
モコの一撃がカウボーイに決まり、再び姿を現す。
脇腹を抑えたカウボーイが忌々し気にモコを睨める。
「どうやら本当に私の姿が見えるようですね。ですが舐めないでいただきたい。私が【路傍石】だけ頼りに『十三番目の狐』をここまで大きくした訳ではないのですよ」
そいう言いながらカウボーイはチェストの上に飾ってあった女神像を手に取り、キーワードを口にした。
「女神像よ、我に癒しを。『ヒール』」
すると脇腹の傷があっという間に治る。
「回復アイテムか! 厄介なものを持ちやがって」
姿を消すのを辞めたカウボーイを前に、パトルも両のグレートソードを構えて対峙する。
僕も剣を抜こうとしたけど、それほど大きくない部屋でグレートソードを構えるカウボーイとパトルだけで動きが制限されてしまっていたので、パチンコ玉で支援することにした。
モコもパトルとカウボーイの前に剣を振り回すスペースが無いので、【路傍石】だけを注視するようにしていた。
アリエスは……【極大魔力】での魔法を少し制御ができるようになったけど、流石にこの部屋の中で魔法を使う訳にもいかず、後ろに下がって様子見だ。
「私は『十三番目の狐』の頭領です。剣の腕も一流だと思い知りなさい」
カウボーイがグレートソードを構えてパトルに襲い掛かる。




