027.『荒事』担当サルサ
僕の言葉に周囲はシンッとなる。
特にザインなんかはポカンと口を開けて呆けていた。
「……は、ははっ、言うに事欠いてコサインさんが『十三番目の狐』の幹部だと? ふざけるのも大概にしろ。ねぇ、コサインさ……」
そう言いながらコサイン――もうサルサでいいや――の顔を窺ったザインはその言葉の途中で口を噤んでしまった。
あまりも真剣なサルサの表情に、何も言えなくなったようだ。
「……何故分かった。慎重に慎重を重ね、バレないように動いていたはずだけどな」
「こっちには優秀な諜報員がいるんでね」
うん、本当にクローディアはいい仕事をしてくれたよ。
「ちっ、バレてしまったのなら仕方ねぇ。ここで口を封じさせてもらうぜ」
「何言ってんだよ。元々そのつもりだったくせに」
僕たちが『十三番目の狐』の幹部2人を捕まえて、まだそれほど時間は経ってない。
幹部2人が居なくなった原因を突き止める真っ最中のはず。
それなのに、サルサは真っ直ぐ僕たちを狙ってきた。
おそらく、イーストザースディーンの冒険者ギルドで会った時、僕たちが盗賊団を狙うのを知って目を付けていたんだと思う。
それがたまたま幹部2人が居なくなった原因と結び付けたと。
「おう、おめぇら! お前らは『十三番目の狐』として見られた。もう言い訳は出来ねぇ。こうなりゃあ、行くとこまで行くぜ。いいな、ザイン」
サルサが引き連れた冒険者の何人かは、本当に『十三番目の狐』とは関係ない人たちだ。
それを、正体がバレたのをいいことに無理やり『十三番目の狐』の構成員として後戻りをさせないつもりだ。
ザインは本当にサルサが『十三番目の狐』だとは思わなかったんだろう。
戸惑っているのが目に見えてわかる。
僕はザイン以下、数人の名前を告げる。
「今名前を言った『十三番目の狐』と関係ない冒険者はサルサに手を貸さず、今この場から離れるのであれば『十三番目の狐』と無関係だとする。サルサに手を貸すのであれば、『十三番目の狐』と見なし、捕まえる」
ザインを除く数人は、自分は関係ねぇとばかりに脱兎の如く逃げ出した。
「バカか、あいつら。たった4人相手に逃げ出すなんて腰抜け共が。まぁいい。後で見せしめが必要だな。ザイン、お前はどうする?」
僕たちにビビって逃げたと言うより、『十三番目の狐』の関係者だと思われるのが嫌で逃げたと思うんだけど。
唯一逃げなかったサルサの子分と化していたザインは、僕とサルサを交互に見て迷っていた。
「ザイン、今ならまだ引き返せる。こいつに手を貸すのは辞めなよ」
「ザイン、お前はこいつに借りがあったよな。今なら遠慮なしにやれるぜ」
ザインの『十三番目の狐』の仲間になりたくない。だけど僕にはやられっぱなしで下に見られたくないと言う気持ちが手に取るようにわかる。
「ヴォル、お前お人好しだな。アイツに散々馬鹿にされてきたのに助けるつもりかよ」
「あんな奴でも僕の同郷だからね」
パトルは呆れていたけど、やっぱり幼いころ供に育った仲間でもあるからね。
だけど、僕のその言葉が癇に障ったんだろう。
「お前に同情されてたまるか! いいぜ、なってやろうじゃねぇか、『十三番目の狐』にな!」
あのバカ……! 感情に任せ道を誤りがやがって。
「交渉決裂、だな」
パトルは嬉々として背中の2本のグレートソードを抜き放ち、構える。
「くくくっ。いいぜ、ザイン、お前は俺たちの仲間だ。おう! おめぇら、やっちまえ!」
サルサの言葉に手下の冒険者たちが僕たちに襲い掛かる。
「あいつ、いつも噴水のとこで芸をしている女だぜ」
「はっ、大道芸人が相手かよ。話になりゃしねぇぜ!」
「サルサさん、女は好きにしていいんだろ?」
そう言いながらモコ狙いのようだ。
他にも数人、パトルに流れていく。
モコも剣を抜いて構え、アリエスも後方支援として魔法を放つ準備をする。
サルサの手下の冒険者の皆さん。相手がモコだとあんたたちに勝ち目はないよ?
僕たちの中で最強なのは【ものまね師】Lv99になったモコだからね。
僕は手下の冒険者たちをパトルに任せ、ボスであるサルサに向かう。
だけどその前にザインが立ち塞がった。
「ヴォル! お前は許さねぇ! お前の所為で俺は冒険者じゃなくなった。これからは日陰者として生きていかなきゃならなくなった! 全部お前の所為だ!」
「いや、自業自得でしょ。人の所為にしないでよ」
ザインは僕の言葉に耳を傾けず、怒りに任せて剣を振るう。
だけど僕はザインの攻撃を【回転】で剣を回して軽くいなし、そのまま【回転】を加えた回し蹴りで思いっきり鳩尾を蹴り、ザインを吹き飛ばす。
さて、邪魔者は居なくなった。
「覚悟するんだね」
「てめぇ如きに俺様の栄光の道を邪魔されるとはな。五体満足でいると思うなよ」
サルサが剣を抜いて攻撃してくる。
確かにザインより力強く鋭い攻撃だ。
伊達にC級冒険者じゃないね。
だけど僕の敵じゃない。
【回転】を使った体裁きに、【回転】の威力を使った攻撃。
幾つもの斬撃がサルサを襲う。
ギャリギャリギャリッ!
ん? とても人体から出る音じゃない音が出た。
革鎧など防具が覆ってない部分を斬りつけたんだけど、手応えが鉄を斬りつけたような感触だった。
「ははっ、どうだ。俺様の【頑強】は。てめぇの攻撃なんざ1つも通じねぇぞ」
なるほど。
どうりで僕の攻撃が簡単に通った訳だ。
どうやらサルサは【頑強】のスキルにかまけて防御を疎かにしていたみたいだ。
まぁ、それでこれまでやってこれたので馬鹿に出来ないけど。
【頑強】のレベルもかなり高いんだろうな。
刃物での攻撃なのに、付いたのは僅かな赤い痣くらいだし。
「手古摺っているな。手を貸そうか?」
パトルが両肩にグレートソード担ぎながら声を掛けてきた。
見れば、パトルもモコもアイリスもサルサの手下の冒険者を全員下していた。
「なっ!? たった3人であいつらを倒した、だと……? あり得ねぇ。C級D級の奴らなんだぞ。E級なりたての奴に負けるはずはねぇ」
サルサは目の前の光景が信じられずにいた。
うーん……、『荒事』担当だから相手の強さを見る目があるかと思ったんだけど、ただの脳筋みたいだったね。
「大丈夫だよ。直ぐにケリをつけるから」
「あ゛ 言ってくれるじゃねぇか。てめぇの攻撃は通じないくせによ」
僕のあっさり告げた事に、サルサは額に青筋を立てて威嚇してくる。
まぁ、自慢の【頑強】があるからのこの強気だけど、残念だけどその【頑強】を破らせてもらうね。
僕は地面に手を当て、砂を【回転】させて集めて右腕に纏わりつかせる。
形状は円錐状。
見た目は腕に砂で出来たドリルを付けた形だ。
「な、なんだ、それは」
流石にヤバいと感じたサルサは防御の姿勢を取ろうとしたけど、慣れない防御は簡単に僕に突破され、右手に纏わせた砂のドリルをまともに喰らう。
「『サンド・パイルバンカー』!」
ギャリギャリギャリギャリギャリギャリッ!!
「ぐおおおおおおおおおおおおおっ!?」
サルサは腹筋を張るような姿勢で僕の攻撃に耐える。
うん? 僕は今、サルサに右腕を突き付けて攻撃しているから、手の届く範囲に居るんだけど、サルサは耐える姿勢のまま攻撃してこない。
せっかくの反撃チャンスだと思ったけど、どうやら防御で耐える姿勢のまま動けないみたいだ。
だけどその均衡も僅か。
ザリッ
遂に【頑強】の防御を突破し、サルサの体に砂のドリルが突き刺さる。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」
サルサは体に穴をあけ、血をまき散らしながら悶え苦しむ。
「おお、けっこうエグイ攻撃をするな、ヴォル」
「これ、出血多量で死にませんです?」
「砂が体の中に入り込んで、治療も簡単にいかんだろう」
仲間からの評価が酷い。
僕、ボスを倒したから殊勲賞ものだよね。
まぁ、ともあれ、これで『荒事』担当のサルサは捉えられた。
残りは『流通』と『強奪』の2人の幹部と、頭領だけだ。




