025.十三番目の狐の情報
「まだ、来てないみたいだね」
指定された時間に小屋に来たけど、まだクローディアは来ていなかった。
「流石に1日じゃ『十三番目の狐』の情報は集められなかったんじゃねぇか?」
パトルは一緒に連れて来た子供フェンリルに構いながら言う。
なんだかんだで、パトルとモコは子供フェンリルの可愛さにメロメロだ。
「まぁ、クローディア曰く、『十三番目の狐』の情報は実質半日で集めるみたいだったからね。時間が足りないのは仕方ないよ」
「あら? そんなことは無いですよ?」
唐突にクローディアが現れ声を掛けられて僕たちは驚く。
「わぁっ!? またいつの間にっ!?」
「ついさっきです」
この登場の仕方は心臓に悪いよ。
「ふむ、それで協力者クローディアよ。ここに来たと言う事は『十三番目の狐』の情報を集めてきたと言う事か?」
「はい、お約束通り集めてきました。情報をお渡しする前に、わたくしのお願いである特殊な魔狼――フェンリルを連れてきてもらう事でしたが……」
「キャンキャン!」
クローディアが言い切る前に、子供フェンリルがクローディアに駆け寄った。
「ああ、マックス。見つかって良かったです。その姿の貴方と会うのは久しぶりですね。尤も貴方にとってはそれほどでもないかもしれませんが」
「クゥーン……?」
頭を大人しく撫でられながら子供フェンリル――マックスは首を傾げていた。
と言うか、探しに行かせるくらいだから飼い主かなとは思っていたけど、まさか本当にフェンリルを手懐けているとは。
「ありがとうございます、マックスを見つけてくださって。これで帰ることが出来ます」
「帰る、ですか? 帰るのにフェンリルが必要ってどういう事です?」
「そのままの意味です」
「それよりも! 『十三番目の狐』の情報はどうなったんだ?」
マックスを取られて面白くないのか、パトルはちょっと声を荒げる。
「そう慌てなくても大丈夫ですよ。これがその『十三番目の狐』の情報です」
そう言ってクローディアは1束に纏められた書類を僕に渡す。
僕はパラパラと書類をめくり、中身の情報を吟味する。
……凄い。
頭領の名前は賞金首で分かっていたけど、頭領の身体的特徴は勿論の事、性格、好み、戦い方、現在拠点にしている居場所、最近の行動記録などなどが明確に書かれていた。
そしてそれは頭領だけでなく、幹部5名もだ。
それ以外にも、『十三番目の狐』の隠れ家、倉庫、簡単な構成員の情報、闇ルートの販売経路などなど多岐にわたっている。
これだけの情報を半日で集めたのか?
凄すぎるよ。
僕はパトルたちにも書類を見せて情報を共有する。
「……スゲェ」
「これなら、本当に『十三番目の狐』を捕まえる事が出来るです……」
「なるほどな。この情報が本当なら頭領は捕まらないわけだ」
まぁ、確かに頭領の能力は厄介だけど、それはついさっきまでの話。
モコが【ものまね師】のLv99になった以上、対処は可能だ。
だけど、その肝心のモコの表情は優れない。
「どうしたんだ? モコ」
「いえ、前も話が出ましたが、『十三番目の狐』を捕まえた後の町の混乱が気になるです」
頭領と幹部にしろ、『十三番目の狐』そのものにしろ、その町で頭を張っていた盗賊団が居なくなれば、影響を与えていた町にも混乱するし、その周辺の盗賊団の勢力図が書き換わるため治安も悪くなる。
モコはそのことを心配しているのだ。
「その事でしたら心配ありません。『十三番目の狐』の頭領と幹部が捕まった後、『鋼竜の晩餐』と言う盗賊団が乗っ取り、ザースディーンの町周辺を支配することになります」
「待ってくださいです! それだと『十三番目の狐』が『鋼竜の晩餐』になるだけで、何も変わらないです!」
確かに。それだと名前が変わるだけで、やっていることはそれまでとは変わらないから。
「いいえ、大丈夫です。『鋼竜の晩餐』は仮の表の名。その正体は西大陸のプラチナナイト帝国非公認隠密組織『黒の機関』の東大陸派遣組織なのです」
「はぁ!? 何でプラチナナイト帝国が出張ってくるんだよ。ここの領地って太陽王国関連だろ。それとも縄張りを広げる為に手を出してきたって事か?」
パトルの言う通り、ここザースディーンの領地は太陽王国に関連している。
東大陸――ブロークンハート大陸の開拓は、ハーフハート大陸の各国々の出資によって成り立っている。
その為、東大陸の領地はそれぞれ出資している国によって治められている訳だけど……まぁ、当然の様にそれぞれの国の思惑やパワーバランスが関係したりしている。
今回の『鋼竜の晩餐』――ううん、『黒の機関』もそれ関係かと思ったけど……
「残念ですけど、これ以上は言えません。機密情報ですので。ただ言えるのは、国の思惑や支配地を増やしたいなどの野心からではありません。ただ純粋にザースディーンの町を思っての事です」
「信じられねぇ……」
確かに信じられないよね。
「でもいいんじゃない? 僕たちが心配することじゃないし。そう言うのは領主様に任せるって決めたよね」
「……だな。小難しい事を考えても仕方ないか。あたし達は『十三番目の狐』をとっ捕まえればそれでいいんだし」
パトルは頭をガシガシ掻きながらニカッと笑う。
「そんな……いい加減です。でも、私たちが考えても仕方ない事なのは間違いないです」
「吾輩はそれよりも、興味がそそられるな。その『鋼竜の晩餐』と言う盗賊団に」
「と言うと?」
「準備が良すぎる。吾輩たちが『十三番目の狐』を狙った後の後始末に予め『鋼竜の晩餐』が用意されていたように思える。まるで未来が見えていたかのようにな」
そう言うアリエスの言葉に、クローディアは微笑みながら否定も肯定もしなかった。
「さぁ、どうなんでしょうね?」




