023.魔狼
「そう言う事ですか……。確かにわたくしが関わる必要がありますね」
僕から手紙を受け取り、クローディアは一読すると小さなため息をつく。
「事情は大体把握しました。貴方方の目的は、盗賊団『十三番目の狐』の頭領と幹部の情報ですね。1日ほど時間を貰えるでしょうか?」
僕たちはぎょっとした。
何故なら、クローディアには僕たちの事情――『十三番目の狐』の事は一言も言っていない。
にも拘らず、クローディアは僕たちが『十三番目の狐』の頭領と幹部を調べていることを言い当てたのだ。
おそらくお婆さんからの手紙に書いてあるんだろうけど、お婆さんと会った時もその事は一言も言っておらず、おまけに手紙は僕たちが会う前から用意していたものだ。
それが何故。
そしてそれよりも、クローディアが1日で情報を集めると言い切ったことに驚いた。
「ちょっと待つです。1日で頭領と幹部の情報を集めるですか?」
「すみません。この手紙にはある程度のわたくしに関する事情が書かれてますが、半日ほどその情報の精査に充てたいので、その時間が貰えれば」
「いやいやいやいや! それだと半日で頭領と幹部の情報を集めるって言っているようなものじゃん! あり得ないよ!?」
「そうですか? 半日もあれば十分だと思いますが」
え~~~……
もしかして、この人、物凄く優秀な諜報員?
「良く分からねぇが、1日あればあたしたちの『十三番目の狐』の目的の情報が集められるんだな? じゃあいいじゃんか」
「汝パトルよ。お主はもう少し頭を使う事を覚えた方がいいぞ」
「またそれかよ。これと頭を使う事に何の関係があるんだよ」
あー、パトルの頭云々は兎も角、クローディアが出来ると言うのなら任せてみよう。
どちらにせよ、僕たちには情報屋の伝手はないから。
「分かった。クローディアがそう言うのなら任せるよ」
「ありがとうございます。その代わりと言うのもなんですが、お願いがあります」
まぁそうだよね。情報を調べるのに対価は必要だ。
お婆さんからのお礼のはずだけど、実際はクローディアはお婆さんのお孫さんじゃなかったからお礼は関係ないし。
いくら必要なのか懐具合を心配していたけど、クローディアのお願いは金銭関係ではなかった。
「魔女の森とかいう場所で、特殊な魔狼を保護してほしいのです」
……あれ? そんなんでいいの?
魔女の森は僕の庭みたいなものだ。
その特殊な魔狼は直ぐに見つかるだろう。
ただ、特殊な魔狼ってなんだろう?
そう思ったのは僕だけじゃなく、パトルが同様の疑問を口にする。
「特殊な魔狼ってなんだ?」
「それは、見れば分かると思います。最近、魔女の森で異変があったと思いますが、その特殊な魔狼が関係しています」
あー……、この前のゴブリンシャーマンはそうだったのか。
冒険者ギルドの調査じゃ変異は無いって話だったけど、その特殊な魔狼を見つける事が出来なかったって事なのか。
「汝クローディアよ。その魔狼を討伐ではなく、何故『保護』なのか理由を聞いても?」
「それは、わたくしが帰るために必要だからです」
何処に?と聞きたかったが、なんとなく察した。
クローディアが突然この場に現れたことと関係しているんだろう。
折角僕たちに協力してくれるのに、変に勘繰って不興を買いたくないし。
「ふーん、だけどその魔狼は特殊だと言ってもモンスターだろ? 襲ってくるのを保護しろなんて無茶苦茶言うね」
パトルの心配は尤もだ。
知性のあるモンスターは稀だからね。
「多少は言う事を聞かせる為に戦闘になるかとは思いますが、大丈夫ですよ」
そう言いながらくとーディアはある物を僕に渡す。
「ある程度力を見せた後、それを見せれば大人しく言う事を聞きます」
えー? これって……
僕は受け取ったものを訝し気に見る。
本当にこれで、大人しくなるのかな……?
「それでは、わたくしは情報収集にあたります。明日の同時刻にここで」
そういう言うと、クローディアは姿を消す。
現れた時と同じように唐突に。
「マジで何者だ? あいつ」
「ただ者じゃないのは間違いないです。ただちょっと……あのお婆さんと同じ雰囲気を感じるです」
「互いに手を組む事にしたのだ。今は頼もしい協力者が出来たと思う事にしよう。それよりも、協力者クローディアの要請に応えねば」
「だね。クローディアは1日で情報を集めてくるんだ。ぼやぼやしていたら僕たちの方が後れを取るよ」
僕たちは早速魔女の森に向かう事にした。
その特殊な魔狼が居ると思われる深部へと。
時間もないので、またバイクで3往復して目的の場所へと到着する。
「で、特殊な魔狼って何処なんだ? 見れば分かるって言ってたけど」
パトルは両手にグレートソードを持ち、周囲を警戒しながら見渡す。
隊列は、僕とパトルが前列、後列にはアリエスとモコ。
僕が索敵を行いながら特殊な魔狼を探す。
「んー……、魔狼……魔狼……特殊な魔狼……ね」
「どうしたんだ? ヴォル?」
僕の呟きが気になったのか、パトルが聞いてくる。
「魔狼と言えば、魔女の森ではグレイウルフ、フォレストウルフなんかが挙げられるけど、ゴブリンシャーマンが追い出される魔狼って何だろうって思ってね」
「だから特殊な魔狼なんじゃねぇの?」
「その特殊って言うのが気になったんだよ。上位の魔狼って言うと、ダークウルフ、ファングウルフ、ブラストウルフとかあるけど、特殊と言うのにはちょっと違うと思うし」
そもそも魔女の森の深部には魔狼は居ない。
せいぜい中部くらいの場所だ。群れで居るとしたら。
ん? 群れで?
と言う事は、群れじゃないのか。
そう思いながら探索していると、深部には無い魔狼の足跡を見つけた。
僕は仲間に合図し、そこから慎重に足跡を辿る。
そうして見つけた。
一匹の真っ白の魔狼――子供の魔狼を。
確かにただの魔狼じゃない。特殊な魔狼だ。
一目見て分かった。エーデ師匠から聞いたことがある。
その子供の魔狼は、魔狼の頂点にして神獣と言われた神狼――フェンリルだった。




