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タイタニア草(三)

 翌日、タマ子がやって来る。タマ子が気を使った様子で尋ねる。

「ヴァンさん、次は何を育てるだ?」

「肥料がまだ残っているから。もう一度、タイタニア草に挑戦しようと思う」


 マリーには手を引くと教えた。だが、ここで立ち止まれば先へ進めない気がした。

 タマ子が呆れた顔で説く。

「タイタニア草は難しいってわかったはずだあ。まだ、懲りてないだか?」


「悪いね。タマ子さん、僕は諦めが悪いんだよ」

「私はサポートだから、諦めが付くまで付き合うだあ。それがサポートの務めだあ」


 畑に残っているタイタニア草の根を引き抜く。

 タマ子が手を止めて、ヴァンとは反対の方角を見る。


「なしたあ、ライラ。何か用か?」

 タマ子が見ている方角を向くと、おどおどした態度のライラがいた。


 ヴァンから挨拶した。

「いい天気だね。ライラ。絶好の畑仕事日和だよ」


 ライラはもじもじしながら答える。

「ヴァンさん、あのね、今日は、お願いがあって来たの。錬金術で使うオルフェウス草の花が欲しいの」


 ライラが僕に委託栽培の申し込みか。

 信用を失った後の仕事だからな、邪険にはできない。かといって、安請け合いもできない。


 タマ子に尋ねる。

「オルフェウス草って難しいの?」


 タマ子はちょっと弱った顔をする。

「タイタニア草と比べれば、難しいことはなえ。ただ、ライラの家で使う量は、そんなに多くはねえ。余った分は商館に持ち込む流れになる。だが、オルフェウス草の価格は安いだあ」


「なら、畑を分割して使おう。ライラが必要とするオルフェウス草を作付けして、余った畑でタイタニア草を育てよう」


 タマ子はやりたくない様子だった。

「畑を分割して違う作物を育てる方針は、賛成できねえ。両方とも、肥料や水の必要量が違う。それに、オルフェウス草は虫が付き易く、病気にもなり易い」


「タイタニア草に被害が出るかもしれないのか。でも、まだ春先だよ。気温は低い。虫もまだ出てこないから、問題はないでしょう。病気には注意しよう」


「問題は、まだある、畑を区切って使うなら、使えない部分が出る。そうすれば収穫量に影響するだあ」


 ライラはしょぼんとする。

「やっぱり駄目ですよね。他でも断られました」


 断られて僕のところに来たのか。なら、追い返すのは可哀想だな。

「やるよ。オルフェウス草の栽培。それで、余った部分でタイタニア草を植えるよ」


 タマ子はヴァンを気遣ってか、良い顔をしなかった。

「いいんだか、ヴァンさん? 栽培に成功しても、儲けは少ねえど」

「やると決めたらやるよ。ライラは結果を待っていてほしい」


 ライラの顔が初めて輝いた。

「ありがとう、ヴァンさん」


 ライラが帰って行った。畑をどう分割すればいいか、タマ子と考える。

 タマ子が渋い顔で指摘する。


「タイタニア草が必要とする量の肥料を、オルフェウス草にやる。そんだら、オルフェウス草は確実に肥料焼けを起こす。オルフェウス草は生育不良になるだあ」

「土を掘り起こす作業は半分だけにしておけば、問題ないでしょう」


 タマ子は思案しながら語る。

「話はそんなに簡単ではねえ。今の畑には、まだ前回のタイタニア草を育てるためにやった肥料が残っているだ」


「土の入れ替えが必要なんですか?」

「万全を期すなら、土の交換をやりてえ。だども、土の入れ替えは、重労働だ。だから、肥料を適度に抜くため満腹ゴボウを植えるだあ」


 新たな精霊花の名前だね。でも、ゴボウなら食用にできるから、良いかもしれない。

「変わった名前の精霊花ですね」


「満腹ゴボウは三日で地下一mまで根を張る精霊花だ。生育が、おそろしく早ええ。腹持ちがええから、飢饉の際に植えられる作物だあ」


 普段は植えられない作物なんだな。何事も挑戦だ

「よし、さっそく、満腹ゴボウを植えよう」

「植えるのはええ。だども、満腹ゴボウをブラウニーは、買い取ってくれんぞ」


「収穫した満腹ゴボウは近所に配るよ。それでも余るなら、乾燥させて、ゴボウ茶にして自分で飲む」

「それなら、ええか」


 大八車を牽いてタマ子と一緒に商館に行く。

「満腹ゴボウの根を売ってください」


 苗や種を売るコーナーの三毛猫の獣人が困った顔をする。

「珍しい注文をしますね。でも、満腹ゴボウの根なんて、あったかなあ。最近、めっきり出なくなったから、あっても鮮度が落ちている気がする」


 タマ子がひょいひょいと倉庫の隅に行き指摘する。

「ほら、ここにあるだあ。鮮度は落ちとるから、価格は負けて欲しいだあ」


 三毛猫の獣人がタマ子の元に行くと、軽く驚く。

「本当だ。ここにあった。でも、いいんですか? 商館では満腹ゴボウの買い取りは、やっていませんよ」


「ええだよ。育った作物は、自分たちで処理するだあ」

 満腹ゴボウは十㎝ほどの細く小さい植物だった。上に飛び出ている葉も萎れている。


 これは、あまり質がよくないな。育つのかな。

 満腹ゴボウの根を百株買う。価格はナシュトル銀貨二十枚と、馬鹿に安かった。


 タイタニア草のために、追加の肥料と満腹ゴボウの根を買って帰る。

 満腹ゴボウの植え付けをすると、時間が中途半端になった。作業は終了となる。


 翌日、畑の半分をシャベルで掘り起こす。タイタニア草を植える準備をする。

 前回は見ているだけだったが、タマ子が勧める。


「今回は、ブラウニーの厳しい品質チェックがない。だから、ヴァンさんが肥料の配合をやるだ」

「やらせてください。お願いします」


 前回、見様見真似で覚えた肥料の混合を、一人で行う。

 タマ子は何も口出ししない。


 色を確認して味も見る。肥料と土を交互に掛けて三層にして、その日は作業を終える。

 満腹ゴボウが適度に土から肥料を吸い上げるのを、二日掛けて待つ。


 植えて三日目に満腹ゴボウを引き抜いた。

 満腹ゴボウは太さが四㎝、長さが一mにも生長していた。


 すごい生育が早い植物だな。これがあれば飢饉でも生きていけるわけだ。

 さすがに百本の満腹ゴボウは食べきれない。


 満腹ゴボウを抜き終えると、タマ子が村中に満腹ゴボウを配って歩く。

 ヴァンはタマ子が満腹ゴボウを配っている間に、タイタニア草の苗を買いに行った。


 タイタニア草の苗、二百株を買って帰った。タイタニア草の苗を植える。

 前回と同様にタイタニア草に希釈したメロメロの水肥を与える。


 シートを被せて雨に備えた。

 全ての作業を一人でやり終える頃にタマ子が戻ってきた。


「ヴァンさん、ただいま帰っただあ」

 タマ子は背負い籠に大量のゴボウを入れていた。


 満腹ゴボウはタダで配っても三十㎏ほど余っていた。

 思ったより人気ないな、満腹ゴボウ。ゴボウだから毎日、欠かさず食べるものではないか。


 満腹ゴボウの泥を落として、軒先に干す。

 タマ子が帰った後に、満腹ゴボウを軒先に置いたままにした。


 ダニエルが警告を発する。

「こら、作物を外に置いてはいかん。荒らされるぞ。ヴァンが被害に遭うだけならいい。だが、被害に遭えば隣人を疑う。だから、家の中に仕舞うんだ」


 ダニエルの言葉はもっともだと思ったので、従った。

「ご忠告、ありがとうございます」


 満腹ゴボウを家の中に入れて一晩を明かす。

 オルフェウス草の種を買ってくる。種は小さく、丸い朝顔の種に似ていた。


 種は数粒ずつ畑に播いて水をやった。

「ふー、これでやっと畑を分割して作付けができた」


 時間があるので、ゴボウを細く削って乾燥させる。

 タマ子が空を見上げる。


「これからはしばらく、晴れが続くだあ。ただし、雨には注意だあ」

「わかっている。同じ、失敗は二度しない」

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