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ドラゴン・ライチ(一)

 ヒンヤリ・レモンの在来種が収穫の最盛期を迎える。在来種の安定した収穫量に新種は敵わないので撤退を決める。枯れたので植え替える必要もあった。


 根を引っこ抜く牛は順番待ちだった。でも、運よくキャンセルが出たので借りられた。ふうふう言いながらヒンヤリ・レモンの根を引っこ抜いた。


 休憩時間にタマ子が教えてくれた。

「新種のヒンヤリ・レモンの根はブリトニーが買い取ってくれるだあよ。何か実験したいことがあるって噂だあ。価格は薪よりはマシって、程度だがな」


 レモンの木の部分は、薪にでもしよう。今から乾かせば、冬には乾いて良く燃えるだろう。

 根は買い取ってもらおう、薬効があって薬の材料になるなら村に貢献できる。


 タマ子はヒンヤリ・レモン入りのお茶をぐいっと一口、飲む。

「そんで、次は、どうするだあ? 時期的に今からなら、ディーネ西瓜や熔岩メロンの栽培もありだ。ただ、どちらも生産者の腕が出る作物だあ。古参農家の作るディーネ西瓜や熔岩メロンは高級品だが、ヴァンさんが作ると、それだけで安くなるだあよ」


 ブラントの果物は儲かるが、それには十年以上の研鑽がいる。名人農家はこの夏だけで一年分の利益を出すかもしれない。そんな、高収入農家になりたいものだ。


 夏は短いが、一日二日は考える時間がある。とりあえず、ヒンヤリ・レモンの根をブリトニーの家に売りに行く。


 ブリトニーは他の村人と買取交渉中だったので、ライラが対応してくれた。ライラはヴァンに慣れたのか、もう物怖じしない。挨拶をヴァンからする。


「こんにちは。ヒンヤリ・レモンの根を買い取ってよ。価格は、いくらでもいいから」

「こっちに運んでもらえると助かるわ」


 指定の場所に大八車を牽いて行く。ライラに良いとこを見せるために荷下ろしは一人でした。荷下ろしをしていると、手持ち無沙汰なライラが話し掛けてくる。


「次は何を作るのか、決めた?」

「まだだけど? 何か作ってほしいものがあるの? 今なら畑が空いているから作れるよ」


 ライラは数秒考えてから、返事をする。

「明後日に新種の苗が出るわ。新種のドラゴン・ライチ。成功すれば大きく儲かるわ」


 新種栽培の危険性は今回、わかった。避けたい気もするが『大きく儲かる』の単語に興味が湧いた。聞くだけならと思い尋ねる。


「ライチって高級果実でしょ。高いのは知っているけど、難易度は、どうなの?」

「新種は難しくないって触れ込み。まだ、試験段階で二回、結実しただけで枯れるそうよ。ただ、収量も一般的なドラゴン・ライチよりいいって話。まだ、情報が出回っていないから、成功すれば儲かるわ」


 美味しい話はない、が前回の教訓だった。また、『ここだけの話』は意外と皆が知っているか、嘘である。されど、ライラに否定的な言葉を掛けたくはない。タマ子なら『いい恰好っしいだあ』と呆れるだろうが、ヴァンは恰好を付けたい年頃でもある。


 ライラに礼を告げて家に帰る。さっそくタマ子に相談する。

「明後日にドラゴン・ライチの新種の苗が村に来る。試験栽培に参加しようと思うけど、どうだろう」


 タマ子は眉間に皺を寄せて否定的な意見を述べる。

「止めておくだあ。在来種でも、ドラゴン・ライチは難しい部類に入るだあ。ヒンヤリ・レモンより一段階は上だぞう」


「でも、ライラの話では新種の栽培は簡単だって」

 タマ子はツンとした態度で反論する。

「ライラは百姓でねえ。作物の知識はあっても、経験がねえだあ。信用するな」


 タマ子さんは農作業に関しては容赦がない。タマ子さんの態度は百姓としての誇りから来るのかもしれないが、ちょっと頑な過ぎる。ヴァンは反発した。


「ヒンヤリ・レモンは成功ではなかったけど、失敗でもなかった。資金に余裕はあるよ」

 タマ子が口を尖らせる。


「余裕っていっても、少しだけだあ。二回続けて災害に当たると、すぐにピンチになるだあ。悪いことは言わねえ。止めておくだあ」


 無理にはやりたいとは思わなかったが、頭ごなしに反対されると反発心が湧く。タマ子がヴァンを認めてくれないようで、癪でもあった。やってみるか、ドラゴン・ライチ。


「新種は二回だけしか収穫できない。失敗しても成功しても尾を引かないから、試しに挑戦しよう」

 タマ子は呆れながらも折れた。


「どうしようもない博打うちだなあ。ええだよ。やりたいなら付き合うだあ。ただし、失敗しても、次こそは、とのめり込んだら、あかんぞう」


 流れからして成功は約束されていないが、ヴァンは高収益の夢を見た。翌日、ドラゴン・ライチ用の土にするために肥料を混合する。肥料は三種類の混合だった。肥料と土を混ぜながら、タマ子が語る。


「ルーカスはドラゴン・ライチを作った経験がなかっただあ。だから、私も微妙な匙加減がわからねえ。とりあえず、教科書通りの配合でいくだ」


 肥料は火属性土、金属性土、黒属性土の三種類の混合。比率は一対一対一の均等配分だった。土を柔らかくするために耕す。土を入れ替えても良かったが、何が良いのか不明なので、このままとした。


 翌日、村長の家からドラゴン・ライチの苗を貰ってくる。ドラゴン・ライチはヒンヤリ・レモンより大きくなる。苗の数は植える間隔を大きくとるので九株だった。協力金は前回より多く出た。ドラゴン・ライチを植えたあと、タマ子が講釈する。


「ドラゴン・ライチの育成に特別な作業は、ねえ。ただ、枝葉が、どんどん伸びるだあ。枝葉をまめに小さな鋏で選定するだあ。あと、虫が付き易いが、薬は使っちゃならねえ、手で一匹一匹、防除するだあ。あと、雑草も小さいにうちに抜くだあ」


 聞くだけなら難しくはないが、やたら人の手間が掛かりそうだった。

「この手の精霊木って、手を抜くと影響が大きいの?」


「うんだあ、一手間を惜しむと半分、二手間を惜しむと四分の一と言われとるだあ。無精者なら実すらならねえ」


 畑が大きいなら大変だが、百㎡なら一人でも管理できそうだった。タマ子がいれば問題ない。風邪でも引いて体調を崩せば立ちいかないが、健康には自信がある。


 一日、二日と作業をするが、順調だった。楽勝だと思ったら三日目に問題が発生した。三日目に畑に来たタマ子が申し訳なさそうに切り出した。


「すまねえ、ヴァンさん。実家のお父が屋根から落ちて大怪我をしたって連絡があっただあ。実家に戻ってもよかべかあ。十日ほど休みがほしいだあ」


 初めての精霊木でしかも新種の育成中である。また、手間も掛かる品種の栽培中にタマ子がいなくなる状況は不安でもあった。だが、タマ子の心配もわかる。誰だって親や子に何かあれば心配だ。


 今のところはドラゴン・ライチに問題はない。また、作業はだいたい覚えた。タマ子がいなくても作業は続けられる。ただ、精霊木は育つのが異常に早い。十日で何かあれば捨てなければならなくなる危険もある。タマ子なしで、一人で面倒を見きれるか?


 ヴァンは迷った。だが、段々、精霊木についてわかってきた自信がある。慢心や驕りかもしれないが、タマ子に休みを出すと決めた。


「実家に帰省してください。僕は早くに父と母を亡くしたので、親孝行ができませんでした。その寂しさと後悔は、人には、させたくありません」


 タマ子はペコリと頭を下げた。

「ヴァンさんはまだ村に来て一年も経ってねえ。そんなヴァンさんを一人にするなんて無責任と叱られても文句は言えねえ。だども、今回はヴァンさんの言葉に甘えさせてもらうだあ。きっと帰ってくるから、それまで辛抱してけれ」


 帰省をするなら早いほうがいい。まだ、今なら午後の飛行船が飛ぶ。ヴァンはタマ子を送り出した。

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