表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
21/29

焔ジンジャー(三)

 嵐を呼ぶ獣が退治され村に平和が戻った。シャーリーたち討伐隊は解散となる。シャーリーたちは次の仕事を探して村を去った。


 ヴァンには村から謝礼金が出た。タマ子と一緒に計算したが、謝礼金を取っておけば、今年の年は越せそうだった。これで、満を持して栽培に励める。


 伝説の剣がどれだけ土の力を吸い上げたか、わからない。土は二m掘って入れ替えた。土の入れ替えは重労働だが、村のために働いたので村人も手伝ってくれた。ヴァンは村の人との距離が縮まり、ほっこりした。


 タマ子と次は何を植えるか相談する。タマ子は空を見上げて、風の匂いを嗅いだ。

「夏の気配がするのう。夏は稼ぎ時だあよ。夏は果実系の精霊花を育てるのがよかべえ。夏の果実は、うめえぞう。高くも売れるだあ」


 作るのなら自分が食べても美味しい果実を作りたい。でも、その前に試してみたい精霊花もある。焔ジンジャーを作ってライラに返したい。ライラも今回、村のために協力してくれた。


 皆は認識していなかもしれない。だが、シャーリーが良くならなかったら嵐を呼ぶ獣を倒せなかった。ライラは知られざる功労者だ。誰か一人くらいライラを褒めてもいいはず。

「焔ジンジャーって、どうかな。今の季節でも育ちそう」


 タマ子は頭をコツコツ叩く。

「焔ジンジャーかあ? 今なら寒くないから、育つ。だども、あれは秋の終わりに作って売ったほうが儲かるだぞう」


「育つなら、焔ジンジャーで行こう。ライラに贈りたい」

 タマ子は反対しない。のほほんとした緩い調子で承認する。


「焔ジンジャーは難しい部類ではないだあ。畑の状態を勘案するに、試しに育ててみるかあのう。それもまたよしだあ」

「できれば、大振りの立派なのがほしい。トロフィーのようなのが育つといいな」


 畑の状態も見られるのなら、焔ジンジャーで良い。さっそく、種生姜となる焔ジンジャーと肥料を買ってくる。焔ジンジャーは儲けにならないが、初期投資も安く済んだ。肥料と土を混ぜてから、畝を作る。地面を五十㎝ほど掘って埋めた。


 間隔は広めに開けた。焔ジンジャーが大きく育っても問題ないようにしておく。ライラには、分けてもらったのと同等もしくはそれ以上に立派な焔ジンジャーを渡したい。見栄でもあるし、感謝でもある。


 夕方前には焔ジンジャーは植え終わった。久々の農作業は心地よいと思った。タマ子が機嫌も良く教えてくれた。

「焔ジンジャーが売り物になるには五日は掛かるだあ。大振りなのが育つとええのう」


 タマ子と別れて夜に寝ていると、ゴツンゴツンと天井を叩く音で目を覚ました。あまりの音の大きさに驚いた。音は激しくなり、天井が壊れそうだった。ガンと音がして暖炉からリンゴのような塊が入ってきた。塊は生きているかのように床の上を走った。


 あまりの勢いの良さに足がすくむ。塊の動きが止まった。天井を叩く大きな音は続いている。恐々と灯りを点けて相手を確認する。


 相手は氷の塊だった。リンゴ大の雹なら屋根を大きな音を立てて叩くのはわかる。外にいるダニエルが心配だったが、窓を開けて雹の塊が頭を直撃すれば命に関わる。助けようとして、こちらが大怪我したなら、ダニエルにも迷惑が掛かる。雹が降る時間がとても長く感じた。


 音が止んだので窓を開ける。ランタンの灯りで外を照らすと、地面が雹で真っ白だった。暗がりにダニエルの姿か見えない。ダニエルが破壊されて雹の下敷きになったかと恐れる。頭がきゅーっと締め付けられるほどに苦しい。


「ダニエル! 無事か? 無事なら返事をして」

 数秒の無言の暗闇がヴァンを襲った。

「吾輩なら無事だぞ。飛んだ帽子を拾いに行っていた」


 ダニエルが無事でほっとした。ダニエルはただの案山子ではない。壊れたからまた作ればよい、では済まない。ダニエルはルーカスの友であり、ヴァンの先輩でもある。


 ダニエルが姿を現すと、衣装がところどころ破れていた。雹が当たった証拠だ。ダニエルは残念そうに空を見上げる。


「嵐を呼ぶ獣が倒れたのが原因だな。反動で天候不順になった」

「怪我したところとか、痛いところはないか?」


「ここは魔境のヌッコ村。これぐらいでやられるようでは、案山子なぞできないぞ。衣装が破れたのが残念だがな。お気に入りだったので、衣装の破損は、えらい損害だ」


 ダニエルの服がいくらかはわからない。新品を買ってもいい。もし、お気に入りで着つづけたいなら、村で裁縫が得意な人に手間賃を渡して縫ってもらおう。


 ダニエルの無事は確認できたが、畑がどれほど被害を受けたかはわからない。焔ジンジャーは寒さに弱い。雹は氷の塊だ。最悪、全滅したかもしれない。

「ヴァンよ。詳しい状況は吾輩にはわからんが、今なら、まだ間に合うかもしれないぞ」


 初日なので種生姜となった焔ジンジャーを捨てて新たに植え直す手もある。手を付けたくないが、謝礼金もそっくり残っている。だが、ヴァンは、家から軍手と麻袋を引っ張り出した。畑から雹の塊を取り除く。


 こんなことをしても無駄かもしれない。でも、焔ジンジャーは生きている。ゴミにはしたくない。畑から雹を取り除いた。重労働だった。


 暖炉から家の中に飛び込んできた雹はリンゴの大きさ。だが、畑にはそれより大きい、小玉メロンぐらいの雹も、ごろごろしている。


「大丈夫、畑は広くない。大した仕事ではないさ」と自分に言い聞かせた。はあはあ、と言いながら作業をしていると、灯がヴァン目掛けて走ったきた。灯りの正体はタマ子のランタンだった。タマ子は開口一番、嘆いた。


「これはひでえなあ、村で一、二、を争う雹の被害だ」

 ヴァンの畑の被害が大きい理由は、嵐を呼ぶ獣を倒すための剣の生育が原因かもしれない。嵐を呼ぶ獣の最後の呪いのようなかもしれない。だが、嵐を呼ぶ獣はいなくなったので、これ以上の被害は出ないと悪い想像は止めた。


「できるだけの作業はするよ。まだ、いくらか焔ジンジャーを救えるかもしれない」

 剣士には剣士の戦いがあるなら百姓には百姓の戦いがある。タマ子は意気込んだ。


「よっしゃ、なら、さっさとやるだ。朝日が昇れば気温が上がるだあ。融けた冷たい水を焔ジンジャーに掛けるわけにはいかない」


 二人でせっせと氷の塊を畑の外に出した。焔ジンジャーはすでに小さな葉を出していた。けれども、葉は無残に押し潰されていた。無事な株は一つもなかった。


 朝日が上がる頃には惨状は明らかになる。焔ジンジャーは全滅に思えた。ヴァンが落ち込むと、タマ子が慰める。

「私の見立てだと、三分の一くらいは土の中でまだ生きとるだあ」


 ちょっぴりだが希望が湧いた。タマ子が言葉を続ける。

「だが、地下にある根が大振りになることはねえだろう。どうするヴァンさん?」


 ライラに大きな焔ジンジャーを返したかったが、諦めるしかない。こうなれば、数を揃えよう。恰好が良くないができたものを全部、持って行って、喜ばそう。


 五日間掛けて育てたが、茎は細い。地上に出た葉は目に見えて小さかった。掘り起こしての収穫をするが七割が地中で腐っていた。


 生き残った焔ジンジャーは小さい。ブラウニーに持って行けば、一山いくらだろう。あまりにも見窄らしい成果に、泣きたくなった。

「こいつは、ええぞ」とタマ子が声を上げる。


 見れば、大根のように立派な焔ジンジャーがあった。あまりの大きさに、目を見張った。おそらく、雹の被害を幸運で免れたものだ。周りの焔ジンジャーがダメになったので栄養も独占になったのだろう。


 成功した一つだけを持って、ライラに会いに行く。ライラもあまりに見事な焔ジンジャーにびっくりした。


「こんな大きな根は、初めて見ました」

「偶然、畑で穫れたからあげるよ。村のために働いたライラへのお礼」


 ライラに贈ったもの以外は、とても小さい商館に持ち込んだが、種生姜より安かった。完全な訳アリ品で赤字となった。だが、裏側はライラやマリーには教えない。ヴァンはヴァンなりに見栄を張った。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ