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廃れた世界のプレイヤー  作者: 春夏 冬
6章 混沌
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過去編 イース

僕の名前は北条 翠。


北条家という名家に生まれた。


北条家は日本ではトップ企業。


世界全体で考えても僕の家は上位十数に入る程だった。


そしてそんな家で生まれた僕の生活は恵まれたものだと誰しもが思うだろう。


だが、実際はそうでは無かった。

………………

…………


「オギャー、オギャー!」


「無事、元気な男の子が生まれました」


「ふーむ、この子は君に似て容姿端麗になりそうだね」


「そうかしら?私は貴方に似た素晴らしい才覚をお持ちだと思いますけれど」


「まあどちらにせよこの子に()()()()()()()この日本をこれから背負って行くのはこの子に違い無いな」


プルル、プルルルルル


「電話か。こんな時に」


「もしもし?あ、なるほど……………」


「どうしたの?」


「ん?ああ、ちょっと急用が入ってな」


「分かりました。いってらっしゃい」


「ああ」


父は忙しく、まともに話した事など少しも無い。


そして母はそんな父を追いかけるだけだった。

………………

………


時は過ぎ、僕は幼稚園に入る年頃になった。


この頃の僕は確かに美少女と言える容姿をしていたが、まだ幼く、これからの成長で男の子っぽくなると思われそれほど問題では無かった。


幼稚園は一般的な所。


もし何か僕に至らぬ点があればすぐに処分出来るように、だ。


一般人の死などありふれた事。


もし北条家の者だと公言してから都合が悪くなり、僕を消さないといけなくなった場合はその情報をかき消すのは少々面倒なのだ。


怪我等はその幼稚園の中に配置されている使用人が監視をし、させないようにされている。


そして僕はこの時に僕の人生を大きく変えた人と出会った。


騎成(きせい) (つかさ)


その彼と。

…………………

…………


彼と知り合ったのは6歳の時。


僕は幼少の頃から使用人達に「北条家の名に恥じない人間になれ」って幼少の頃から言われ続けた。


まあその人間がどういった人間かは教えて貰えなかったんだけど。


今考えればそれは間違った教育をしてお父様にクビにされないように抽象的にって考えてたんだろうね。


だが、当時の僕はそんな事は分からずただその人間になる為にどうすれば良いかを考えた。


そして、勉強をするという事に落ち着いた。


その為僕は幼稚園にいる間はただ勉強をする日々を過ごしていた。


え?そんな幼稚園児がいれば先生が「外で遊びなさい」注意するって?


それが園長に既に僕が北条家の長男だって事が知らされていたらしくて先生達には僕に対して非干渉っていう事を言われていたらしい。


まあ当然先生達も要らぬ事をしてクビにはなりたく無いだろうしね。


そういう訳で僕は永遠と勉強をしていた。


そしてそんな時、彼は僕に話し掛けて来たんだ。

………………

…………


「ねぇ、なにしてるの?」


彼は人付き合いが苦手で、当時はただ同じく友達の居ない僕なら友達になれるんじゃ無いかと思い、話し掛けたらしい。


「勉強」


「べんきょう?」


「うん」


「そんなことしてたのしいの?」


彼はそう聞いて来た。


僕は楽しさなんて、考えた事は無かった。


僕の中にはただ「北条家の名に恥じない人間になる」それだけしか考えて無かった。


返答に困っていると、


「それよりもいっしょにぼくとそとであそぼうよ!」


そう満面の笑みで誘った。


僕はその時「北条家の名に恥じない人間になる」為に必要な事かって言う事が頭をよぎったが、それ以上に、


「うん!」


それ以上に僕はその笑みに憧れた。


生まれた時から笑った事など殆ど無い。


いくら勉強しても、いくら習い事が上手くなっても褒められた事は無い。


ただ北条家の人間だから当たり前。


そう思われてしまうのだ。


だが僕はそれでも足りないと考え、勉強、習い事を頑張った。


幼稚園でも目的は違えど勉強をしまくった。


しかしすれどもすれども笑う事は、喜ぶ事は、楽しむ事は出来なかった。


だから僕はそんな彼に、士君に憧れ、遊ぶようになった。

………………

…………


それからの日々は最高とも言えた。


幼稚園以外では無理だったが、幼稚園では精一杯楽しんだ。


毎日が夢のように過ぎ、そして一年が経ち、小学生になった。


僕の行く小学校を伝え、士君がそれに合わせてくれて同じ小学校に行く事に成功した。


だが、そこで事件が起こった。


これからの運命を大きく変える程の事件が………

………………

…………


入学式が終わり、自分のクラスに案内された。


士君とはクラスが違く、ガッカリしたが別の友達を作って来年同じクラスになる事を願い、待とうとした。


外で遊ぶ時は会えると思うだろうが、何故か一度も会う事は無かったのだ。


そしてその理由は二年後、クラスが変わって初めて知った…………。

………………

………


クラスが変わり、念願の士君と同じクラスになれた。


友達は少数だが新しく出来たのだが、やはり士君と遊ぶよりも楽しいという事は無かった。


そういった事もあり士君に会う事が楽しみだったのだが、士君は変わっていた。


「士君!久しぶり!」


「邪魔」


え?


「士君「近寄んな」」


「え?どうして「俺はお前と関わりたくねぇんだよ!」」


拒絶、絶交。


その言葉は僕にとって余りにも衝撃的だった。


そして僕は走るように去って行った。


士君から拒絶された悲しみから逃げるように。


……………それからの僕は再び学校で勉強をした。


士君から拒絶された事から友達と遊ぶ気力も無くし、僕は逃げた。


ただ勉強を、習い事を事務的にこなすようになった。


そんな姿のまま一年が経ち、僕の元に一人の友達がやって来た。


「…………ねぇ」


「何?」


「あの…………本当は言っちゃダメなんだけど」


「士君は…………いじめにあってるんだ」


「いじめ?」


そう、言われた。


「士君がいじめにあってる事は黒服の人達からお母さん達はお金を貰ってスイ君に言わないでって言われてたんだけど」


「この一年ずっと勉強三昧だったスイ君を見てたら言わなきゃって思って」


「つまり………士君は僕の為に嘘を付いてくれた?僕を嫌いになった訳じゃ無いの?」


その事実を聞いて涙が溢れた。


「スイ君?」


「良かった………本当に…………」


一通り泣きふけり、僕はこう考えた。


「士君を救わないと」


楽しむ事を知らなかった僕に救いの手を差し伸べてくれた英雄。


そんな英雄の士君を救わないという選択肢は無かった。


そして僕は士君を救うという決意を固めたんだ。

………………

…………


まず僕は情報を収集した。


どのような頻度でどんないじめを受けており、誰がしているか。


使用人は使え無いからその友達に調べて貰った。


そしてその情報を元に作戦を立てる。


いじめを使用人達に止めさせる事も考えたが、そんな事をしてくれるなら情報の制限を掛けるなんてする筈な無い。


今考えると恐らく友達と遊ぶなんて事よりも勉強三昧のあの日々の方が使用人達にとって良かったのだろう。


だからこそ友達との接触を禁じた。


そう考えるのが妥当だろう。


さて、作戦としてはこうだ。


まずいじめの場所は近所の公園。


そこでサンドバッグに明日の夕方になると予想される。


本当そんな目に士君があっていたって考えると胸が痛くなるよ。


そして僕はそこに現れてそのいじめっ子達と戦う。


絶対に()()なると思うが覚悟はした。


そして明日、僕はいじめっ子討伐作戦を開始した。

………………

…………


キーンコーンカーンコーン


「ふむ?おぼっちゃんが降りて来ないのう」


「ある程度時間が経ったら学校に潜んでおる使用人供が強制的に連れてくる筈なのじゃが」


そう呟き、車の外で待っていると一人の使用人が走ってこちらへ向かって来た。


「緊急事態です!ぼっちゃまを見失いました」


そしてその執事に小声でそう言った。


「なんと!こちら執事長、使用人総動員でぼっちゃまを探し出せ!」


そしてその執事は懐に忍ばせていたトランシーバーにそう言った。



その頃スイは、


「作戦成功!」


そう僕は呟いた。


まずいじめっ子討伐作戦で障害となるものは使用人達だ。


だから僕は使用人達の注意を逸らす為に同じクラスの人達に頼んで僕が怪我をして保健室にいるという噂を流して貰った。


その間僕はこっそり隠れていたから使用人達も相当焦ったと思う。


そしてその時僕はこっそりとこの学校から出た。


使用人達の行動なんて完全に予想出来るから簡単だったよ。


そして次に同じクラスの人達にトイレに催涙スプレーを持たせて使用人達を撃退するように仕向けた。


そこで少しの間なら時間を稼げるだろう。


………そろそろかな?


次にトランシーバーの電磁波を狂わす装置を起動。


これは催涙スプレーと同じく内緒で手に入れたアイテムだ。


これで使用人達は混乱し、かなりの時間が確保出来た筈。


それじゃあこの作戦の要、士君の救出だ!

………………

…………


「止めろ!」


そう叫んだ相手の拳の前には傷だらけの士君がいた。


「あ?なんだお前」


「もう士君を傷付けるな!」


「翠…………か?」


「あー?俺達に逆らうのか?」


「どうなっても知らねぇぞ?」


「やっちまえ!」


そう彼らは襲って来たが、僕はものともせずに返り討ちにした。


ドカッバシッ


「ぐっ」


「一応空手も多少は習ってるからね」


ドカッドカッ


そして一通りいじめっ子を倒した。


「ふう、大丈夫?士君」


「もう…………関わるなって言っただろ?…………お前もいじめられるぞ…………」


「うん…………ごめんね、多分もう会えないんだ」


「え?」


「ぼっちゃま!見つけましたよ!ってこれは…………大変な事をしましたね…ひとまずお家に帰りましょう」


「じゃあね……」


「待っ!」


そして僕はあの後いじめを無視し、あやよくば僕を戦わせたという事、そして習い事等に遅れを生じさせてしまった事から沢山の使用人がクビになり、僕は転校する事になった。


学校はいじめがあった事を明るみにし、もう今後いじめは起こさないと社会的に発表したらしい。


まあもしこのまま僕が暴れたのにいじめが続いたりしてたら今度僕が何するか分からないからね。


多分お金とか渡していじめを公表しろってお父様が言ったんだと思う。


あ、因みに空手等の格闘技の習い事は無くなった。


まあ護身術の為のものなんだけど自分から戦いに行っちゃダメだからね。


「今よりも自由な生活はもう過ごせないと思え」


久しぶりに会ったお父様からはそれだけを言われた。


この年でこの容姿。


しかもちょっとした事とはいえ事件を起こした僕の価値観は不出来な息子と普通の息子の間を彷徨っており、消すのにも惜しかったらしい。


僕の学力の向上スピードは天才と言える程じゃ無いけどかなり凄かったらしいからね。


それからは後々姉が居たという事を知り、偶に会う姉との対話以外は全てが楽しく無かった。


勉強、習い事、それらをただ繰り返す日々だった。


友達を作る事すら許されない。


そんな日々になった。


まあたまにこっそり漫画とか読んだりしたんだけどね。


学校では北条家という肩書とこの容姿から殆ど話し掛けられる事も無かったし。


そして高校二年生になった時にWCO。


ワールドクリエイトオンラインが送られて来た。


そういえばこの前暇つぶしに応募したんだっけ。


当たって届いてもどうせ使用人に取り上げられるだろうと思い、期待はして無かったんだけどな。


まあ結局後で取り上げられるだろうけど。


だけど少しの間なら僕もこの世界なら自分でも楽しめるかと思い、プレイした。


悪役の方が物語では自由っぽかったから魔物を選んだ。


ただ何となくで始め、何となくで悪役になろうとした僕は初めて大切な()を亡くした。


それは僕にとってとても衝撃的な事だった。


だけど僕はリーダーという立場になってしまった以上、皆を導かないといけない。


自由を求めたのに自由じゃなくなった。


だけど僕は幸せだよ。


この世界での日常が、日々が楽しかった。


そして何の目的も無く生きて来た僕は、初めて大きな目的を持った。


皆を守る。


そういった目的を……………

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