ムシュサイド1
我の名前はムシュ。
主様の眷属だ。
そんな我の今までの生活を話そうかと思う。
我はあの山の主として生を受けた。
それからは主様と出会うまでただ有り余る力を振るい、特に何も考えずに生きてきた。
どれくらいの年月が経ったのかも分からない程にな。
だが、我はそれで良かったのだ。
生存競争を生き抜いて来た我にとって生きている事が幸せだった。
まあ我は生まれた時から食物連鎖の頂点のような存在だったのがな。
さて、そうして我は生活をしてきたのだがある時主様達がやって来た。
その時の我はまだ今のように自我や自意識がはっきりしていた訳ではなかったのだが危険感知が反応していた為かなり警戒していたのだ。
なのに主様は簡単に我を倒した。
我はもう死んだと思っていたのだがな、何と主様は配下になるかと訪ねて来たのだ。
我は別に死にたい訳でも無かったしプライドなんて無かった。
だが、これ以上生きてもどうすれば良いかという葛藤があったのだがな。
だがそんな葛藤も生存本能に勝てる筈が無く配下になるという選択を選んだんだが。
すると我の中に主様の記憶が入って来た。
それには驚いたのだが、それ以上にまさか回復を自己再生能力でさせるとは思わなかったわ。
確かに出来ない事も無いが結構体力が消耗されるから嫌だったんだがな。
とはいえ自然な回復力に任せたらかなり時間が掛かって置いてかれるかと思って頑張った。
うん、大分頑張ったから殆ど動けなかった。
その間我は主様の記憶を整理していたんだがそこで我は出会った。
執事というものに。
我はアニメや漫画というものはあまり知らないのだがその執事というものに惹かれた。
主の為に自分の身を差し出しても救おうという姿勢に。
我はこれだ!と思ったな。
我はその時執事になる事を決めた。
ただ今はまだ主様に役立たずと思われているようだが。
そして我が回復し終わったら今の名前、ムシュという名前を貰った。
名前というものが何かはよく分からなかったがまあ良いかと思い、思考を止めた。
それから我等見知らぬ場所に送られたな。
するといきなり主様がえー、主様の記憶によると人間という生物になった。
いや、姿が変わったと言えば良いのか?
それにはかなり驚いたがまあそれは良い。
いや、良くはないんだがそれを考えていたら今度は主様はいきなり走り出した。
いきなり過ぎて我等は少し立ち尽くしてしまったよ。
だから少し遅れてついて行ったんだがな。
そしたら今度はいきなり、
『お前達を人間の姿にする』って言って来たんだよな。
本当に主様が何を考えているのか分からなくなって来たのはここら辺からだな。
それから一週間。
我への評価が下がりまくった一週間だったな。
その事がショック過ぎて何をしていたか覚えていない。
しかもその後に我の姿を変えられた。
人間に。
それについては別に良いんだがせめてミスっては欲しくは無かったな。
あれはかなり痛かった。
まあそれは良い。
いや、良くは無い…………って何かちょっと前に同じような事言ったな。
まあ大事なのはその後に国という場所に入ったんだ。
主様の記憶にあった場所とは全然違ったな。
いや、大事なのはその後。
主様が誰かの家に行っている時らへんから主様が誰かと交渉していた時。
あの時我はフォスと会話をしていた。
『ねぇ、聞こえる?』
『ああ、聞こえるが』
『そう、まさか眷属同士でも繋がっているなんてね』
『そういえばこれ何なの?』
『あ、そういえば言って無かったわね』
『これは念話よ』
『まあそれはそうとあなた、主様を慕ってるの?』
そう、フォスが聞いて来た。
別に我はただ主様に倒され、配下にされただけで慕ってはいない。
だが、我がそう答えようとした時にそれとは違う回答をした。
『慕う、か。我から見ればお主の方が主様との関係が歪に見えるが』
と。
正直なんでこんな返事をしたのか分からないが、異変はこれで終わらなかった。
『なんですって!』
『お主の目には主様は映っていない』
『お主が見ているのは』
そう言った瞬間、フォスからの念話が途切れた。
恐らく主様に呼ばれた等だろう。
それにしてもあれは何だったのか未だに分からない。
主様の記憶にあった幽霊といったものに取り付かれたのだろうかとちょっとビクビクしていたのはしょうがないだろう。
フォスとはそれ以降話して無いが、主様に仕える者としてしっかり仲直りしないとな。
執事はやっぱり従者同士での仲は良くないと!
そう考え、一人で訓練をするムシュであった。




