訓練
うーん、朝だぁ。
昨日決めたスケジュールで今日から訓練だな。
さて、フォスを起こして早速模擬戦をするか。
『おーい、起きろー!』
『………………………』
返答がないな。
よし、毒草をちょっと口の中に入れるか。
おいしょっと。
やっぱり狼の身体は物を掴むには向いてないな。
口の中に入れるだけで一苦労だ。
「ぶぎょざびじゃ!?」
うわ、いきなり声出さないでよ。
びっくりするじゃん。
まあ、毎回これだから慣れたけど。
それに起きたし別にいっか。
「ペッペッ」
『主様、毎回起こすのに毒草を使うのを止めて下さい!』
自業自得だろ。
はぁ。
『今日からあのスケジュール通りに行動するからな、早起きはしないとダメだ』
『は!スケジュール!』
フォスは露骨に落ち込んでいる。
そんなに嫌なのか?
まぁ、嫌でもするから変わらないけどな。
『じゃあまずこの毒草を唇に付けるぞ』
『胴体に付けるより難しいだろうからお手本として俺が先にフォスに付けるぞ』
『分かりました』
じゃあ、まずは毒草を結んだ縄を置いて、
『ここに後頭部が当たるように転がってくれ』
『分かりました』
ここまでは胴体に結ぶのとは変わらないな。
そしてそれを噛んで、唇の上に持ってくる。
そして結ぶんだけど、胴体とは違ってきつく絞めないとずり落ちちゃうからね。
しっかりと結んで、完成。
『主様、キツイです。口を開けたら入ってきちゃたいます』
何言ってんだ?
『口を開けなければ良いだけだろ』
『そ、そうですね』
『さて、じゃあ俺にも宜しくな』
『わ、分かりました』
そして同じように俺も唇に毒草が常に付着した状態になった。
まあ、思ったよりフォスが手こずって時間がかかってしまったのは良いとしよう。
『それじゃあ模擬戦をやるぞ』
『はい』
『ルールはいつも通り妖術は禁止。武術だけを使ってそれぞれが身を隠してからスタートだ』
ただ単に戦うだけだと隠形術は鍛えられないし、歩法術なんて使わないだろ?
なら、実戦形式にした方が良いと思い、こういう形にしたんだ。
まあ、武術は鍛えられないだろうけどね。
さて、こちらからはフォスを認識出来なくなったからスタートだ。
まずは歩法術で歩いて違和感がないか探す。
……………そこだ。
影が不自然に出てる。
目視が出来なくても相手を探す術はあるんだよ。
次からはそこも注意してもらわなきゃだね。
お、気付かれた事を悟ったのか逃げ出したね。
武術は俺の方が上手いからフォスは自然と不意討ちをする事になるからね。
歩法術から疾走術に切り替えて、追いかける。
種族のレベルは同じ位だから技術での差で速さが決まる。
まあ、疾走術も俺の方が上手いから持久走の今でも自然と負ける事になる。
すなわちどこかで仕掛けてくる。
あ、疾走術の姿勢が崩れて来た。
そこも慣れさせないとだな。
とりあえず仕掛けてくる所を見破らないと負けるから変化した所を見つけるぞ。
お、曲がったな。
だが、ここで仕掛ける事は前やったから同じ事はやらないだろう。
そこで曲がると……………虎がいた。
なるほど、こいつの相手をさせて体力を削る作戦か。
ん?よく見ると前会った奴じゃん。
虎も結構この森にいるからな。
見分けがあんまりつかん。
こいつは結構速いし、力強いけどバカなんだよな。
逃げ切る事はできるけどやっぱりそれだけじゃあもったいない。
フォスは恐らく曲がる時に通った木の上に隠れている。
木の後ろだと途中で標的が変わる可能性があるからね。
ただ、曲がった瞬間に上に上がるなんてそんなに身体能力が高い訳ではないから隠れた後に登ったんだろうね。
登るのは結構キツイだろうけどこの木ならまあ、ギリギリ登れるだろうし。
しかもこの虎かなり大きいからああすれば出来るだろう。
まずは逃げる!
と言ってもさほど距離はないからすぐなんだけどね。
そしてその木の前で立ち止まる。
するとあの虎が背丈なんて気にせずに突っ込んでくる。
ドンッ
蹴ろうとしたのだろうけど木にぶつかって足が届いてない。
やっぱりこいつバカだな。
そしてその揺れで木から狐が落ちて来た。
フォスだ。
そのまま虎の顔の上にドンッと落ち、虎は怒りに満ちた表情でいる。
この隙に俺は隠形術で隠れた。
影、目線、音等を気にして隠れて音だけだが、様子を伺う。
ザッザッザッ…………音が止んだ。
恐らくフォスも隠れ切ったのだろう。
今の音の長さからそう遠く言ってはないはずた。
木からちょっと顔を出して違和感がないか探す。
………………あった。
やはり影が不自然に出ている。
周りこんで…………………よし、それにはしても周りへの注意が足りないな。
ずっとあの虎を見ているよ。
心配なのは分かるけど周りへの気配りをしっかりとしなきゃ。
歩法術でゆっくり近づいて…………喉元に爪を当てる!
『あ、……………参りました』
『ああ、まだ体力は残っているな』
『はい』
『武術を鍛える為にも模擬戦をやるぞ』
これは普通の模擬戦だ。
実戦ではさっきみたいなのが当たり前だが、失敗した時のために武術も鍛えてないとだからな。
『それじゃあ近くにあいつがいるからとりあえず離れるぞ』
『はい』
…………………………
………………
……
ふぅ、一先ずここから離れたし、模擬戦の前にさっきの実戦訓練の反省をしよう。
反省しなかったらいつまで経っても成長は出来ない。
とはいえ自分自身の欠点は自分では見つけずらいものだからこそ、それぞれ相手の欠点を話して改善するんだ。
そういった意味ではテイムモンスターを手に入れて良かったな。
『それじゃあ毎回恒例の反省会をするぞ』
『はい』
『それじゃあ先にフォスから見て、俺の欠点を話してくれ』
『分かりました』
『そうですね……………やっぱり一つの事に集中すると周りが見えなくなる点でしょうか』
『なるほど?』
『主様はあの木を曲がるまであの虎に気付かなかったでしょう?あの虎はかなりの大きさなので、曲がる前に気付く事が出来た筈です』
『あー、言われて見たら確かに視線に入っていたかも。あの時はどこで仕掛けて来るかを考えたからなぁ』
『私もあそこで見えるとは思いませんでしたけど………』
『他には?』
『そうですね、私を見つけるのが遅かった点ですかね』
『それは最初の隠れていた時の事か?それとも最後か?』
『えっと最後です』
『あの虎は頭が悪い為、上手く隠れていれば顔を出していても気付かれないので私の動向を見張る事が出来た筈です』
『ふむ、厳重に隠れたのはあの場合では悪手だったか』
『以上です』
『そうか、それじゃあフォスの欠点を言うぞ』
『はい』
『まあ、まず隠形術が甘いな、影が見えていたぞ』
『あ、影………すみません』
『それと疾走術が途中で崩れていた』
『あ、すみません』
『それからあいつを利用するのは良い作戦だが、爪が甘いな、あの場合だと遠くに隠れていた方が良かった』
『…………はい』
『そして特に最後は隠れてやり過ごそうとしただろう』
『はい』
『一度見破られた事を欠点も分かってないのに繰り返すのはダメだろう』
『そんなのすぐに再び見破られる』
『それに隠れている間の注意も全てあの虎に行っていた』
『……………はい』
『次からはそれらをお互い直していくぞ』
『はい!』
『よし、それじゃあ模擬戦をやるか』
『はい』
『ルールはいつも通り隠れたりせずに持っている技術だけで戦う。どちらかが降参したら終了だ』
『分かりました』
『それじゃあ、スタートだ』
まず先手を取ったのはフォスだ。
基本的に俺は相手の出方を伺ってそれに対処をして隙を伺う戦法だ。
それに比べてフォスは間反対で、必ず先手を取って、自分の勢いに相手を乗せて倒す戦法だ。
だからこそ毎回先手はフォスが取っている。
まずはフォスが爪で横に薙いで来た。
それならと俺は一歩下がってギリギリで回避した。
そして今度は反対の手で斜めに切り割いて来た。
だが、反対の手が攻撃の準備をしているのを見逃さなかった。
ここはあえて大きく回避し、次の攻撃に当たらないようにした。
するとその連続攻撃をした事により、体勢が崩れた。
勿論その隙を俺が待っていた訳で、ギリギリ回避出来る攻撃を出した。
回避出来ると言っても俺の爪の軌道を無理矢理変えて、逸らすと言った方が正しいか。
だが、変な体勢でしかも無理矢理回避した事により、大量の体力を失い、倒れ込んだ。
だが、それで終わりでは無かった。
倒れ込んだ時の勢いを利用し、転がって一先ず俺から離れる事にした。
良い判断だ。
あのままこっちに襲って来ても、恐らくすぐに決着が着く事になってただろう。
だが、フォスが圧倒的に不利なのは変わりない。
恐らくこのまま逃げ、体力の回復を待つだろう。
俺は襲う事に慣れてない為、フォスは逃げ切る事が出来るだろう。
勿論そんな事はしない。
面倒なのが主な理由だか。
なら、どうするか。
それは…………こうだ!
俺はフォスに目掛けて一直線に走って行った。
そして爪を大きく振り被った。
大抵こういう技は隙がある時に放つものだ。
何故なら隙が大き過ぎるからだ。
大振りだからこそ軌道が読みやすく、避けやすい。
そして力を込めた為、次の攻撃までのインターバルが長くなり、その隙に攻撃をされる。
それを俺が今やっている理由。
それは誘い込みだ。
基本的に隙を探す俺とは違い、反撃の機会を与えずに攻撃をするフォスは隙を見つける事には慣れていない。
だからこそ、こんな大振りにしたんだ。
いくら隙を見つけられないとはいえ、こんなに大振りなんだから隙がある事は分かるだろう。
なら、フォスはどうするか。
それはこの隙を突こうとするだろう。
圧倒的不利な状況で大逆転の一手のチャンスがある。
誰だってすがりたくなるだろう。
疑念も湧くだろうけど恐らくこの隙を突く事をする。
俺の振った爪をぎこちないがフォスは避け、攻撃をして来た。
かなりの力を込めているみたいだ。
これを食らえば一発でアウトだ。
だが、避けるのは無理だから当たる前に反対の手で反撃だ。
俺の爪が先に胴体に当たる寸前!
『降参です!』
フォスは降参した。
だが、勢いがかなりあった為、結局少し当たってしまった。
『い、痛いです!』
『降参するのが遅いからだ』
はぁ、疲れたぁ。
やっぱり実戦訓練と違って常に集中しなきゃいけないからキツイわ。
あ、別に実戦訓練は集中してないって訳じゃないよ、しっかりと集中してるけど、比べたら、だからね。
それじゃあ疲れたし、妖術の新しい戦術を考えるか。
………………………
……………
……
そして、闘技大会当日になった。




