勇者VS魔王
残ったのは俺とイースの二人だけ。
まさかあんな隠し技を残しているとは思わなかったけど。
イースはそれを予想して、俺をずっと隠していたんだな。
ヒョウカちゃんによる透明化スキルの受け渡し。
この長期間ずっと俺にスキルを渡すだけでなく、そのスキルのレベルをMAXの状態に保っていた。
全てはあの一瞬の為に。
……はぁ、後悔はしちゃダメだな。
これで、このイベントが終わるんだ。
あのままレンを生かしてたら多分、この世界は終わっていた。
だからこれで…良かったんだ。
「終わったぞ、イベント終了だ。運営」
空に向かってそう語りかける。
するとゆっくりと一人の男性が降りて来た。
「やあ、こうして話すのは初めましてだね」
「…そうだな」
「そして、後ろに居る彼とも話すのは初めてか」
そう言われて後ろを振り返る。
そこにはイースが立っていた。
「運営、さっさと本題を話してよ」
彼はそう不機嫌そうに言った。
「そうだね、このままじゃ話が脱線して終わりそうだ」
運営のその言葉を聞いた瞬間、とんでもない悪寒が俺を襲う。
そして次の言葉を聞き、俺は固まった。
「このイベントは、まだ終わっていないよ」
「………はぁ、やっぱりか」
その事実を知っていたかのように彼は納得の言葉を溢す。
「な…んで…」
「ねぇ、きちんとイベント終了の条件を読んだ?」
そう言われ、イベント終了の条件を思い出す。
二つの勢力同士で片方が絶滅するまで続く戦争。
あの時は闇人という新しい種族が現れたのに気を取られて気付かなかったが、確かにレンを倒すのにこの表現は違和感がある。
二つの勢力…まさか。
俺はゲーム開始時の選択画面を思い出す。
プレイヤーは基本的に二つの選択肢を選ぶのだ。
種族…魔物か人間かを。
「この戦争は、魔物プレイヤーVS人間プレイヤーだったって言いたいのか?」
「正解!まあ正確に言うなら…君達全員をこのゲームからゲームオーバーにする為の戦争なんだけどね」
運営は、最初から俺達が勘違いすると考えてこのイベントを作ったのか。
そしてプレイヤー全員を消す為に。
「本当、まんまとやられたね」
イースがそう言った瞬間、同時に巨大な殺気を感じた。
「それじゃあ、ケイ。死んでもらうよ」
飛んできた触手を咄嗟によけて、俺は聞く。
「なんで今更戦うんだ!わざわざ戦う必要なんてないでしょ?」
しかし、イースはこう答えた。
「この戦争は二つの勢力が絶滅するまで続く」
「プレイヤーが二人になろうが、戦争は続くんだよ」
「そしてこの結果はNPCには作用しないとあるが、それじゃあこの戦争はどうだと思う?」
この戦争…NPCである彼らも参加し得るという事か?
待って、っていう事は…
「今ある魔物と人間の二つが戦い合う…絶滅まで殺し合うかもしれないのか」
「ああ、きっと僕達が戦わなかったらそうなっていた…運営がそうしていただろう」
……はぁ、どこまでも運営に操られてるな。
「よく分かりましたね」
「まあ、そういう考え方は慣れてるからね」
運営とイースが会話する。
俺は一つ息を吐いて、覚悟を決める。
この先の事はストロマに任せているし、俺が居なくても大丈夫な筈だ。
「それじゃあ運営、この戦いを仕切ってくれよ」
「……かしこまりました。」
俺とイースの間に運営が立つ。
「最終決戦、勇者VS魔王…開戦!」
それと同時に俺とイースは飛び出す。
イースはスライムへと形態を変え、魔力を使ってありとあらゆる攻撃をして来た。
それをライルさんから指導して貰った技でいなし、攻撃を重ねていく。
その戦いは時間でいうと数分程度しかなかっただろう。
しかし、あまりに十分すぎる程の攻撃の応酬を重ねた。
そして…二人は同時に倒れた。
亡骸は塵となって消える。
「さて、これにてイベント終了です」




