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廃れた世界のプレイヤー  作者: 春夏 冬
終章 サービス終了
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NPC

……ゆみはやられたか。


まあ、それでも十分な働きはしてくれたな。


奥に潜んでいたライとサキを相打ちにまでもっていけたのだから。


しかし…結局の所、作戦の中枢である二人は見つからなかったか。


まあ、仕方ない。


過ぎた事は…


そう考えていると、とある事に気付く。


おい、なんであいつらがここに居る!


俺とお前達との繋がりはもう無いだろ?


じゃあなんで……


そう思いつつも、俺はこの身体では自分の意思を伝える事が出来ない。


その事を悔やみながら、俺は見てるしか出来なかった。





彼らが消えると共に、プレイヤー側の活気は取り戻しつつあった。


闇人についていたゆみが消えたのが大きな原因だろう。


このままいってくれ。


そう思った我々の望みは、一瞬にして絶たれた。


「くそっ、やっぱり来たか」


「考慮してはいたんだろ?」


「そうだけど、でもやっぱり来られるとキツいな」


イースが映した映像を見て、話す。


そこには一瞬にして肉片になった、最前線に居たプレイヤーの姿があった。


その付近に居たプレイヤー達は呆然とする中、すぐさまそれに対応しようと動き出す二人の姿が見える。


『フォスとムシュ、二人は眷属としてレンに使役されていたNPCだ』


『早急に、殺せ』


『そして…お前達は死ぬな』


そう念話で伝えると、少し笑って二人は答える。


『王様の命令ならなんなりと』





目の前には二匹の獣が居る。


一匹は変幻自在の幻術を使い、もう一匹はこちらが作る術を消し去る。


『これは厄介だなぁ』


『ええ、本当にね』


ミルの作り出す冥獣はここに居るプレイヤーばかり。


そうなると今まで作り出したよりかは断然多様性が減ってしまう。


そしてそれは俺も同じだ。


残留思念は死に方によって左右される。


しかしプレイヤーは皮肉にも死に慣れてしまい、非常にその残留思念は気薄になっているのだ。


いくらプレイヤーの死に対応して無尽蔵に作り出す事が出来るとはいえ、今までのような強さは殆どない。


そんな状態で戦う今、正直言って決めてがない。


前に使った自爆技を使うにしても、正直それ程強い残留思念を残せる気がしない。


だってこいつらと結構関わってたし。


前は普通に結構な恨みがあったお陰で出来たが、今回は出来る気がしない。


例え出来ても一匹だけだから殆ど意味がない。


それに…若干の後悔もある。


イース…いや、北条(ほくじょう) (すい)に、きちんと挨拶がしたかった。


ナイトではなく…騎成(きせい) (つかさ)として。


とはいえ、そんなの無理な話なんだがな。


あの箱入りでしかなかったあいつがここに居る理由なんて、考えれば一つしかない。


北条家が関係しているんだろう、このゲームには。


だからこそ、言えない。


言ったら恐らく俺は、あいつから離される。


前科があるからな。


だからこそ、俺はこの世界では騎成(きせい) (つかさ)ではなくただの騎士(ナイト)としてあるのみだ。


しっかし、これはどうするべきか。


俺は目の前に居る二人の敵を見る。


幻術で惑わされているが、恐らくフォスにも能力が効いているだろう。


ムシュの能力はある程度検討がついている。


一定範囲内の能力の妨害。


上手いこと連携を取って能力の範囲を操る事によってこちらの攻撃を無効化しているとみた。


とはいえ、ミルは透明になる事によって多少は逃れてるし、俺は単純な剣術で張り合ってる為、どちらも膠着状態って訳だ。


『何か現状を打開する作戦あるか?』


『あったらとっくに言ってるわよ』


『だよなぁ』


念話で互いに話し、そして結局「どうしようもない」という結論に辿り着く。


うーん、どうするべきか。


そう考えていると、後ろから強風が吹いてきたのを感じた。


「手伝いに来たわよ」


颯爽と登場した彼女がそう言ってこちらにやって来る。


『シズク?なんで…』


『…はぁ、イースが送り込んで来たんだろう』


俺はひそひそと念話で話し合う。


だってシズクはこの作戦の要と言っても良い人物だ。


くそっ、今更俺達を失う事を恐れたのか?イース。


そう内心苛立ちながらも、俺は思考を続ける。


精霊はあくまでも生物。


恐らく範囲内に居ても意思疎通が取れないだけでしっかりと役割を進めてくれるだろう。


とはいえ、例えそうだとしても、まずこいつの攻撃をどうにかしないとだな。


俺はフォスに再び視線を向ける。


ムシュはただ術を使う事が出来ないだけで、攻撃なんかはそれほど特筆すべき点はない。


まあ、ミルにとっては結構危ない敵になるんだけど。


けど、フォスは違う。


ただの物理攻撃なんかも幻術と交えられると普通に強いが、それだけでなく奴の妖術が問題だ。


気を抜くとすぐにやられる。


それはミルも同じような事から、恐らく物質だけでなく力関係のものの感知もでき、干渉も可能だと考えられる。


どうするか。


……はぁ、俺も結局は甘いのか。


『ミル、今から…』


『シズクは……』


『え?でも…』


そう動揺する彼女に言った。


『大丈夫、なんの問題もない』


少し顔を下げて、再びこちらを向く。


『それじゃあ、作戦結構だ』


そして俺は今までフォス達に向けていた剣を自分に向ける。


切腹…いや、俺に腹はないか。


一瞬にして俺は首に剣を当て、切った。


イースの命に逆らった俺には切腹より打首だな。


そして首が地面に転がる。


一瞬の出来事で二人は動揺するが、次の光景を見た瞬間、二人はそれ以上の驚きを見せる。


地面に落ちた首がカタカタと動いてその倒れた身体に再びくっつく。


彼、ナイトはプレイヤーではなく、その世に未練を残した冥獣として生まれ変わったのだ。


そして、それに被さるようにミルは憑依する。


更にシズクは精霊達を紛れ込ませ、そいつはこの世のものとは思えない存在となった。


見ればすぐに分かる格の違い。


目の前に居るフォスやムシュなんて一捻りだろう。


はぁ、居なくなる前にあの魔人の子供達の子供を見たかったわ。


ミルはそうあの孤児院に思いを馳せる。


当然あの森に居た魔獣達は成長していった。


言葉を覚え、色々なものに興味を持った。


まるで人間のように。


あの孤児院でお世話をずっとしていた事を今でも脳裏に浮かび上がる。


最後の最後に騙したのが、気に病むけれど、NPCである彼らはこの戦争には関係ないものね。


そう思い、彼女は目の前に居る二人を一瞬にして気絶させた。


NPCである二人を殺さずにプレイヤーである私達が死ぬ。


性格は合わなかったけど、最後の最後で意見は一致したわね。


そう思うと、段々と身体が崩れる。


精霊や何やら色々なものを混ぜたこの冥獣は、既に別の生き物となっている。


だから、私は生み出した責任をもって、彼の魂を道連れにして死ぬ。


成仏の時間よ、ナイト。


一緒に逝きましょう。


他の人の目に見えないその光景は異様なものに見えただろう。


『二匹の保護はよろしくね』


『…はい!』


少し遅れて返事をすると共に、私の意識は切れた。


そして、残ったシズクはせっせと二匹の身体を運んで行った。


関わり合いがあまりなかった二人の死を悼みながら。

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