ケイサイド35
すいません、ちょっと書くのが間に合いませんでした。
あの場所から出た後、俺たちは対応に追われた。
まずはあそこに住んでいた人達の住居の確保や住民票の作成、そして彼らの職の確保だ。
とはいえ人数が少なかった為、結構すんなりとそれらは進んだ。
ずっと前から届けられていたプレイヤーの行方不明者の身元が見つかったりして、そのプレイヤーに親しい人達にその事を伝えに行ったりと、難しい問題はなかったが、結構忙しかったのだ。
後はヒョウカと呼ばれていた彼女だが、彼女を無力化した後には糸が切れたかのように動かなくなってしまった。
とはいえ脈は正常に動いていたようで、死んではいなかったようだ。
彼女はNPCであり、まだ幼く職に付けなかった事もあってひとまずはお城の一室に住まわしている。
それと同時に彼女を鑑定してもらったのだが……その時俺はかなり衝撃を受けた。
彼女の固有スキル、命脈の灯火は…彼女自身の寿命と引き換えに一定時間だけレベルを引き上げるというもの。
彼女はあの場所で生きていく為にこのスキルを使い、そして最後…俺と戦う為にまた、それを大量に消費した。
あの場所は時間の流れが色々とおかしかったおかげで寿命なんかを誤魔化せていたみたいだが、本来ならとっくに死んでもおかしくなかった時間このスキルを使っていたそうだ。
俺はまだ、恋人を失ったりという経験がないけど…その恋人を生き返らせる為に自分の子供の命を利用したりするだろうか。
何度だか分からない問いかけを自分にして、結局有耶無耶になって終わる。
……はぁ、こんな事を考えたって答えは出ない。
そう思いながらも頭をよぎってしまう。
と、まあそんな感じでヒョウカは保護をしてる。
起きたら話をしようと思っているが、まあそれはまどまだ先の話だ。
そして、この次に起こった事が今話したどれよりも大問題となっている。
『週末戦争』
このイベントがただあるだけならそれほど問題にはならなかっただろう。
犯勇戦争という同じようなイベントもあったし。
しかし、このイベントにはとある事実が書いてあった。
二つの勢力同士で片方が絶滅するまで続く戦争。
今まで隠して来たプレイヤーが死ぬ…という事実が明るみにでているのだ。
とはいえ、これがただ流れただけならイベントとしてまた復活が出来ると考えただろう。
だが、それがプレイヤーが死ぬという事実と重なって放送された今、この言葉は別の意味を持つ。
これは、いわゆるエンディングへの最終イベントなのではないか、と。
それと同時に様々なプレイヤーが考察を始めると共に、闇人と化したレイヤの存在も明るみになると共に、闇人の存在が表に出て来ている。
現在では殆ど抱かれていなかった、現実の自分がどうなっているのかという疑問。
そこにここで暮らした年と、昔の年齢を合わせると、自然と寿命という答えへと行き着いてしまう。
そうしてもはや止める事が出来ないレベルまでプレイヤー達は急速に変化していっている。
閉じ込められた初期の頃の暴動や、犯罪を起こすプレイヤー達。
そしてそれに動揺していくNPC達。
それらを鎮静化するのに約四日費やした。
うん、めちゃくちゃ大変だったよ。
もうこの四日ほぼほぼ寝てないし。
そして、俺は漸く落ち着いて状況を把握して来たプレイヤー達に一安心して、あのイベントへの対策会議を開始した。
集まったメンバーはそれぞれの国の代表。
すなわちイースとストロマだ。
ライ達には後で話そうと考えている。
「さて……どうしようか」
「そうだね……まず、このイベントのラスボスである存在がレンだって事はみんな知ってるよね」
「ああ、俺たちの前ではレイヤって名乗ってた彼だろ」
「僕も情報で聞いてはいたけど…やっぱりそうなのか」
そう少し残念そうな顔をするストロマを見て、あの国の創設者の話を思い出す。
「やっぱりクライムってレンが作った国なんだ」
「作ったっていうより…無理矢理従わせたの方が正しいかな」
「だったら何か弱点とかって知ってる?」
「ううん、それも思い当たらない」
そう聞くとともに、ため息が出る。
「はぁ、そんな弱点のない怪物なんてどうやって仕留めれば良いんだ?」
イベントの様子なんかを見てればあいつのヤバさが伺える。
っていうかなんならあいつ進化?したから前までの弱点が通用するかすら分からないし。
本当、どうするべきなのかが一切分からない。
「……一つ、言っていいかな」
「なんだ?」
「弱点にはならないと思うんだけど、突破口は一つある」
そうイースは切り出した。
「実はライから聞いた話なんだけど、どうやらライとレイは関わりがあるみたいなんだ」
「ああ、なんかそんな話を前していたな」
俺は思い出すと共に、それがなんだ?と思ったが、そこで気付く。
ライは特殊な家系の生まれだ。
そんな彼と関わりがあるってどういう事だ?
「本名、篠原連夜。実名、東条連夜である彼は…僕と同じ四条家の一人だ」
「まあ、生まれてからすぐ北条に潰されたから関わりはそんなに無かったみたいだけどね」
言葉を聞いた瞬間、俺は驚きに震えた。
俺の付近に居る人、重鎮多すぎないか?
北条家のイース、国際手配されていた里山洋平のカールさん。
なんか凄い警察の朝霧家のライさんに、西条家のゆみさんとサキさん。
……色々と面子がおかしいよね。
そこに更に東条家のレンと来たら、一般人俺だけじゃん!
そう心の中で叫ぶ。
「そして、そんなライさんから聞いた話によると、彼…レンは、感情が無いらしい」
感情が…無い?
そんな素振りは見た覚えはないんだけど。
「だからこそ別の自分を演じる事によって楽しんでいたらしい」
「ライさんがレンの戦いを見た限り、その冷静さが強みとなっているらしい」
「だから僕たちがすべきなのは…」
「レンを楽しませる事?」
「そう!」
大きな声で同意するイースに、ストロマが突っ込む。
「でも、まずその楽しませるまでに行かないよね」
「バトルで楽しませるにしても…相当な強さを持っている筈だからね」
「確かに、根本的な解決にはなっていないよな」
そう反論すると、その言葉を待っていたかのようにイースが話す。
「その問題を解決する方法…っていうか作戦が一つあるんだよね」
「それは?」
「それは…まず、ストロマは…」
「そしてケイは…」
そう話し始めたイースの作戦は現実味がない、夢物語のような内容だった。
「そんな事、本当に出来るのか?」
「さあ?どうだろうね」
「でも、そんな事でもしないと勝てない…か」
そう結論を出すと、扉を開いて一人の女の子が登場した。
「私もその作戦に入れて」
「ヒョウカ…」
ふらふらと歩を進める彼女は、こっちが見ていても酷く痛々しかった。
「このイベントはNPCは関係ない。参加しなくても良いんだよ」
そう彼女に近付いて諭す。
「あれ?僕は?」
「ストロマ、黙ってろ」
「…でも、私はもう長くは生きれない」
「だったら、最後はせめて役に立ちたいの」
そう主張する彼女を見て、考える。
彼女の意思を尊重すべきか否か。
本来は止めるべきなんだろうが、こんな彼女の意思を尊重しないのはダメなのではないか。
そう考えて、俺は判断した。
「分かった、君には協力してもらう」
「…ありがとう」
か細い声でお礼を言う彼女を部屋へと戻し、会議は終了した。
後三日は準備に使おうか。
……さて、また大忙しだ。




