ケイサイド34
「ここは…」
見渡す限り見えるのは、真っ白の壁。
しかし、所々黒々しい後と引っ掻いたような傷が付いている。
天井は高く、とても広い。
「……ん?なんだこれは…」
自分の身体を見ると、見慣れない道具が多数存在している。
「こぃよりわんどは闇人の拠点へど乗り込む。準備出来だ者は次々どシャッター開げで殺すに行げ」
そう彼女が伝えると、一斉にプレイヤー達は動き出す。
今まで縛られていた者からすれば、これは最後の戦い。
上で甘い汁を啜っていた事情を知っている者からすれば、願いの叶うかもしれないもののある戦いなのだ。
あわよくば…という考えが生まれるのも必然だろう。
「おい、ケイ」
そうライから声をかけられる。
「何?」
「あの男がどこに行ったから分かるか?」
そう言われ、気付く。
先程から変わりに話していたのは彼だったのに、ここに来てから彼女に変わっていた。
「急いで探さないと」
「ああ、確実に何か企んでいる」
そう話していると、突然後ろから声をかけられる。
「久しぶり、ライ、ケイ」
驚いて後ろを振り返ると、そこにはいつも通りの姿のシズクが立っていた。
ああ、無事で良かった。
そう安心すると共に、彼女に聞きたかった事が溢れ出る。
「シズク、どこにいたんだ?人混みが多すぎて見つからなかったらけどあの場所に居たのか?」
「あー、実はちょっと立て込んでておくれちゃったんだ」
焦ったようにそう聞くが、彼女は至っていつも通りに返す。
だが、俺はそれ以上にある事が気になっていた。
「それと…精霊達は大丈夫なのか?」
「………精霊?そうか、精霊はNPCだもんな」
ライはその言葉で納得する。
精霊達はNPCであり、無理矢理あの場所に飛ばされてから帰る方法は死ぬしか無い。
すなわち、シズクと精霊が一緒に飛んで、シズクが死んでも精霊達には帰る方法は無いのだ。
それを嫌がってシズクだけで飛んだら、シズクには攻撃手段…自衛手段が残されていないのだ。
通常、精霊達は術者が死んでリスポーンしたら、彼らはその場所まで行かなければならない。
イベントなどの場合を別として、基本的にNPCは生き返らないという大原則は覆らないのだ。
「大丈夫よ、この場所には少し、詳しいの」
この場所に…詳しい?
その言葉に疑念を抱きながらも、なんとか飲み込む。
「それじゃあ行きましょう、早く行かないと手遅れになるわよ」
そう言う彼女を、俺は少し遠くに感じた。
……………
………
…
少し遅れてその場所へと向かうと、そこはまさに地獄だった。
数多のプレイヤーが殺され、そしてその殺された者が闇人になるという悪循環。
どんどん悪化していく現状に驚き、そしてそれを止めようと足を出すと、シズクが俺の腕を掴んで止めた。
「今はダメ、我慢して」
「でも…」
そう俺が視線を戻そうとすると、無理矢理シズクは俺を引っ張る。
「こっちだ」
そうライが物陰へと手招きする。
そこに隠れると、シズクが、
「…今から私の言う通りに動いて」
そう俺達に向かって言った。
…正直、今にでも彼らを助けにこの場を飛び出したい。
だが……今ある現状を冷静に把握する。
奴が何をするのか分からない状態でそんな事を…ましてやここにいる全員を助け出すなんて…不可能なのか?
俺の聖魂力で……そう考えるが、やはり無理だと悟る。
「……分かった、言う通りにするよ」
「ありがとう……ライは?」
そうしてシズクがライに視線を向けると、そこでライは……いや、ライの執事は、彼女に刃物を向けた。
「……あなたの言うことは、信用出来かねます」
そう言うと、彼女の首筋にそれを当てる。
「この国の実情は私が調べた為、ある程度の情報は確保したつもりです」
「しかし、私が調べてた限り、どこにも地図などのこの場所への情報はありませんでした」
「あなたは…一体どこでその情報を手に入れたのですか?」
彼がそう聞くと、彼女は黙り込む。
暫くして、彼女は顔を上げると、こう言った。
「言えません」
その瞬間、彼女に向かって刃物を動かす。
実際、こんな状況下でいきなり入手不可能な情報が飛び込んで来たら誰だって疑いたくなるだろう。
特に、シズクと関わりの薄い執事さんなんかは。
でも、俺は彼女を信じるよ。
そうして彼女に刃物が突き刺さる直前、俺は刀を刃物と彼女の間に滑り込ませる。
それを読んだかのごとく、体勢を変えようとするが、ライは彼を掴み、それを止めた。
「何勝手な事やってんだよ、お前は俺の執事だろ」
「ライ様……すいません、不躾な真似を」
そう言われ、すぐに彼女から刃物を離す。
「確かに彼女は怪しい。だが、違反分子としてそうそうに処分をする訳にはいかない」
「ですが…」
「こんな状況だ。利用出来るものは利用しないと…だろ?」
そう言われ、執事さんは立ち上がる。
「先程は失礼しました」
「いえ、だ、大丈夫です」
そう言われた彼女は軽く執事さんを怖がる。
まあ、当然か。
あんな事をされたんだから。
彼女は一回深呼吸をついて、ライに再び聞く。
「……それで、ライは?」
「俺は、お前を信じれない」
それにライは即答する。
実際、こんな状況でシズクを信じるなんて絶対間違ってる行動だ。
レインさんになんて言われるか分かったものじゃない。
「俺はこいつらと一緒に正門から戦う」
そう言って、ライはあの場所を指差す。
「そう、それじゃあ私達は別行動をするわ」
「……ああ、またな」
そう言って、俺はシズクに連れて行かれる。
「…そういえば、政府で秘密裏にこんな実験をやっていたよな」
「こんな実験…とは?」
二人が去った後に、ライと執事は話す。
「記憶に関する実験だ」
「記憶……なるほど、そういう事ですか」
「まあ、実情は知らないがな」
二人はそう言った後にため息を吐く。
そして二人は武器を手に取って戦場に返り咲いた。
………………
………
…
「ここは…?」
「ここは実験者達を輸送する為の道よ」
そう言って彼女は俺と一緒に走る。
そしてその道中で気付く。
……あっやばっ!…結局ヒョウカの特殊能力聞いてねぇじゃん。
不確定な事実があるまま行って良いのかな?
そう思い、俺はシズクに聞く。
「シズク、ヒョウカの特殊能力って…知ってる?」
「ヒョウカの特殊能力…え?そんなの持ってるの?」
狼狽えたように答える彼女の姿を見て、冷や汗が流れる。
ヤバい、完全にやらかした。
こんな状況でそんな大きな事忘れるなんて…本当、何してんだよ。
そう自分を責めながら、俺は考える。
ヒョウカの特殊能力…なんだ?
あの男が利用しようと考えていたのなら、それほど強力な能力に違いない。
ヒョウカはNPCで、一度死ぬと終わり。
相当な恨みを買う役をしていたのだから、当然襲われる事もあるだろう。
でも、彼女は死んでいない。
自衛にも使える能力……分からん。
いくら考えても検討がつかない。
不安を感じながら進んで行くと、そこには…ヒョウカと男の姿があった。




