ケイサイド31
「はぁ、はぁ……」
そう息を切らしながら、俺は火口の上へと登った。
そしてやっとの思いで頂上へと行くと……そこにはカールさんが立っていた。
「ケイ、来たか」
そう飄々とした様子で立って居たカールさんを見て、色々な思いが込み上げて来る。
だが、咄嗟に出て来たのはこの言葉だった。
「どうしてこんな事を……カールさん!」
それを聞いたカールさんは一言、
「君と初めて会ったあの時の事を、君は覚えているか?」
そう聞かれ、咄嗟に思い出したのはライさんのあの言葉。
『闇薬師、古里 洋平か』
数十年経った今でも、印象深く覚えてる。
「でも、カールさんはこの世界でそんな事を一度たりともしてない」
いくら現実世界で悪い事をしてても、この世界では何もしてない。
その罪は現実に戻ってから裁かれるべきだ。
そう俺は思っていた。
「それはする必要が無かったからだ」
「え?」
しかし、帰ってきた言葉は予想とはかなり違った。
する必要が無い?
俺は今まで、カールさんが麻薬を売っていたのは、単純にお金を稼ぐ為だと思っていた。
だが、そうじゃなく、別の目的が?
何か、他の意図が……
そう考えると、何かに気付けそうな気がする。
今回の騒動もその為に……
そこまで考え、あと少しという所で先程まで気絶していたイースから注意をされ、思い出す。
「ケイ……カールの目的は時間稼ぎだ」
時間稼ぎ…そうだ、急がなければ国の人達が…
そしてそう言葉を放ったイースに、カールは興味深そうに言う。
「凄いな、魔物の生態は…あの薬は人間が使えば一週間は意識が戻らないぞ」
「へへーんだ……まあ意識が回復しても……まともに動けないんだがな」
そう苦しみながらイースは話す。
「カールさん、俺は……カールさんを殺す」
「………」
そう宣言した俺の言葉に、カールは反応しない。
ただ彼はその言葉を聞き、あらゆる薬を自身に振りかけた。
「ケイ、僕は…」
そう小声で囁くイースを、俺は離れた場所に置く。
「え?ケイ!?」
そう混乱したイースに言う。
「俺は、カールさんを深陽国の罪人として裁く」
「王として」
難しい事を考えるのはイースやレイヤと比べてかなり劣ってる。
だから俺は、俺のするべき事をする。
今俺のすべき事は…カールさんを殺す事。
カールさんを殺せば教会に自然と送られ、確保してくれる筈だ。
そう考えて、俺はカールさんを殺す。
「ケイ、最後に一言だけ言っておく」
そう突如としてカールさんは宣言する。
「これからも…レインとは仲良くしてやってくれ」
そう言った直後、先程かけた薬の効果なのか、みるみる内に彼は真っ黒な異形の姿へと変えていった。
カチャッ
俺は刀を構える。
「ぐにやあばさやまむなやまぁー!!??」
そう訳の分からない言葉を発しながらその異形は襲いかかってくる。
「……神断」
俺はその様子を見ながら、先程から準備していた技を繰り出す。
一見すると何でもないただの素振り。
しかし、結果は一目瞭然。
その異形は真っ二つに斬られた。
「……はぁ、はぁ」
集中が途切れ、俺は息切れを露わにする。
無事、俺は奴を斬る事は出来た。
……しかし、奴を殺す事は出来なかった。
「ぎやまたななれら!?!?」
そう叫びながら、奴は再生する。
「……流石カールさん、一筋縄にはいかないか」
納得しながら、俺は再びカールさんに刀を向ける。
そして同時に考える。
……どう倒せば良いのかを。
再生をするなら切り続けたって意味無いでしょ?
無限にするかは分からないけど……カールさんならあり得る。
うーん、大抵漫画とかだと火とかに弱い場合多いんだけど、多分それも無い。
ここ火山の上だよ?
火が弱いならわざわざここで戦う事は無い筈。
……分からん。
「まあ良いか」
分からないなら片っ端から試していく。
それしか方法が無いからな。
そう思い、俺は片っ端から技を試していこうとした。
だが、その時イースから忠告が…
「カールさんの目的は、時間稼ぎだ」
その言葉を聞き、俺の身体は止まる。
……片っ端から試していったら時間がかかり過ぎる。
いや、どうしろと!?
「じやまだまにたかゆ!!?」
そう考える間にもカールさんは襲いかかって来る。
それをいなし、俺は斬るが、カールさんは永遠と再生する。
攻撃力、防御力はそれほど高くはない。
だが、なんと言っても再生力が厄介すぎる。
「僕が対策を考える、それまで頑張ってくれ」
そうイースが言うが、逆にそれまで俺が持つのかが分からない。
なんとかこの病気さえ無くなってくれれば、聖魂力によって倒す事は出来そう。
だが、その方法も無い。
完全な詰みだ。
レイヤが来てくれれば多少は楽になりそうだけど……キツい。
……そうだ!
「イース、この辺りだけで良いんだけど、この病気を無効にしてくれないか?」
イースの魔力なら…
「いや、無理だ」
え?
「僕がもし魔力を使えたらとっくにこの気だるさ無くしてるよ!」
って事はもしかして…
「魔力使えないの?」
「いや、そういう事じゃない」
あ、違うんだ。
「今の僕は、魔力の属性が変わってるんだ」
魔力の…属性が変わる?
属性って……呪力とか炎力とかそういうものの事か?
「その属性って?」
「さあ、分からない」
分からない!?
「ステータスは?」
「勿論見れるよ」
ん?…じゃあ……
「ただ、見ても文字化けして分からないんだよ」
文字化け?
「……ゲームバグった?」
「勿論その可能性はある」
「ただ、正直相手がカールさんって事もあって危険なんだ」
……確かにな。
「だから僕は力を使えない」
なるほど、じゃあイースの力には頼れないのか。
……やっぱり詰みじゃない?
後出来る事といえば……
俺は周りを見渡す。
近くに居る筈の俺の精霊達。
彼ら彼女らに頼る位しか出来ないよなぁ。
とはいえ俺は力が使えないから見る事も聞く事も出来ないんだけど……
そう考えていると、どこからか声が聞こえて来た。
『ケイ、これを打開する方法、あるよ』
『私達と、合体するの』
これは……白夜と黒天?
合体ってどういう事?
『私達と合体して、精霊になるの』
そんな事が…
『普通は出来ない、けど私達は普通じゃない』
普通じゃない?
よく分からない。
どことなく不気味な雰囲気すら感じる。
本当に白夜と黒天なのか?
だが、この状況を打開するには、藁にも縋らないと。
「頼む」
そう言うと、俺の身体の内部に、何か異物が入ってくる。
「う、が、あぁ!!」
恐らく白夜と黒天が入って来たのだろう。
それと同時に、二人の気持ちも聞こえて来る。
『殺す、殺す、殺す、殺す』
『憎い、憎い、憎い、憎い』
なんだ…この声は…
そう混乱しながら、俺は二人と合体した。




