登山
「はぁ、はぁ」
そう息を切らしながら俺達は登る。
確実にカールさんは時間稼ぎをしに来ている事が同時に分かった。
先程の噴火による溶岩や火山灰による影響、まず山っていう事で空気が薄いっていうのはそうだが、カールさんが撒いたであろう薬がかなり影響してくる。
毒は勿論のこと、幻惑、狂乱、精神破壊といった精神的に攻めてくる毒。
激痛、痒み、麻痺といった肉体的に攻めてくる毒。
他にも俺が知らないような毒がてんこ盛りで降りかかってくるんだ。
元々ある風邪の熱に加えてこれ。
一歩進むだけでかなりの地獄だよ。
痛覚の調整機能を使ったらまだマシになるが、それを使うと別の問題が出てくる。
「ガオォォォォ!!」
魔物が襲って来る。
……うん、こっちに来るまでそれほど居なかったのってこういう事だったんだね。
アップデートによる魔物の強化の影響で厄介過ぎる。
しかもそれだけなら奴らも薬の影響を受けるだろうしまだ楽だった。
カールさん、こいつらにワクチン打ったね。
明らかにこいつらピンピンしてるし。
………マジでヤバい。
登りきれる気がしない。
片手で術禁止でありとあらゆるデバフをかけられながら風邪にかかった状態で登山。
完全なクソゲーだよ。
え?なんで片手?
ああ、それはケイを持ちながら登ってるからだね。
うーん……本当、キツすぎる。
置いて行こうと思ったんだけどイースが連れてくってね。
まあそれで何故俺がおぶってるのか分からないけど。
「「ガオォォォォ!!」」
「「キエェェェエ!!」」
あー、もう本当キツい。
いくら苦痛に耐性があるとはいえこれは酷いよ。
ドカッ
バコッ
そう鈍い音を出しながら俺は奴らを撲殺する。
テッテレ〜
『レンのレベルが4に上がりました!』
まあレベルが上がるから悪くはないんだけど。
「大体これで半分位か?」
「うん、そん位だと思う」
そう問答を交わすが、正直喋るのもキツい。
3時間程登り、大体半分。
現実世界で換算するとかなり早いが、カールさんがどの位の時間稼ぎをしたいのか分からないからなんとも言えない。
まあでも俺達がする事といったらただ出来る限り早く近付く事だけだからな。
そう思いながら山を登り続け……事件は一時間半後に起こった。
…………………
…………
…
ゴオォォォォオオ
そうけたたましい音と共に地震が起きた。
「はぁ、はぁ」
しかし俺は既に体力が限界に達しており、隣に居るイースは……スライム状態だからよく分からないけどキツそうだ。
それにしても地震かー、この世界で初めて経験したかもなぁ。
そう思い返していると、
ゴオォォォォオオ
再び揺れ始めた。
ゴオォォォォオオ
揺れがどんどん大きくなって来る。
ゴオォォォォオオ
……ちょっと待って。
もしかしてこれって…
そう嫌な予感がしながらも、登る。
ドオォォォォ
けたたましい音がなりながら、頂上から煙が出ているのが見える。
噴火だー!!
いや、え?
さっき噴火したよね?え?
そう混乱しながらも、登る。
落石や溶岩が更に流れて来て、足場という足場を奪ってくる。
…マジでキツい。
ここから登るのなんて無理だ。
足が溶けちゃうよ。
逆に死なない為には降りないと。
………時間稼ぎ、か。
運営なら絶対こんな事はしない。
さっきの噴火は特に何も影響が無かったからまだ可能性があったが、今の噴火は確実に時間稼ぎが目的だ。
……カールさん、どんな方法を使ったかは分からないが、もしそれを魔術無しでやったなら……いや、これ以上はやめておこう。
これ以上言ったらこの噴火以上のヤバい事をして来そうな気がするし。
それにしても…進めないだろ、これ。
「なぁ、イース」
そう相談をする為に隣を向くと、イースは…溶岩を吸収してた。
「ん?どうしたの?」
………あー、そっか。
そういえばそんな事も出来たな。
俺のあのスキルは力使うから無理だけど、そのスキルはいけるのか……そっかー……?
待って、
「もしかしてそのスキル薬とかも吸収出来るの?」
「ん?出来るけど…」
………状態異常かかってないじゃん!
それなのにケイを担がせるなんて酷いよ。
テッテレ〜
『レンのレベルが6になった!』
『レンの病気耐性が9になった!』
『レンの倦怠感耐性が6になった!』
『レンの幻耐性が7になった!』
『レンの狂乱耐性が7になった!』
……まあスキルレベルとかが上がったし別に良いか。
うーん…にしてもカールさんは何のために溶岩を流したんだ?
イースのスキル自体は知っていた筈。
となると防げる事なんて簡単に予想出来る筈だ。
「…レイヤ?」
「ん?」
「ごめん、溶岩に何か入っていたみたい…」
そう言うとイースはピクリとも動かなくなった。
リスポーンをしてない所を見ると、恐らく気絶したのだろう。
……あー、そういう事か。
溶岩を食う事が想像出来れば、その中に仕込めばイースは終わり。
状況を把握出来ず、ケイが気絶してる事を知らなくても、まずイースが居なければ溶岩の上を渡るなんて事が出来ない。
まさに詰みだな。
…はぁ、どこまで予想してるんだよ。
二人を担いで頂上に溶岩を飛び越えて行くなんてこの状態なら不可能だ。
うーん……いや、打開策は思い付くんだよ、でもね…大分あいつら次第なんだよなぁ。
来れれば良いんだが……
そう俺は考えながら、ひとまず結論を出した。
……行くか!




