結果
生産大会当日、工房等のある初期地点は大変な事になっていた。
罵詈雑言を浴びせる者、自分の作品に自信が持てず、緊張する者。
自分の作品を壊され、泣き叫ぶ者まで様々だ。
そんな中、俺達は……
「ヤバいね」
「ヤバいわ…」
迷子になっていた。
ギリギリまで「最後の仕上げだー!」って言って彼女が工房に篭ってたから提出場所が分からず、めちゃくちゃ走り回っていた。
地図見たってそんな事書いてないしねぇ。
恐らく知らされてたんだろうけど……スルーしちゃったみたいだし。
誰かに聞こうと思っても、まず誰も教えてくれない。
まあそりゃあそうなんだけどね。
だって教えなければライバルが一人減るもん。
「はぁ…どうしよう」
そう彼女は項垂れる。
まあ事前に確認しなかったし、自業自得と言えばそうなんだよなー。
とはいえ、ここまで関わって来たんだし、しっかりと最後まで役目を果たして終えたい。
………よし、こうするか。
「仕方ないから俺が身を削って探すよ」
「身を削って?」
そう彼女が疑問に思う中、俺は義手を手に取り……引きちぎった。
「えっ!?」
そしてこの間に妖力探知を使用!
それらしい、それらしい所……あった!
地下だ!
しかも工房からそんなに離れてない。
……なんで気付かなかったんだろう。
そう考えていると、驚いた様子でこちらを見る彼女の姿が映った。
「あ、あんた、腕…」
腕?ああ、
「ほら、もう戻ったよ」
そう言う俺の視線の先には、既に腕に引っ付いた義手がある。
この義手外せないけど、こういう所が便利なんだよなぁ。
「え?あれ…え?」
いやー、それにしても試して良かったなぁ。
そして俺は混乱する彼女の横でそう思っていた。
この義手の効果の中にある魔術妨害。
それは実際、近くにあるものを巻き込んででも発生する。
だが、俺があの記憶?だっけ…を見る時に使ったあの魔回路…いや魔術はキャンセルされていなかった。
何故か。
それはこの義手を装着していなかったという理由にあると思う。
実際この義手が完全に装着される前に鑑定したら出来た訳だし。
っていう訳でかなりパワープレーだけど無理矢理妖力探知を使って探そうって思った。
……それにしても。
灯台下暗しとはまさにこの事!
あんな場所にあったなんて知らないよ。
「とりあえず場所が分かったから行こうか」
そして俺は手を引っ張り、彼女を連れて行った。
……………
……
…
そこでの提出、採点は滞りなく進んだ。
採点の基準は味、外見、匂いの三つ。
その後採点が終わり、暫くすると一週間経過として一箇所にプレイヤー全員が移動された。
「レディース、アーンド、ジェントルマン!」
「皆様お待ちかねの結果発表のお時間です!」
あれから少ししか経ってないのにもうか。
「今回は様々な部門に参加する人がおり、自分の作品の結果だけではなく、他の作品を見たいという方も多いでしょう」
「という事で本日はあなた方の参加したそれぞれの部門の結果を見て、その後見たい方は他の人達の結果を見るという形で行きたいと思います!」
「それでは皆様、どうぞ!」
そう運営が言うと、俺達は再びどこかに飛ばされた。
隣では彼女が必死に祈ってる。
……そういえば未だに彼女の名前聞いてないな。
そう若干の雑念を抱えながら、俺達の参加したお菓子部門が開始した。
「それではトップ5から発表していきたいと思います」
「5位……作成者、ヒュウギさん。クッキーです!」
……クッキーか。
まあ一位を目指す彼女はまだ出ない方が良いんだよな。
「クッキーを作る人は多かったです」
「しかし、このクッキーは他の人のクッキーとは一線を超えていました!」
「彼の作るクッキーの現物のコピーを大量に作製したので皆さん、召し上がってみて下さい!」
そう運営が言うと、目の前の机にクッキーと水が用意された。
……コピーって…作成者さんの心が抉れそうだな。
手塩をかけて作ったクッキーが速攻コピーされるんだもん。
それにしてもこのクッキー…
「そしてなんとしてもこのクッキー、注目すべき点が一つあります」
「なんと、チョコクッキーなのです!」
チョコが入ってる…
現代では幅広く流通するチョコレートだが、この世界ではあまり普及していない。
理由としては、この世界は日本をモデルとして環境が出来ているからだ。
チョコレートの元であるカカオは南アメリカとかその辺で栽培されている。
その為、こことは一切環境が違うのだ。
だが、ここは一応イベント内。
チョコレートを作れる環境があったかは定かではないが、それと思しき物を…作ったのだろう。
まあ一つ確実に言えるのは、このイベントでチョコレートを手に入れられる方法が無かった。
「それでは皆さん、どうぞお食べ下さい」
そう運営から言われると、次々とプレイヤーは口にそれを運んだ。
…………美味い!
あー、現実ではこれ位の味のものは多いんだろうけど、まさかこの世界でこれを食べれるとは…
「美味しい…」
そう隣に居る彼女も呟く。
…これで5位なのか。
そう若干の畏怖を感じながらも、順位発表は続く。
「4位…作成者、リンさん。ケーキです!」
そう発表されると同時に目の前にショートケーキが現れた。
ケーキ!
「これもまた、作製する人が多かったんですよ」
まあ王道だもんな。
お菓子かどうかという疑問はあるけど。
そう考えながら、俺は口にケーキを運んでた。
「ですが、その中でもこれは突出していました!」
「勿論、特にこれといって普通の物と違う所はありません」
「しかし、これは確実に美味かった」
「一つ一つの工程を丁寧にこなしているのでしょう」
そう夢中でそのケーキの事を話す運営の言葉を聞き、
俺は…
…あ、ケーキを食べるのに夢中で聞いてなかった。
まずもってして聞き流していた。
次はちゃんと聞こう。
「3位…作成者、ペティさん。これなんと……シュークリームです!」
シュークリーム!?
その言葉を聞いた瞬間、俺は驚愕しながら目の前にあるそれを見た。
「現実世界でも結構有名ですよね」
「お菓子界きっての難しさを誇るお菓子、シュークリーム」
なんとそれをこの世界で作り上げたのです!
「凄っ!」
そう思わず声を上げるのが聞こえる。
それにしてもこれは、本当に凄いな。
機材も充分に揃っていない中であのシュークリームを作るなんて……
「勿論、難しさだけで選んだ訳ではありませんよ」
「食べてみたら分かる通り、本当に美味しい」
その言葉に釣られて、俺も口の中にそれを運ぶ。
……マジで美味いわ。
味の感想は、その一言に尽きた。
「これが…3位」
そう呟く彼女は、とても不安そうだった。
………まあでも彼女の作品とはテイストが大分違うし比較対象には出来ないよな。
そう思いながらも俺も、結構緊張して来た。
「さて、それでは遂に、2位の発表をしたいと思います!」
遂に2位…
ここで来なければ…一位になるか、6位以降のどれか。
そういう事になる…。
「2位…作成者、ヒラカさん。日本といえばこれでしょ!和菓子です!」
……!!
来なかったー!!
いやー、俺もかなり緊張して来たよ。
……さて、これで一位か6位以下かの二つだけだ。
と、まあ緊張の糸も切れたし、和菓子を食べて心を落ち着かせますか。
「この和菓子は何と言ってもあんこ!」
「これが非常にこだわって作られているのが分かりますね」
そう運営が力説するのを聞きながら、俺は和菓子を食べる。
………和菓子食べた事無かったけど美味いわ。
……まあただ正直5位から2位までの美味しさの順序がどうとかは分からないけど。
「それでは最後になりますが、第一位の発表です!」
そう運営が言うと、これまでざわついていた観客席のプレイヤーの声が、ピタリと止まった。
それだけ皆も一位を心待ちにしているって事か?
…いや、多分運営が声帯をまた無くしでもしたんだろ。
そう思いつつ、俺は運営の声に耳を傾ける。
「第一位は…」
……第一位は…
「作成者、ミキさんの、飴細工です!」
………飴細工!
……うん、彼女は確かに飴細工を作ってた。
まあただ……ミキ…なのか?
うーん、名前が分からないせいで微妙な反応になっちゃった。
そう思っていると、
「やったー!!」
隣に座っている彼女…いや、ミキさんが、大声を上げて喜んでいた。
………どうやらミキさん本人みたいだね。
そう安堵していると、目の前に彼女の作った飴細工が置かれる。
「この飴細工は美味しさは勿論の事、何よりその見た目が非常に素晴らしいです」
「細部までこだわられて作られたそれぞれの花、そしてその見た目にあったフルーツの味、まさに非の打ち所がありません!」
へー、そこまで細かく出来てたんだ。
俺は味見してないから一切分からないけど。
「それでは皆さん、一位に輝いたこの飴細工、ご試食どうぞ!」
そう運営が言うと、プレイヤー皆が一位のそれを食べ始めた。
……………
………
…
料理部門の中のお菓子部門、それの結果発表を終え、ついでに色々な部門を見て回った。
…まあ、特別に訳が分からなかったのはアイドル部門だな。
それぞれの出場者のグループの踊ってる姿を見て、見ているプレイヤーそれぞれで投票して決めるっていうなんとも特殊な事をしていた。
他には…当然の事のようにカールさんとレインさんが優勝した事位かな。
あ、勿論アイドル部門にはイースが強制参加させられて、見事に優勝してた。
そういえば…イースが生産職大会で出場してたら終わってたじゃん。
だって何でも魔力で出せるんでしょ?
チートだよ。
後は…そうそう、このイベント、まだ続くみたい。
あの後彼女…ミキさんにお知らせが届いたらしい。
確か総合生産大会だっけ?
それが本戦として、優勝した人が参加させられるみたい。
………確かに闘技大会もそんな感じだったけど面倒臭くないか?
…まあ良いか。
俺がするのは手助けだけだからね。
もうちょっと続きます。




