イースサイド25
シズクが倒れた。
予兆も無くいきなりだ。
「脈は?」
そう聞くと執事さんがゆっくりと確認する。
「問題ありませんな」
命には問題が無い事を確認した。
となると病気か?
いやでもまだ病気になった人は居ないから多分まだこの世界に病気は無い。
「殺す?」
殺せばリスポーン地点である国に戻れる。
そうケイに問いかけるが、
「いや、連れて行く」
そう答えた。
海の上まで戻すという方法もあるにはあるが、かなりロスが大きい。
となると連れて行くのが確かに最善…か?
「この先も共にするのに、重要な場面で当事者が居ないのはダメだ」
まあ確かに。
でも、
「その分この人の負担も大きいんじゃないかな」
「ああ、だからこれを使う」
そう言ってケイは懐から薬瓶を一本取り出した。
「これで暫くの間は眠って貰う」
「身体に異常が無いのなら、恐らく精神面の問題だろうからね」
なるほど、確かにその方法なら負担無く連れてける…けど、
「誰が連れて行くんだ?」
そうライが口を挟んだ。
僕が言おうとしてたのに!
「勿論俺が連れて行くよ」
「……啓…」
「シズクも頼ってくれてるみたいだしね」
………そうだね。
それじゃあ安心かな。
「それじゃあ行こうか」
「ああ」「うん」…
そして僕達は探索を始めた。
………………
………
…
ドカ、バカ、ドッカーン!
周りを探索し、一つの扉を見つけた。
上から見た限り、どうやらこの施設は円形のようだった。
恐らく今居る外側が通路で、中に部屋が繋がってるんだろう。
と、まあそこまで推測出来たんだが、その後が問題だった。
ドアが開かない!
入る為の鍵なんて当たり前のように持っていないから、とりあえず壊そう!という結論に至った。
で、そう思い立ったは良いけど扉に術が効かないんだ!
いくら殴っても硬くて壊れないし、もう凄い。
で、結果、とりあえずまだダメージの入る壁の一部分に穴を開けて内部をスライムである僕が侵入して開けるって事になった。
うん、これ僕開ける必要無いよね。
元々はスパイとして侵入したんだからスパイらしく情報掻っ攫えば良いよね。
そして今、破壊活動を開始して4日目!
もう全く壊れる気配が無い。
まあ多分後少しなんだろうけど。
「おーい、交代の時間だ」
あー、僕の時間か。
上の人達はもう海で遊んでるんだろーなー、良いなー。
そう色々と考えていたら、
ドカーン!
「あ……繋がった」
「「繋がった!?」」
繋がった……よし、作戦決行だ!
そう思い立ち、
「それじゃああばよー!」
そう言ってスライムへ形を変えたその時!
僕は、見てしまった。
世界樹さんの、宝玉のようなものを持ったサキを。
「これ、なーんだ」
………えーー!?なんで持ってるの!?
あれ?え?僕落とした?え?
そう混乱に陥っていると、
「俺があらかじめ予想し、サキにとって来て貰った」
そう淡々とライが話した。
「お前は元々スパイだからな、ここで裏切る可能性は十分あった」
「だからお前にとって、人質になり得る物をサキに盗んで貰ったんだ」
「あたし犯罪者だし、手癖悪いからね」
………終わった…僕のスパイ計画が…
「それじゃあ行ってらっしゃい」
そう意気揚々とケイが言う。
「うう、そんなー」
そう残念な思いを口に出しながら、スライムへと変わり、中へと入って行った。
………………
………
…
中はなんか、普通の会社みたいな感じだ。
壁は鉄みたいで凄い雰囲気が出てるんだけど、なんか机と椅子が並べてあって、資料が散らばってる感じとかまんまだし。
で、ドアね。
とりあえずダイナマイトでも置いて、
チッチッチッ……ドカーン!
うん、若干だけど壊れてる。
よし、破壊だー!
そして僕は内部からドアを完全に破壊し、中にケイ達を入れた。
「あー、良かった、これで情報持ち逃げされたらどうしようかと思ったよ」
「じゃあ返せー!」
「サキ、返して」
「はーい」
そしてサキはすんなりと宝玉を僕に返した。
あー、良かった。
レンはこの宝玉を見ただけで何か分かったらしい。
ならそれは僕にだって分かる筈だ。
だから僕は手離さずにずっと抱え、見た。
…けど分かんないんだよなぁ。
この宝玉に一体どんな秘密が隠されているのか。
「それじゃあそれぞれ資料を集めて行こうか」
まあでも今考える事じゃないな。
今しか出来ない事は今やらないと。
そして僕達は資料を漁り始めた。
………………
………
…
「なるほどな、ここでは人体実験をしていたのか」
そしてこんな事が分かった。
「いや、正確には生物実験か」
「動物でまず実験し、そしてそれを人間で試す……まさに外道」
「死者多数、拷問まで行っていたらしいわ」
…でもこの情報にあるものが、ここには一つ無い。
「だけど、ここにはそれを行う実験場が無い」
「…!!確かにそうだ」
そして僕は立ち上がり、そしてこの部屋の端へと進んだ。
「ここ、ちょっと切れ目が見えるでしょ?」
そしてこの建物はもっと縦長だった。
すなわち、
ドカーン!
「ここに下への入り口がある」
「えーっと…爆破して良いの?」
あ、下に瓦礫が詰まって降りれない。
かっこよく決めたかったのに!
「これ自演か?それとも天然なのか?」
自演……あ、そうか!
この隙間に入れるのは僕だけ。
いや、まあ無理したら細身のサキが入れるかもしれないけど恐らくそんな事は多分させない!
周りを壊そうにも多分ここが蓋になってたから壊れただけで、恐らく周りは壊せない。
たまたまだけどこれまた情報奪える状況まで行けるじゃん!
「それじゃ!」
よし、今度こそリベンジだ!
そう思い、スライムに変身してると……再び見てしまった。
世界樹さんの宝玉がケイの手に握られているのを。
「え?いや、え?」
僕はそれを見て、激しい混乱に陥った。
そして再び自分の懐にある宝玉を見る。
うん、しっかりと……あれ?こんな重さだったか?
「それは偽物だ」
………また騙された………
「………」
僕は恥ずかしさを隠しながら中へと入って行った。
……めちゃくちゃ恥ずかしい!
って、これ……
中は思った以上に狭く、道というよりかは……
通気口じゃん。
地下一回の。
下に隙間が見えるから間違い無い。
まあ確かに蓋が崩れた位で道が塞がる訳ないもんな。
まずはここから出て、上とここを繋げないとだな。
そう考え、僕は触手で内部を破壊し、地下へと降り立った。
……血や死肉の匂いで充満してる。
換気の場所もあったんだろうが、恐らく壊れてるな。
それにしてもこの雰囲気……久しぶりに味わったなぁ。
現実世界ではしょっちゅうだったのに。
ガサ…
そう物思いに耽っていると、どこかから物音が聞こえた。
そしてその方向を見ると、物影で見えなかった姿が見えた。
それは……真っ黒い姿をした、異形であった。




