ケイサイド2
その後、俺は初期リスポーン地点で暫く立ち尽くしていた。
すると、村に来なかった事を不審に思ったのかライ達がこちらに探しに来た。
俺は、大事な時に動けなかった責任を感じ、後悔していた。
だが、そんな事を気にせずライが開口一番にこう言った。
「馬鹿野郎!心配掛けさせんな!」
「ちょっとライさんいきなりそんな事を言うのは可哀想ですよ」
「うるせー!仲間に心配を掛けるなんてリーダー失格だぞ!」
「ライさん言い過ぎです!」
ああ…………そうだ。
「俺はリーダー失格だ。」
「仲間に心配掛けて…………大事な時には動けなくて……………リーダー失格所か仲間失格だな…………」
「ケイさん……………」
「何言ってんだケイ」
「ライさん?」
「俺は大事な時に動けなかった事を怒ってるんじゃねぇ。心配を掛けた事に怒ってるんだ」
「第一人間相手に戦う初戦であんな予想外な事が起きたんだ。対応しきれる訳がねぇ」
「そうですよ。悪いのはあの狼です!」
「そういう事を言ってるんじゃねぇが、心配掛ける位なら俺達に相談しろ!仲間なんだからな」
「ライさん…………いや…………でも…………」
「うじうじしてねぇでシャキッとしろ!俺達は気にしてねぇ!それで良いだろ!」
その瞬間………俺の心にあった曇りが取れた気がした。
「はい、心配掛けてごめんなさい。これからは皆が頼れるリーダーになれるように頑張るよ」
「ケイ、皆が頼れるリーダーだけでなく、皆に頼れるリーダーにもなれよな!」
「ケイさんならなれますよ」
「ああ、これからもよろしくな」
「ああ」 「はい」
こうして俺は立ち直った。
村へ戻ると、その瞬間……………意識が途切れた。
…………………
…………
……
ええっと……………ここは何処だ?
確か…………そうだ!村に行った時に意識が無くなって…………ここはどこだ?
沢山の人がいるけど…………って俺も元の姿だ!
あ、あそこに何かライさんみたいな人がいる。
「ライさん………ですか?」
「ああ、そうだがお前は…………ケイか?」
「そうですよ。シズクはどこだろう?」
「おい、ここはどこだーー!」
「そうだな、この人混みだし顔も違うだろうから見つけるのは厳しいと思うぞ」
「そうか………」
「皆さん静粛に!」
「なんだ?」
いきなり頭上に黒髪の男性が現れた。
「皆さんが驚く気持ちは分かりますが、今から説明させて頂きます」
説明?もしかしてこの男の人が閉じ込めたのか?
俺がログアウト不可だという事実に気付いたのはゲームを始めた初日にログアウトしようとし、その手段を知らなかった事から始まった。
他のプレイヤー達も知らず、どうしようかと考えていた。
だが、ログアウト不可に気付いた人達による暴動までも起こってそれをなだめる事が大変でさほど気にする事が出来かったが、ログアウト不可という事実には軽い怒りを抱いていた。
「では、まず自己紹介をさせて頂きましょう」
「私がこのゲームにあなた方を閉じ込めた、このゲームの総責任者です」
その瞬間………辺りは暴言に満ち溢れた。
「ふざけんな!」「此処から出せ!」
「警察に訴えるぞ!」……………
しかし、俺は驚きはしたが、シズクが死んだ時程の衝撃は無かった。
だが、少しずつふつふつと怒りが湧いて来た。
隣のライさんを見てみるとあまり怒ってはいないみたいだ。
「何で怒って無いんですか?」
「ん?ああ、怒ってはいるぞ。ただ、暴言を吐いた所で何ともなんないからな。大きな怒りは冷静さを欠くぞ」
その言葉に納得した俺は怒りを静め、冷静になろうとした。
「このままだと話が進まないので、失礼します」
なんだ?
その瞬間…………あれだけ煩かった声がピタリと止んだ。
「今、皆様のアバターの声帯をなくしました。これで話に集中出来ます」
あれ?本当に喋れない!
「今回私達が貴方方を呼んだのは、このゲームのバージョンアップと、貴方方プレイヤーの人間側と、魔物側でこれからどうするかを話合って貰います」
「丁度始まりの森を抜けたプレイヤーが現れたため、今のタイミングで呼ばせて貰いました」
始まりの森って…………ああ、あの森か。
「さて、質問はありますか?」
え?喋れないのにどうやって質問すれば良いんだ?
「では、手を上げている貴方」
なるほど、手を上げるのか。
「あー、あー。よし、喋れる」
「どうやったらログアウト出来るんですか?」
俺もこれは気になってた。
「今の所貴方方をログアウトさせる気はありません」
え…………ログアウト…………出来ない…………。
その言葉は衝撃的で、俺の思考の幅を狭めた。
「ですが、この先定期的にイベントを出すつもりなのでそのご褒美として、でしたらあるかもしれません」
イベントの成功でログアウトできる?
イベントに積極的に取り組まないと。
「他に質問はありますか?」
「では、手を上げている貴方」
「はい、クエストとはなんですか?」
クエスト…………国造りのか。
「はい、クエストとは重要な事を神からの依頼としてプレイヤー方にクリアして貰います」
「クリア出来た場合は?」
「クリア出来た場合、プレイヤー方だけではなし得ない褒美が貰えます」
「クリア出来なくても何の支障もありません」
「クリア出来た場合の褒美の例としては、国造りが成功したら特定の場所でプレイヤー方がリスポーンする等です」
これって本当の事?リスポーン地点の固定は村から遠い初期スポーンの人にはかなり便利だ。
国造り…………成功させないと。
「他に質問ありますか?」
「では、手を上げている貴方」
「このゲームのバージョンアップとは具体的に何をするんですか?」
あ、そういえば最初にこのゲームをバージョンアップするって言ってたな。
「はい、このゲームに体力と睡眠のシステムがありませんでした」
そうなの?
「なので、休憩無しで動いたり、開始から3日程経っているのに睡眠をしていない者が少数ですがいます」
俺普通に疲れて毎日寝てたんだけど。
あれって全部俺の精神的な疲れだったって事か。
まあ、いきなりゲームの世界に来たから疲れてもしょうがないよね。
「このままだとゲームバランスがおかしくなるため、修正させて頂きます」
「他に質問はありますか?…………ありませんね」
「では、これから魔物プレイヤーと人間プレイヤーで分けます。30分程あるので、これからの方針を決めて貰います」
え?また意識を失わせ……………瞬間移動した!
「これから貴方方人間プレイヤー達には、方針を決めて貰います。上にあるタイマーを見てください」
「このタイマーがゼロになったら話し合いは終了です」
唐突に始まったな。
「おい皆、聞いてくれ!」
ライさん!?
「俺達は今、村で国造りをやっている。それに賛同してくれる奴は手を上げてくれ!」
そうして手が上がったのは半分程しかいなかった。
「何言ってんだ!俺達も国造りしてるんだぞ!」
そう白髪の男性が言った。
え!?
「どこでやってるんだ?」
「村に決まってるだろ!」
って事は村は2つあった!?
「だが、掲示板にはそんな事書いてなかったぞ?」
「掲示板?そんな物あったのか」
「私も知らない」「俺もー」「知らないー」…………
「掲示板ってのはな、メニューにあって、メニューってのは、フレンド登録、フレンドリスト、痛覚設定、現在時刻、掲示板閲覧の5つの機能があり、掲示板閲覧で、俺達は情報を共有してたんだぜ」
「そんな機能があったのか………知らなかったぜ」
確かに俺もライさんに知らせられなかったら分かんなかったかもな。
「おいおい、さっきから聞いてりゃあ国造りに参加するのは確定みたいに言ってるが、俺はそんなのには参加せずに個人で動かせて貰うぜ」
「私もそうさせてもらうわ」「俺もー」…………
え?個人で動くの?俺は皆で協力したかったのに………。
「じゃあ、3つのチームに別れるか」
「一つは俺達ケイチーム」
え?俺?
「もう一つはお前ら…………名前なんて言うんだ?まあとりあえず名無しチームで良いか」
「ああ、今だけ使えれば良いんだからそれで良い」
「最後は、チームと言うより個人で動く人達で集まってくれ」
「分かった」「分かりました」「了解」……………
「じゃあそれぞれで話し合いを始めてくれ」
「じゃあ、こっちも話し合い始めるか」
「そうだな」「おう」「やるぞ」……………
「まあ、リーダーのケイにやって貰おうか」
「え?俺?そのままライがやれば良いじゃん」
「やっぱりリーダーなんだしケイに任せるぜ」
なんか押し付けられた感が凄いけどまあ、良いか。
「俺は魔物プレイヤー達と協力関係でいきたいと思っている」
「お、おい」
「やっぱりここはプレイヤー同士で協力した方がイベントも効率的に進められるから、ログアウトが出来るのも早まると思うし」
「確かにそうだな」「良さそうだね」……………
「そう上手くはいかないと思うんだが」
ライさんが何か言っていたが、聞こえなかった。
「改めて聞きますが、ログアウト不可については具体的にどうするんですか?」
ログアウト不可…………俺は元の世界に帰りたいし、皆もそう思っているはずだ。
だからこそやっぱり、
「ログアウト不可については魔物プレイヤーと協力し、積極的にイベントに取り組んで皆で元の世界に帰ろうと思う!」
「「「「おおーーー!」」」」
「それが今後の方針だ!」
その力強い声に一同安心したのか、ケイチームの人達のテンションはかなり高まっていた。
「大丈夫か?」
ライが心配そうに発した声もプレイヤー達の声でかき消されてしまった。
そしてここで丁度話し合いの時間が終わった。
「さて、30分経ったので、貴方方を元の広場に戻します」
また瞬間移動か。
「貴方方も十分話し合いが出来たみたいですのでそれぞれの魔物プレイヤー、人間プレイヤーの代表、前に出て来て下さい」
そして魔物側と人間側から1人ずつ前に出て来た。
「では、始めに魔物側、どうぞ」
「僕達は、人間達と対立関係でいようと考えています」
え?
その瞬間、俺達は息を飲んだ。
「こちら側の言う事は以上です」
まさか相手から敵対すると言って来るなんて………。
「では次に、人間側、どうぞ」
俺は3チームに別れた事も忘れて気が付いたら前に出ていた。
「俺達は、魔物側と協力しようと話し合いで決まったんだけど、まさか魔物側が敵対しようと考えていたなんて…………………」
「俺達が戦う理由はない!だから、一緒に協力しようじないか」
「すまないが、こちら側の総意が対立関係なんだ!」
「どうして?どうしてそこまでして争うんだ!」
どうして一緒に協力出来ないんだ?
ログアウトを早くする為にも協力した方が良いのに…………何で。
「以上を持ちまして話し合いを終了させて頂きます」
「ちょっと待って!話は終わって…………」
その瞬間、俺の意識はなくなった。




