ケイサイド25
「クライムの王様、この人達はどういう……」
「ただの小悪党だ。強力な兵器を手に入れたね」
……なるほど、それじゃあその操作者についてはあまり問題はない。
というかそれよりも何故王様がこんな子供なのか気になるんだけど。
まあプレイヤーなら子供の姿になれるけど……なんでそんな格好にしたんだ?
っと、今はそんな事気にしている暇はないな。
「その、強力な兵器って……」
「サキ、そしてシム達一向だ」
「なっ!?」
なんで彼らが操られているんだ?
「ただこれ以上は言えない」
「……分かった」
クライムにも色々と事情があるのだろう。
「おいおい、王様よ、よくもこき使ってくれたなぁ」
「お前NPCの癖に生意気過ぎるんだよ」
「バラバラに殺してやる!」
「………NPC!?」
え?え?
「ああ、俺はNPCだ」
ええー!?
「何ぺちゃくちゃ喋ってやがる!」
「やっちゃいましょうぜ!」
「おう、行け!サキ!」
……これはヤバそうだ。
「大丈夫、君の想定する事にはならなそうだよ」
「え?」
そう呆気に取られていると、サキはこちらに襲って来ず、自らを操作する彼らへと襲いかかった。
グサッ
「ぐはっ」
ザクッ
「がはっ」
むしゃむしゃむしゃ
「な、何してるんだ……襲うのはあっちだろ……」
グサッ
「がっ……な…んで……」
「彼女への支配力は年々弱くなっていった」
「勿論動かないようにするだけならば十分なものだったんだ」
なるほど……
「でも、彼らはそれを支配しようとした」
「彼女の動きを限定的だが、自由にしてしまったんだ」
「そして操作者の居なくなった彼女は……無差別に人間を喰らいだす」
それって……
「大分やばい状態じゃないの?」
「そうだね」
じゃあ早く捕まえないと!
そう考え、今まさに俺達は彼女を捕獲に動こうとした。
だが、その時、
「なっ!魔回路を……喰ってる……」
そうクライムの王様が言った。
そして俺はその言葉に気を取られた。
魔回路?
「新たな魔術の構築……これはまずい!」
何がまずいんだ?
「くそっ、さっきの技の影響で魔術が使えない」
「今すぐ彼女に襲いかかれ!」
え?
何がなんだか分からないまま、俺達は襲いかかろうとした。
しかしそれはシム達によって妨げられ……間に合わなかった。
「ちっ、せめてこいつらだけでも!」
そう王様が言うと、俺達の周りに半透明なバリアみたいなものが張られた。
すると、彼女の身体から黒い煙が上がり、そしてそれが雲になり、雨となって降り注いだ。
バリアのおかげで俺達にはそれはかからなかったものの、その雨は世界中に広がった。
そして数秒後、その雨が止むと、大きな奇声がこの世界全体に広がった。
一人のものではない。
数多の人間達の、だ。
「今の魔術により、この世界にいる雨のかかった全ての人間が、餓鬼へと変わった」
「全ての人間が……餓鬼に?」
「僕は暫く動けない、だから……後は頼んだ……」
バタッ
「「王!!」」
全ての雨にかかった人間が……餓鬼に?
皆避難させたのに……あそこには雨よけはない。
じゃあ、NPC達も全員……?
認めなくない現実、そして自分への怒り。
師匠の死は自分の知らぬ所で起き、そしてそれには自分への無力感以上の悲しみが自分に襲いかかった。
だが、これは目の前で起こった事だ。
それとは訳が違う。
自分で、何とか出来た事なんだ。
「今すぐ、あいつを殺さないと」
「え?」
どうする、どうする、どうする……
あいつを殺しても直らないかもしれない。
あいつを殺さないと。
どうすれば……
あいつを殺さないと。
ひたすら考えるも、怒りの感情にそれを邪魔される。
そしてその怒りは許容範囲を超えた。
その怒りはトリガーとなり、力が覚醒する。
脳裏に浮かぶのはクリスマスで貰った英雄の物語。
最初は本自体を貰い、翌年からドンドンページを足されていった。
英雄譚
その村にはある少年が住んで居た。
その村は自給自足で成り立っており、その少年は外の世界に憧れる一人だった。
しかし、そんな少年に悲劇が起こった。
大量の魔物達が攻め込んで来たのだ。
それに逃げ惑う村人達。
そしてそれによって彼は両親を無くした。
それがトリガーとなり、彼は力に覚醒した。
その力の名は……聖魂力。
自分自身の意思の強さで、万象に影響を及ぼすその力は、彼の魔物を殺したいという怨みの気持ちに対応し、魔物は一瞬にして消し去られた。
しかし、それと同時に彼は手に入れてしまったのだ。
大罪スキル、憤怒を。
テッテレー
『ケイは固有スキル、怒れる勇者を手に入れた!』
『ケイは条件を満たした為、災罪の種火を手に入れた!』
『ケイの仙力は聖魂力に変化した!』
そして彼はその力でこの雨の効果を消し去った。
「殺さないと…殺さないと…」
彼はその怒りの感情のまま、彼女を殺そうとした。
しかし……ケイの前に彼が立ち塞がった。
「こいつを殺されるのは困るんだ」
ライだ。
「殺さないと…殺さないと…」
それを無視するかのように押し通ろうとするケイ。
だが、ライはそれを黙っている訳ではない。
「……え?」
ドサッ
ケイは投げられた。
そしてその隙に、
「おい、爺、こいつを任せた」
「畏まりました」
そうどこからともなく異形な姿をした魔物を呼び出した。
「……混合獣」
「はい、イース様。私は混合獣でございます」
「殺さないと……殺さないと……」
そうひたすらに呟くケイを見ながら彼は言った。
「ほほっ、彼女を殺したくば私を倒してから行きなさい」
その様子を見てケイは襲いかかる。
だが、
「まだまだひよっこですねぇ」
ドスッ
「ガハッ」
「人間の壊し方なら私の方が知っています」
ケイの腕は反対に折れていた。
「………殺し屋、八咫烏」
「やはりあなたは知っていましたか。北条翠様」
「え?どういう……」
シズクが呆気に取られる中、彼らは話す。
「雷蔵様は気付いていました。あなたの正体を」
「だろうな、あんなに切れる奴なんだし」
「殺さないと…殺さないと」
そう呟く彼の腕は一瞬で元の方向へと戻った。
「僕は参戦しないから安心して良いよ」
「それはそれは、ありがとうございます」
「それにしてもやっぱりライは朝霧家の人間だったか」
「はい、立派な当主様です」
そうイースと爺さんが会話する中、ケイはひたすらなは爺へと挑み続ける。
「ですから、私も出来る限り当主の役目を手助けしようと思う所存です」
「出来ると良いね」
「はい、きっと雷蔵様なら、成し遂げられます」
「彼女を……救ってくれます」
ライの正体とは!




