6 雨水の願い
超お久しぶりです。宵です。遅れて申し訳ないです。
今回の話の主役はタイトル通り雨水ちゃんです。
先に話しておくと、幼馴染4人組のうち雨水だけ引っ越して来て、他3人はずっと仲良しっていう設定があります。それと書けてよかったです。
前書きが長くてもつまらないですし、とりあえず本文どうぞ!
「はじめまして。雨水に雫で、雨水雫です。」
幼稚園に引っ越してきた私を興味深そうな目で見る3人。
ありふれた表現だけど、私はこの日みんなに出会ったことをまだ昨日のように憶えている。
生意気そうな寒太に、おおざっぱそうな春楠、幼稚園児なのに腹黒そうな清明。バラエティに富んでるなぁが、みんなの第一印象。
私のパパの仕事の都合でここに引っ越してきたわけど、正直この引っ越しはとてもありがたかった。
幼い頃から読書が好きなせいか、幼稚園児にも関わらず、私の精神年齢は大人びていたらしい。引っ越す前の幼稚園では、私に異様にちょっかいを掛けてきた男の子を、正論で潰して泣かせた経歴を作ってしまった。前の日に読んだ本が法廷での逆転物だったのが悪い。
変に心が成長したためか、幼稚園ではあまりよく思われてなかった上に、先生からも手に余るような対応をされたことにも若干察し、そしてその扱いにも慣れはじめていた。ただ、心によくわからないモヤモヤが溜まっていくのも感じていた。
だから、新しい場所にもあまり期待していないというのが、引っ越す前の率直な感想。中途半端に育った心を持つのは私だけで、周りの子供はまだ幼稚。当たり前なんだけどね。
先生から軽い紹介をされた後、自由時間になる幼稚園。周りの同級生は、私よりも鬼ごっこの鬼決めに夢中。みんなの行動は年相応で当たり前のことだけど、なぜか少しモヤモヤした。
結局私は誰にも声をかけず、いつも通り持ってきた小説をいつも通りひとりで読んでいた。
「ねぇー!!なに読んでるの!?」
そんな私に近づいてきた一人の生意気感溢れる男子。
「…………『星のおう」
「なんかむずかしそ〜…読んでて楽しいの!?」
「…人の好みでしょ。ほっといて。」
私からの願い。どうせ前みたいに気味悪いって思われる。だったらいっそほっといてほしかった。心に溜まるモヤモヤを無視しながらそっけなく言い放つ。
でもその生意気そうな男子はほっといてくれなくて、
「でも本読むのたのしそうじゃないじゃん。なんかつらそうだし。」
「…‥?」
私はそのとき言われるまで、自分が読書を楽しんでいないことも辛そうなことも知らなかった。
「あっ寒太いた!清明!!寒太いたよ!勝手に走ってかないでよ〜。ん…?その子はさっき前で立ってた女の子…!!なんで前に立ってたんだっけ!?名前は〜…えっと〜………」
「前で紹介されてた女の子ね。雨水雫だよ。春楠忘れやすすぎ。」
その生意気な男の子の後ろから走ってきた清明と呼ばれた男子と春楠と呼ばれた女子。
「ごめんごめん!なんかこの子がつまんなそうにしてたからつい‥」
「…確かになんかつまらなそうに見える気がする。」
「そうなの!?じゃあ一緒に遊びましょ!!本読みたいなら本読んでてもいいよ!」
私のことを初見なのにつまらなそうとか言う色々失礼な男子と、ここまでテンション高い人間が存在したのかと驚愕した女子がキラキラした目で私を見てる。
見つめられながら10秒くらい考えて、そして
「‥………うん」
「はい!決まりね!私は春楠!こっちのうるさい方が寒太!静かそうな方が清明!何してあそぶ!?」「いやうるさい方ってなんだよ!?」「間違ってないだろ…」
その後、おままごとで春楠が鬼になって寒太を泣かせたり、清明が私の本読んで漢字読めなくて落ち込んでたり、寒太がバケツひっくり返して水びたしになったり色々あったけどとても楽しかった。多分それまでの人生の何よりも楽しいかった。みんなのおかげで他の子とも仲良くなれたし、心のモヤモヤも晴れた。
あのとき、しっかりと自分で「うん」と言えたことを褒めたいと思う。この返答のおかげで、読書とは違った楽しいことを見つけたり、友達ができたり、前みたいに言いたいことを言って喧嘩しても仲直りすることができたり‥。
そしてなにより、私に友達が欲しい、という幼くわがままな心があったことに気づかせてくれた。結局心のモヤモヤはただの友達が欲しいという欲にしかすぎなかった。ほんとの私が、変に成長した心を持つ大人ぶった私ではなく、他の人と何にも変わらず、年齢通り友達が欲しい心を持つ私だと気づかせてくれた。
ーーーーーーー
そんな懐かしいことを思い浮かべながら、私は春楠のお墓に向かう。定期的にお墓を訪れ、みんなのことを春楠に話す。もう一種のルーティンだなと一人で苦笑い。
春楠が死んでしまってから、私も清明も変わってしまった…なんてことは一切ない。春楠が1番そんなこと願ってないことが分かっているから。
だからこそ、今の寒太には変わって欲しい。以前の寒太は‥なんていうか…ただの明るいバカだった。勉強にも運動にも恋愛にも‥なんにでも真っ直ぐにしか進めない愛すべきバカ。
でも今は、ボロボロのメンタルを隠そうと必死にバカを演じてる。真っ直ぐに進みたいのに無理矢理自分から道をねじ曲げてるような、そんな歪な形をした心になってしまっている。
そんなの春楠が1番願ってないに決まってる。これはもう確信だ。
春楠達が付き合ってた頃、こんなことを言ってくれた。
ーーー
「雫はさ。どんな人が好きなの?」
「……真っ直ぐで明るい人。」
「やっぱり!もしかして寒太のこと好き…?
もう〜!顔真っ赤にして!!照れないでよ可愛いなぁ!!」
「わっわっ私のことはいいの!別にとっ取ろうとか思ってないし。‥てかすっすっすす好きかどうかもまだゴニョゴニョ……」
「あっはっはっ!!まぁ負けないよ!!」
「……春楠はあのバカのどこが好きになったの?」
「…バカで真っ直ぐで明るくて、それにいつでも本音を話してくれるから安心感がすごい…みたいな?言葉では表せないや。ただ素のあいつの無邪気さは惹かれる‥と思う‥」
「………あんたも照れてんじゃんよ!バカの相手はやっぱバカになんのね!!ほんとお似合いだよ!!悔しいっ!!」
「痛い痛い!叩かないで!!って悔しいってやっぱあんたも……痛い!!でもいいじゃん!!私たちなら友情壊れないでしょ!?」
「それは絶対ないけど!!絶対ないけど!!それはそれとして殴りたくなるくらい惚気顔なのがムカつく!!」
「ごめんて!あっ清明!!助けてぇ!!」
ーーー
微笑ましい出来事を思い出してさらに苦笑する。失われてしまったけど、確かに存在した出来事。私の中ではずっと生きてる。
春楠が好きなのは真っ直ぐで本音を隠せない素の寒太。今の寒太とは対極だ。
墓の前で1人。いや、2人。見えないもう1人に話を聞いてもらう。
「だからね。春楠。私にできることってなんだろって春楠が死んじゃってからずっと考えてた。」
寒太を叩き直すのはきっと清明がやってくれる。絶対にやる。だって今朝LINEで「あいつをそろそろ絞めてくる」ってきたもん。首は絞めないで欲しいなぁ。
だとしたら私には何ができるんだろう。多分寒太を動かすだけの力が私には無い。だって寒太の気持ちも痛いほどわかるから。きっと清明もそうだけど、それでもあいつはバカを絞めるね。ほんとは熱いのに冷静の皮被ってる男だから。
「…だから私はさ。待とうと思うんだ。今の寒太は、ここへ引っ越して来る前の私を見てる様だから。
春楠達が独りだった私を変えてくれたように。寒太が自分の意思で前を向いて歩いてくれるのを待とうと思う。
…そしたら、今度は私達2人で聞いてあげよ!
一緒に遊びましょ!!ってねっ!」
それが今の私の願い。
読了ありがとうございます。ほんとに感謝しかないです。
ほんとに投稿期間が空きすぎて申し訳ないです。次回ははやいですとか前回言ってたやつは死にました。
さて、今回の本文の回想の通り、実は春楠は雨水が寒太のことを好きなのを知っていました!でも作者としてはドロドロ展開は好きじゃないのでこんな感じで明るくできて、ほんとよかったです。今回の話でだいたい春楠の魅力は伝わったんじゃないかと思います。お前の彼氏が好きと言われてあの返しができる春楠は多分恋愛において最強です。間違いない。
次回ははやくします。内容は番外でなく、メインに戻そうと思ってますが、どうなるかわかりません。首を長くして待っていただけると、ありがたいです。では次回もよろしくお願いします!!
ちなみに一話では雨水一という名前でしたが、途中から雨水雫に変えたことをここで謝罪します。なぜか下の名前を一にした一話の作者の頭痛が痛いです。もし一呼びだった方がいたのならば、深く謝罪します。ほんとに申し訳ありませんでした。
次からは気をつけます(小学生の言い訳)