6 清明の独白
お久しぶりです。宵ヤイバです。随分と期間が空いてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです。次はきっとはやい段階で投稿される気がします。
さて、今回の話は清明視点で、前半が過去話、後半が前回の続きとなっています。
清明が今の状況をどう思っているのかを重点的に描きました。時間を弄ばしている方など、暇つぶし感覚でお楽しみください!
中学3年生のある日。あいつらに突然カミングアウトされたときのことを俺はまだ鮮明に覚えている。
あいつらと雨水と俺とを加えた四人は昔からの幼馴染みたいなもんだった。今後もずっと仲良く付き合っていけるだろう、と本気で思っていた。
そのグループの中の俺の好きな人と1番仲のいい友達が付き合うことになったらしい。
そして、その雨水は、おそらくそいつのことが好きなんだと思う。勘だが。
あいつのことを俺は昔からかっこいいと尊敬していた。俺の持っていないものを全て持っていた。コミュ力、根性、面白さ。そして、意志の強さ。
だから、いつかあいつらは付き合うだろうなとは思っていたが、いざ直面するとどう思えば良いのか分からなかった。
春楠は春楠自身の好きな人と結ばれた。そして、相手は俺が最も信頼できる親友だ。
こいつら二人なら些細な喧嘩くらいじゃ別れることはないし、自分に負い目があるなら素直に謝ることができるだろう。幼い頃から一緒でお互いの親とも仲が良い。良いカップルだと心から思う。
当然、醜い嫉妬心なんてものは一切出てこなかった。
だが、心からの祝福なんてものも一切出てこなかった。
そんな考えを一瞬でも持った自分に酷く嫌悪感を持つ。
確かそのときの俺は無理矢理頭を切り替え、確かに『好きだった彼女と信頼する親友の幸せ』を願った。
だがそれは偽りの願いだったと後で気づく。
きっと俺は、『二人の幸せを心から願うことができる自分になっていてほしい』と願っていたのだろう。
初恋の失恋なんてだいたいそんなもんだろう。
なぜか、初恋の相手の好きな人は自分だ、という無根拠の自身が意識の底に沈んでいて、謎の優越感を得たりする。
成長すれば、なんと自意識過剰でくだらない感情なのだろうか、なんて思ったりもするが、当時中学生の俺にはそれらが存在していた。
だから、初恋の人の相手が自分でないことに対して、怒りでも悲しみでもない未知の感情が渦巻き、落胆する。
「もっと自分をアピールしておけばよかった。」
「もっとはやくに、あいつより先に告白していればよかった。」
ただ後悔だけが残った。
そんなもんだろう。初恋の失恋ってやつは。
俺がその状態から立ち直ったときには既に高校生になっていた。
俺たち幼馴染4人は結局、同じ高校へ進んだ。
だがあいつら2人の仲が深まったこと以外、昔と何も変わらない日常があった。
俺もまだ春楠に未練はあったが、既に立ち直った。この関係はこの先も長く続くだろう、と高校に入学してからもずっと思っていた。
高校生活に慣れてからほんの少ししてからだった。
春楠が交通事故で死んだのは。
そのことを聞いた俺は、不思議なことに悲しさを感じるよりもはやく、3人を心配をしていた。
あんなに仲が良かった2人のことだ。春楠がいなくなったら相当なショックだろう。そして、恋愛を抜いてもその2人が大好きだった雨水もかなり思うものがあるだろう。
そんなことを考えていたせいか、その日は泣かなかった気がする。むしろ、いつもよりも冷静で、頭がすっきりしていたような気さえする。睡眠だけは全くできなかったが。
ーーーーー
次の日、2人はショックで休んでいるかもしれないと思いつつ、高校に着く。思った通り雨水は学校を休んだらしい。当然だ。むしろ俺はなぜ学校に来たのだろう。
そして何分後かだろうか。俺は見た。
いつも通りの。いや、いつもよりもふざけた様子の寒太を。
教室にいつもと同じ時間に入ってきて、友達に今日見た面白い夢を話している。いつかにハマった歌を歌っている。ふざけた寒いギャグを友達に広めて馬鹿みたいに大笑いしている。自然と。まるで何も無かったように。
俺が、寒太がそこまでして大袈裟にふざけている理由に気づくのはもっと後だった。当時の俺には何故ふざけているのかを考えられるスペースが、頭に無かったのだ。
そのあと、いつどのタイミングで家に帰ったのかはよく覚えていない。
昨日には無かった酷い頭痛を感じ、寒太に気づかれないように教室から出て‥そこから先はきっと何も考えず歩いていたんだろう。
両親は仕事で家には誰もいない。自分の部屋のベットに倒れ込むように寝転ぶ。
俺は、寒太は学校に来れないほど落ち込んでいるだろうと思っていた。きっと俺なんかよりずっと春楠を好きだった寒太が、なぜ。俺とずっと仲良くしていた親友が、なぜ。壊れたのだろうか。
そのときに俺は涙を流すのと同時に、昨日泣かなかった “気がした”理由を理解する。昨日はただ突然の出来事で頭が理解できていなかったのだ。今思い返せば、昨日の夜も頬を何かが通った感覚がある。きっと何もかもが麻痺していたのだろう。
そして、学校で見た寒太を見て麻痺が治った。治ってしまった。麻痺により夢の中にいるような感覚の俺を覚ましてしまったのだ。
初恋相手の死亡。カッコ良かった親友の壊れた姿。
世界は嫌というほど現実を心に直接叩きつけてくる。
もう春楠は死んでいると脳が理解をしようとしても、心はすぐに否定する。春楠が死んで残ったのは壊れた親友だけとか信じられるか。
もう何時間そうしていただろうか。気付いたら俺は寝てしまっていた。
夢は見なかった。
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一言声を掛けて帰るつもりが、気持ちが昂ってつい色々言ってしまった。でも俺も寒太に殴られたしお互い様だな。
寒太の家を襲撃に近い形で訪れ、喧嘩した帰り道。さっきまでのことを思い返して少し安心する。
やっぱり寒太は壊れていたのではなく、自ら不良品になって春楠のことを想う気持ちを自分にすら隠そうとしていた。全く隠せてなかったがな。
あいての素の本音を聞けてよかった。あいつの中には先に進みたい意思がしっかりと存在している。ただまだ受け入れられていない部分もある。
ぶっちゃけると、きっと受け入れる必要も無いんだと思う。辛い現実を受け入れて前に進むのがとても悲しいことなのは俺も経験したわけだし分かっている。
ただ俺の場合、第三者だったおかげで、受け入れるのに必要なのは時間だけだった。時間がたくさん経ったおかげで、今では春楠の死を受け入れることができている。夢から醒めることができた。
もし、あいつが今のまま変わらなかったとしても将来困ることは無いだろう。俺も雨水もきっとすぐに慣れるだろう。人は時間が経てば勝手に変わるものだ。
だけど、俺はあいつに現実を受け入れて欲しい。
俺と寒太でくだらないことで競い合って、それを雨水が冷めた目で見て、春楠が大笑いしてる。あの日常が好きだった。あいつらが付き合った後もなんだかんだで一緒にいて楽しかった。
俺たちの中の春楠は、無理にふざけてる寒太のことなんて好きにならない。春楠は、足りない頭でたくさん考える絶対に折れない寒太に惚れたんだ。雨水もきっとそう。
俺の理想像のカッコいいあいつにはカッコよく生きていて欲しい。春楠が惚れたのは、今みたいに折れたまま無理にカッコつけるあいつではなく、まっすぐに何事も貫ける強さを持つあいつの方だ。
俺は今後も寒太とは仲良くしていたい。きっと雨水もそう。春楠だってそうだろう。見えなくたってどこかから見てるだろうから。
春楠が死んで残ったのは壊れた親友だけ?そんなはずが無い。
俺は寒太が自分の意思で現実を受け入れ、前へ進む協力をする。あいつにどれだけうざがられたとしても。
多分それが、春楠が俺に託したものだと想うから。
帰ってきてくれ。尊敬するカッコいいあいつ。
読んでくださりありがとうございます。
今回もギャグ少なめの重い描写多めで書いている途中で清明が不憫すぎて、とても悲しくなったため投稿が遅れてしまいました。前書きでも書きましたがほんとに申し訳ないです。
ただテーマがテーマなので重くなるのは仕方ないですよね。次回作は楽しいやつにします絶対。
さて、今回で清明が以前の寒太に戻って欲しいと思っていることと、それは春楠の願いでもあることが判明しましたね。親友のためにここまで動いてくれる友達がほしいものです。読み返すと少し清明が自分勝手な人のように描写されてしまっていますが、これは完全に私の力量の無さのものです。ほんとは、全く自分勝手でない良い子なので暖かく見守ってやってください。私も精進します。
次回は多分雨水メインです。雨水は今まであまり描写が無いので、そこを明らかにしていけたらなと思います。お楽しみに!