題名はゼロということで現状の振り返りと、主人公が素を隠す理由と脳内でふざける理由を明らかにする話です。かなりギャグが少ないことだけが心残りですが、そういう話だと思って読んでいただければ幸いです。
これはまだ俺たちが0のときか。
中学3年生、夏くらいの帰り道。
少しだけ恥ずかしそうに 、だけどそれを悟られないようにうつむいて言う彼女。
「ねぇ、私達ってさ…今どういう関係…?」
「……幼馴染?」
「…なんかそれはさ…軽いっていうか…薄くない?」
お互い会話の歯切れが悪い。緊張してるのがよくわかる。彼女がなのか、俺がなのか、両方なのかは分からない。
「薄いって言われてもねぇ…?」
「…こ、こんごもずっと幼馴染ってこと…?やっぱそれは寂しくない…?」
あぁ。なんとなく彼女が言いたいことが分かってしまった。こういうとこはほんと幼馴染だと思う。
激しく鳴っている心臓に気づかないふりをしてさりげない風を装って告白してみる。
「…じ、じゃあさ。こ、恋人になってみる…?」
さて。俺のこの告白はさりげない風を装うことができただろうか。多分できてないや。あー。
「……ふっ。あっははははは!!
まったく。あんたらしいね!まぁ私からは恥ずかしかったからあんたから言って欲しかったんだけどね!」
せっかくの告白を馬鹿にしてきた。
だが、地面の石を気にしながらの罵倒もどきは、照れ隠しだろうと予測。
このセリフ、例えば文に書き写したとしたら性格悪い女みたいに見えるなこれ。
「…いいよ!よろしくね!!これからは幼馴染兼恋人ってことで!!寒太!!」
春楠は顔を上げ、俺の顔を見ながら言った。顔は真っ赤だ。彼女がなのか、俺がなのか、両方なのかは分からない。多分両方かな。きゃー!!恥ずーい!!
ところで春楠が見ていたはずの地面には石どころか何もないただの道だったわけだが。
もう!可愛いなぁ!恋人になってから惚気るまでが早すぎると我ながら思った。
そうだ。この日から、俺と春楠の恋人としての関係は0から1に進んだのだ。
そこで鳴り響く聞き慣れたジリリリリ!という音。あぁそっか。
これは夢だ。
――――――――――――――
毎朝聞いているはずなのに、毎朝忌々しく感じる時計を全力でぶったたく。いてぇ。
あー今日は土曜日なのに目覚ましを設定してしまった。あるある。あってたまるか。俺の左手に謝れ俺。俺「ゴメン!」俺「イイヨ!」はい世界平和。
昨日、超久々に春楠の墓に訪れたことによって、懐かしい夢を見てしまった。そのせいで今まで抑えてきた感情が一気に蓋を押し開けようとしている。臭いものに蓋とかいう言葉もあるし。いや俺の感情臭くねーし。いやまぁちょっとクサいかもしれないけど。中二的な意味で。
体を起こす気力もなく、そのまま寝そべり続ける。
俺と春楠は幼馴染で、家は俺の家から3分ほど奥に行けばあるため、小学1年生からずっと登校も下校もしてた。中学生2年生くらいからか、お互いの恋心には若干勘付いていたような気がする。なんていうか無理やり他人の恋話をしたり、どういう旦那さんがいいかを語り始めたり。それで3年生のときにあぁなったと。いやぁあの頃はよかったな〜。懐古厨予備軍みたいなこと思ってんな俺。
それで付き合ってもっとも楽しい時期に、交通事故が起きてあぁなったと。いやぁあの頃は楽しかったな〜。涙が溢れそうになってるな俺。
あのとき、もう1分でも春楠を引き留めておけば事故には巻き込まれなかったかな。俺が一緒に家まで送っておけば助けれたかな。
今さら後悔しても遅いことは分かってるがやっぱり後悔してしまう。その証拠が目から溢れてるこの液体か。もし今世界が凍ったら眼球から氷が飛び出てる石像が完成するね。やったね。
「あ〜…だっせ。」
それは何に対して言ったのだろう。彼女を救えなかった自分にか、泣いている情けない自分にか、こんなときでも心の中でふざけてしまう自分にか。
ーーー ほら。今もふざけたようなことを考えて、素を隠してる。ーーー
ーーー指摘されても素は隠すのね。ただ本当のあんたはあんまり強く無いんだから意地張りすぎちゃダメよ?ーーー
その通りだよ雨水。本当の俺は弱い。春楠がもういないことを心では理解しているが、まだ立ち直れていない。立ち直れるほどの強い心は俺にはない。
バキバキに折られた心を周囲に悟られないように、春楠の死後でもふざけるようにした。死後のいつから始めたのかは覚えてない。今では素を隠すためというより、体に染み付いた癖のようになってしまった。
ーーーだが、最近は雨水以外の女子との会話はすっかり減ってしまった。別れた影響でみんな遠慮してんのかな?ーーー
そのせいで逆に周りの人間からは、彼女を失い、狂った人を見るような目で見られるようになったんだが。どう捉えられようと周りを欺ければいいだろう。
まぁ雨水に見抜かれたんだけど。
ーーーお前がどう思ってそんな行動するのかは知らないが、客観的に見れば今のお前は現実から目を逸らし続けている馬鹿だぞ。周りに迷惑をかけすぎるなよ。ーーー
核を避けて話してくれた雨水と比較すると、お前はどストレートに核を突くどころか貫くよな清明。だが、このときの槍は深く貫かれていなかった。なぜなのか?理由は簡単。
清明の意見はあくまで客観的。主観なんてその人本人にしか分からない。
そして主観的に見た俺も現実から目を逸らし続けている馬鹿だと、完全に自覚している。
それで本人に傷がつかないわけじゃないけど。馬鹿になら馬鹿と言っていい理論は傷つくから良い子はやめようね!
最初のうちは春楠を笑顔にするためにわざとふざけたりしてたのに、いつから春楠のための行動を自分のための行動に変えたんだろうなこの馬鹿は。
ーーーかんちゃんはここで何をしてたの?ーーー
ほんと何してんだろうな俺は。
どれだけ春楠のことを想って行動しても、雨水や清明に相談したとしても、結局はただの自己満足。誰にも届くことはない。犬の知識も買ったキーホルダーのプレゼントも愛情すらも届かないだろう。
何なら届けられるのだろう。
そんなのはわかりきってる。
彼女に愛を届ける方法なんて1つもない。
今回の話も目を通していただき、ありがとうございます。
本編の
ーーーかくかくしかじかーーー
の部分は一応全て過去話に登場したセリフです。ほとんどの人が忘れていると思いますが、わざわざ見に戻るほどの伏線でもないので平気です。
今回の話で素を隠す理由とふざける理由がわかった訳ですが、この話のために1話から寒太の脳内ではずっとふざけておきました。クソつまらんおふざけのセリフしかないですが許してください。私の限界のギャグです。
題名のゼロは、春楠との出会いのゼロと方法が1つもないという意味でのゼロのことです。やっとタイトル回収的なことができて嬉しい限りです。
次回はシリアス展開ではなくなる予定なので次回も楽しみにしてくださると励みになります!