2 会話を試みる
めっちゃ遅れてすみません。今度は早く書けるように頑張ります。
犬の大量の知識を得た俺は、ふと気づいたことがある。
別に、犬のことじゃなくても会話できるやんけ!!
「ってことなんだが、どう思う?雨水。」
「いや、どう思うって…単純だなぁくらいにしか思わないわよ。」
俺は共通の話題を既に見つけている。だったら、会って話を始めれば自然と会話は弾むのではないか。
「っていう至って常識的な判断で…」
「あーはいはいわかったわかった。」
うんざりした顔で雨水は相づちを打つ。そんな顔するなよ。女子ってそういう恋愛が絡む話とイケメンとスイーツと可愛い自慢には目がないんじゃないのか?みきちゃんなら嬉々として噛み付いてきてるのに。
「それで?私は何をすればいいの?」
「さっすが雨水!俺が何をするのかよく分かっていらっしゃる。女子との会話についてのあれこれを教えてくれ!」
俺は女子と会話できないほどコミュ症ではない。だが、最近は雨水以外の女子との会話はすっかり減ってしまった。別れた影響でみんな遠慮してんのかな?
「女子が好む会話なんてだいたい決まってるわよ。恋バナ、イケメン、スイーツ。あとは可愛いことに対しての自慢はすごいわよ。浮気に対しても結構盛り上がってた気がする。あの子があいつとあいつと付き合ってて〜修羅場!的な。」
おいおい、みきちゃん女子の最先端を生きてんな。全要素盛り込んだ全属性タイプのみきちゃん。ソシャゲで起用、ありだと思います。
「そんな軽く言われても男子に恋バナとかスイーツなんて分からんよ。それらが分かる男子は女々しい陽キャだ、」
恋バナ。浮気話はみきちゃんだけ知ってるけど。
「はぁ…。好きな人との会話なんてどれだけシミュレーションしたところで緊張するもんでしょ。
会話の内容なんかより、その緊張をどれだけ隠して普通に話せるかの方が心配にならない?好きな人の前で恥晒すことは結構精神擦り減らすと思うけど。」
「うーん。幼馴染相手にわざわざ緊張して話す奴は少数派だろ。昔から一緒なのに急に態度ガラッと変える方が気味が悪い。」
幼い頃から同じだからこそ気を使わないで楽だったのに、その長所をわざわざ壊したりなんかしない。
べっ…べつに急に態度変えて関係が壊れるのが怖いとかじゃないんだからねっ!!まぁ壊れたんだけど。
「…とりあえず私と話してる感じだと緊張は無いんでしょう?」
「まぁな。雨水との会話も最低限しか気を使わないから楽だ。」
「だったらそんな感じで会話してくればいいじゃない。
そもそも会話してくれる前提で話が進んでるけどさ。無理でしょ。部外者の私が言うけど。もうあんた達2人の住んでる世界はだいぶ違うっていうのは分かるでしよ。辛くなるだけなんじゃないの?」
若干俯き、言いづらそうに雨水は言う。雫のような目は少し濁りを漂わせている。
「辛いが、何もしない方が辛くならないか?
俺は自分が馬鹿で単純なのは自覚してるから分かるけど、今後のことを考えて後悔しない選択をしたいじゃん?ってくらい馬鹿で単純な理由で動いてるよ。」
したいからする。好きだからアタックする。そんなくだらない理由が今の俺の原動力だと言い切れる。
俺は馬鹿だが馬鹿なりに色々考えてるからな。
「…そ。ほんと単純な理由なのね。
でもどうやって立花と会話するの?なんて質問は野暮だから聞かないでおくわ。」
「ほんと俺のことよく分かってんな。たしかにその質問はする必要が無いからな。」
そう言うと、雨水は意外そうな顔をした。
「…なんか意外。あんたは現実見えてない突っ走る人だとずっと思ってたわ。
現実が見えてなくて逃避する、なんてことにはならなさそうで安心だわ。」
「おい、単細胞で前しか見れてないって思われてたのか俺は。」
「そうよ。でも単細胞生物は1つの細胞で全機能を動かすことができるすごい生物よ。あなたはどうかしら?」
「はいはい、俺は1つの感情で全機能を動かせない単細胞生物以下ですよー。」
何度も言うが馬鹿なのは自覚している。無自覚より自覚してた方が周囲の印象は良いからね!聞いてるか量産型異世界転生者。無自覚の方が嫌われることを自覚しろ。無自覚鈍感主人公め。
――――――――――
その後、雨水と別れ、早速会話の糸口を探していこうと思い立ったところで教師に見つかり、現在、反省文を書かされている。今回は『会話が変わる!〜犬の可愛さと彼女の可愛さ〜』という論文を書いたのだが、ダメだったか。
そもそも反省文に反省を書かなければいけない、という前提が違っているだろう。勉強道具を持っていても勉強をするというわけではないだろう?鉛筆を持っていても勉強ではなく、絵を描くかもしれないだろ?そういうことだ。何言ってんだ俺。
今回は趣旨を変えて、愛情ではなく、友情でも書こうかな。なんてくだらないことをダラダラ考えていると、教室の扉からある人物が入ってきた。
「……何してんのお前?」
「見ての通り反省文だが。なんで反省文を書かされているのかは忘却の彼方にある。
で、なんでお前がいるんだ?清明。」
流川 清明。名前がトップクラスでかっこよく、冷静で、顔もイケメンすぎる訳ではないくらいの、女から一番モテるタイプの人間だ。あだ名は冷静王子。
そして、俺の一番の友達だった男だ。立花をめぐって競いあった仲だったが、俺が別れてしまったことで疎遠にされている気がする。
「さっきお前と雨水が話しているのを見た。お前がまた馬鹿なことをしようとしてると雨水から聞いて来たって訳だ。」
呆れた顔で清明は言う。まぁそりゃそうなるわな。会話の研究をすると聞いていた奴が反省文書いてたら誰でもそうなる。
「俺が馬鹿なのは昔から知ってんだろ?ちょっとの批判じゃ俺の走りは止まらないぜ?」
やだ俺かっこいい…。
「反省文に足引っ掛けられて転んでるじゃねぇか今。」
批判ではなく正論に走りを止められた。やだ俺かっこわるい…。
てかこいつ俺と普通に話してるけど、もう過去のことは気にしてないのか?まぁ向こうからその話を振られない限りこっちからする必要なんてないけど。
「……お前まだ立花のこと諦めきれてないんだってな。」
なんで振られない限りって思った瞬間にその話を振ってくるのかな。エスパータイプか?名前的にお前と雨水は水タイプだろ。ちなみに俺は氷タイプ。
「そりゃあな。簡単に諦めきれる訳ねぇだろ。お前は俺のことよくわかってんだろ?馬鹿は馬鹿らしく馬鹿なことしてるのが一番似合ってるって。」
「あぁ知ってる。だからこそ言わせてもらう。
今回のお前は自分を傷つけてるだけだろ。お前は人を傷つけることは嫌いな筈だ。その人にお前自身も入ってることも自覚してんだろ。
「たしかに自覚してる。だが、自覚してるのとするかしないかの行動選択は関係ないだろ。できないと分かっててもやるときがあるだろ?」
テストとかな。できないけどやらなきゃダメってのと同じで、自分を傷つけるのは分かってるけどやらなきゃだめなんだよ。
「それは分かってる。だがお前は雨水を巻き込んでるだろ。それはいいのか?」
「雨水は本当に嫌なことは完璧に断る人間だ。たしかに俺の自分勝手に付き合わせてるのは悪い気がするがそれでもあいつは協力してくれてる。
まぁあいつの協力の頻度は下がるようにするよ。」
昔、バレンタインのお返しのホワイトデーに、なんでもする券をあげて本気で拒否られたことを思い出した。
「…お前は決めたら最後までやるもんな。いい加減諦めを覚えて欲しいよ。」
諦めたように清明は言う。口論になる前に折れてくれて良かった。
「だが、お前との仲だから1つだけ忠告しておこう。
お前がどう思ってそんな行動するのかは知らないが、客観的に見れば今のお前は現実から目を逸らし続けている馬鹿だぞ。周りに迷惑をかけすぎるなよ。」
そう言い、清明は教室を出てく。
冷静に分析されてしまった。さすが冷静王子だ。あんなにど正論を言われたのは久しぶりだ。
だが、あいつは仲が良い奴ほど冷静で容赦のない言い方になる奴だ。疎遠になっていたと思ってたのは俺だけか。もしかして別れたのに気を使ってたのかもしれないと思う。今後も良い友達として色々忠告してほしい。
――――――――
その後、反省文を提出し、家に帰り、今はベッドの上だ。
「お前がどう思ってそんな行動するのかは知らないが、客観的に見れば今のお前は現実から目を逸らし続けている馬鹿だぞ。周りに迷惑をかけすぎるなよ。」
清明の言葉が頭に張り付いて剥がれてくれない。
本当なら今頃、会話についての資料を集めてたんだけどなぁ。なんでかなぁ。
昔っからそうだ。清明の言葉は毎回俺の心の核に刺さってくる。なんであんな毒舌野郎がモテるのか不思議でならない。まぁ男は顔とコミュ力で全てが決まるもんな。
だが、今回はいつもより、刺さった言葉の槍は深くない。なぜなら俺も、客観的に見て現実から逃げ続けている、という自覚があるからだ。
だがそれはあくまでも客観的に見てだ。本当は俺がどう思っているのかなんて清明にはわからない。清明は馬鹿じゃないから、そのことを知った上で忠告してきたんだろう。
主観的な考えなんて俺にしかわからない。その考えが普通じゃないのも理解してる。だが、俺にしかできないことなのも理解してる。だから俺は馬鹿な行動を取り続ける。
そうやって付き合ってきたんだ。春楠とも。現実とも。
だが、結局春楠との会話は諦めた。
多分つぎは門番の方を投稿すると思います。