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第23話 自由が欲しい


 俺たちがバラック領を出て約半月が経った。

 段々と強くなる魔物に道中厳しい場面もあったが、何とか誰も欠けることなく旅を続けている。

 それは【勇者】であるリュカの頑張りがあってのことで、弟が俺たちを守るためにより一層努力してくれているのは分かる。

 分かるのだが――……俺にも自由な時間が欲しい。


 蛾の鱗粉事件から俺にべったりと張り付くようになったリュカのせいで、ここ半月俺は自由といえば風呂か寝ている時間くらいしかない。村に寄らなければ風呂なんてないのだから、実質寝ている間だけだ。しかも眠りにつくときまで逃げられないように手を握ってくる徹底ぶり。これじゃあどちらが保護者か分からない。

 無謀なことをした俺が悪いのは分かっているが、俺もそうほいほいと命を無駄にしたい訳ではない。けれどいざとなったら命を投げ打ってでも盾になるつもりだから、胸を張って信じてくれと言えないのが辛いところだ。


 数日ぶりに入った村で、リュカが風呂に入っている隙をつき、俺は急ぎヨハンの部屋を訪れた。

 ノックもそこそこに押し入るようにして部屋に来た俺に、風呂上がりだったらしいヨハンが責めるような視線を向けてくる。


「言いたいことは分かる。すまん。だが今は時間がないんだ」

「……それで?」

「明日、少しの時間でいいから一人になれる時間が欲しい。頼む、協力してくれっ!!」

「ちょっ、僕を巻き込まないでよ」


 俺の剣幕にヨハンが引いているのが分かるが、俺も引き下がる訳にはいかない。明日を逃せばまた野宿生活に後戻りだ。そうなれば、今度はいつ村に着くか分かったものじゃない。


「リュカに信用されてるお前ならなんとか出来るだろ!? ゲオルグからじゃ聞いてもらえないだろうし……というかアイツ今日娼館行く前に俺見て笑ったんだぜ!? ムカつくだろ!」


 昼間のことを思い出したらまた腹が立ってきた。俺が行けないのを分かってて優越感を感じているのだ。性格が悪過ぎる。


「ああ、あれは……まあいいや。確かにアイツから言われてもリュカは離れないだろうね」

「だろ!? アンジュにこんなこと頼むのも気が引けるし、頼めるのはお前だけなんだよ」

「僕が言っても聞かないと思うよ?」

「んなことねえって! でもそうだな……もし駄目だったらお前の魔術でさ、こう、俺の顔を変えるなりして――」

「それで勝手に出歩くわけ? また怒られたいの?」

「もうそうでもしなきゃしょうがないだろ! 俺は! 一人の時間が欲しいんだッ!」


 リュカがどうって話じゃなくて、ただ単純に一人になりたい。蓄積した旅の疲れとここ最近の自由のなさから、ノイローゼになりそうな位俺は自由を欲していた。


「……分かった。とりあえず明日話してみるよ」

「本当か!? うおおおっ! 助かるぜ!!」

「うわっ!? ちょっと!」


 嬉しさから思わず抱き着くと、ヨハンは顔を赤くして怒ってきた。無かった話にされたら堪らないためすぐに離れる。


「言っておくけど、彼が聞くかどうかは分からないからね」

「ああ! お前が言えば大丈夫だ!」

「あと……協力するんだから、明日の午後、買い出しに付き合ってよ」

「勿論だ! 荷物持ちでも何でも喜んでやるぜ!!」

「……ねえ、カイ。君――」

「えっ? ああっ悪ィ。明日聞くわ! そんじゃ明日は頼むっ」


 ヨハンは何か言いたげだったが、急いで戻らないとリュカが風呂から上がってしまう。来たときと同じく慌ただしく部屋を出て行くと、扉を閉める際に溜息が聞こえてきた。

 俺が部屋に戻ってすぐにリュカが風呂場から出て来て、ギリギリ間に合ったことに安堵する。


「上がったよ。先に入っちゃってごめんね」

「おう。そんじゃ俺も入って来るかな」


 リュカに怪しまれないように急いで風呂場に向かうが、ヨハンに約束を取り付けられたことが嬉しくて声が弾んでしまう。


「嬉しそうだね」

「ま、まあな。何て言っても久しぶりの風呂だからな。ゆっくり浸かるから先に寝てていいぞ。お前も疲れてるだろ?」

「……分かった」


 ここ最近の弟の頑張りは目を見張るくらいだったし、体力面での疲れがあるのは間違いないだろう。野営中も食後すぐに俺にくっついて寝ていたくらいだ。遠慮して起きて待っていなくていいと告げておく。

 俺も限界まで疲れているが、どちらかと言うと精神面での疲れだから、寝るよりもゆっくりと湯に浸かりたい。


 宣言通り何時もより長湯して上がると、リュカはやはりぐっすりと眠っていた。

 まだあどけないその寝顔に頬が弛むのを感じながら、起こさないように指触りの良い髪を撫でる。


「お疲れ様。おやすみ、リュカ」


 世界のために頑張る弟に労りの言葉を掛けて、もう片方のベッドに潜り込む。

 久しぶりの布団の感覚に、横になればすぐに瞼が落ちてきて、俺もリュカのこと言えないなと沈んでいく意識の中小さく笑った。




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