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第1話 スキル調査


 三年前、三百年前の先代勇者が魔王を討ったとされるその日、人類は震撼した。

 東北の果て――かつて魔王城があったとされる方角から放たれた禍々しい波動。

 【魔王】が再び現れたのだ。

 波動の影響か、それとも導く者が現れた喜びからか、それ以降魔物は勢いを増し人々の生活を脅かしている。

 そんな状況を打破するべく、皆、【勇者】の出現を渇望した。

 【魔王】と同時期に現れるという【勇者】は人外の力を身に宿し、聖なる(つるぎ)で魔を討ち滅ぼすという。

 一人に一つ、神から与えられる固有スキルに分類される【勇者】を見つけるため、神殿は国中くまなく探し回った。

 年に一度しか開催されなかったスキル調査も毎月行い、十五歳限定だったものを十三から十五と広めた。

 そのかいあり、一年程前に【勇者】と共に世界を救う【聖女】を見つけることは出来たのだが、未だ【勇者】は現れていない――




 ダンクレスト国王都にある神殿の前に、その日もたくさんの人が並んでいた。

 同じ馬車に乗ってやって来た人たちと最後尾に並び、()()()は順番がやってくるのを待つ。


「リュカ、よく似合ってるぞ」


 俺の隣でそわそわと落ち着きなく視線を巡らせていた弟が着ているのは、先週の誕生日に俺がプレゼントした服。

 冒険者としての稼ぎの半分を注ぎ込んだもので、貴族には負けるが平民としてはかなり上等なものだ。

 藍色のそれは十三歳になったばかりのリュカには少し大人びたものだったがとても喜んでくれ、今日という晴れ舞台にも着てくれていた。

 俺の言葉に、繋いでいた手をきゅっと握って見上げてきたリュカが満面の笑みを浮かべる。


「うんっ! お爺ちゃんになってもずーっと着るんだ!」

「ははっ。そりゃ嬉しいけど、流石にサイズとかあるし無理だろ。着れる内に目一杯着てくれれば充分だ」

「窮屈になったら打ち直してもらえばいいんだから無理じゃないよ! カイ兄ちゃんがくれた物なんだから、ちゃんと大切にするの」


 むぅ、と頬を膨らませて抗議するリュカの様子に、俺は小さく安堵の息を吐いた。

 俺たちの住む村は王都から遠く離れていて、一週間程馬車に揺られてやって来たというのに到着早々この列に並ばされたため、ろくに休憩もとれていないのだ。

 長期間の拘束に五つ歳上の俺でさえ疲れが出ているのだから、まだ幼いリュカにはキツいだろうと心配していたのだが、どうやら取り越し苦労だったようだ。

 周りを見てみても、元気いっぱいなのは子供たちの方で、付き添いでやって来た大人たちの方が疲れた顔でぐったりとしている。


(はぁ〜、俺も年だなあ)


 といっても、三年前十五の歳に一人で受けに来たときも凄い疲れて帰った気がするし、単に俺の体力がないだけかもしれない。

 大して期待していなかったスキルも【鑑定】と肝心の戦闘に向かないもので、落胆していたということもあった。

 採取した薬草や魔物の素材を売却するときに価値を騙られることがなくなったから、意外と重宝しているのだが。


「そういえば、リュカは欲しいスキルとかあるのか?」

「うーん、【状態異常無効】とかだと便利かも。兄ちゃんと一緒に仕事するとき、解毒薬とか使う量減らせるし」

「確かになぁ。値段的にも荷物的にも馬鹿にならないしな」


 ひとつひとつは小さくて安い物だが、積もり積もれば結構な値段になる。

 それに、討伐任務に限らず、普段から回復ポーションや解毒薬なんかを持ち運んでいるのだが、嵩張って邪魔だと思ったことも一度や二度じゃない。

 だからといって、手持ちにないときを狙ったように強敵が現れるのだから、持って行かないという選択肢はないのだ。

 リュカの合理的な考えに、俺は得意げに頷く。

 将来俺と冒険者の仕事がしたいからと、本や他の冒険者に聞いて色々と勉強しているのも知っている。

 きっと誰かから愚痴でも聞いたのだろう。

 少しでも出費を少なくしたいという健気な弟の希望に、俺は微笑ましく、そして同時に誇らしくなった。


「終わったらひとまずお祝いな。前に美味しい店見つけたから連れてってやるよ」

「本当!? 早く終わんないかな〜」


 着々と近付いてくる先頭にまだかまだかと首を長くするリュカ。

 その目的が完全に”料理”に向いてしまっている様子に、「まだ開いてっかなー」なんて気楽に構えていた俺は、このあとに起こることなど考えもしていなかった。



「リュカ・クラウゼン。こちらへ」


 調査に使う小部屋へ入ると、ボール大の水晶の前に立つよう神官に促された。

 誤作動が起こらないよう、俺たちは数歩離れた位置からそれを見守る。


「さぁ、手を」


 不安げな視線を送ってきた彼に強く頷くと、覚悟を決めたのかリュカはそっと水晶に手を触れた。

 数度明滅を繰り返すと、一段と眩しい光が部屋に溢れ、次第に収束していった。

 元の水晶へと戻り、神官が険しい表情で水晶を覗きに近寄ったのだが、その顔が驚愕に変わる。


「――っ、これは……!?」


 勢いよくリュカを振り返ると、そのままここにいるように言い残し、そそくさと部屋から出て行ってしまった。

 残された俺たちは何事かと顔を見合わせる。


「……兄ちゃん」

「あー……何だろうな。故障か? 俺のときはあんなに光ってなかった気ぃするし」

「で、でも何かすっごく驚いてたよ?」


 リュカの言う通り、あの神官の様子は異常だった。それこそ、何か()()()()()()()を見たかのような――

 何かやらかしてしまったのかも、と不安がる弟を励ますために「故障か」なんて言ってみたが、そんな反応じゃなかったのはリュカも分かっているのだろう。


「……まあ、待ってろって言ってたし、そのうち戻って来んだろ」


 なんだか嫌な予感を感じながら、神官が戻って来るまでしばらく身を寄せ合っていた。



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