第02話 盟友
街へと向かう途中で知り合った凄腕剣士のミルファ(ちなみに同い年)、彼女の目的地も俺と同じ町だということで、一緒に向かうこととなった。
そして、出会ってから翌日、ふとミルファが俺に尋ねてきた。
「ねぇ、ポルク、ちょっと聞いてもいい」
「なんだ」
「ポルクって、水浴びとか、洗濯とかしてる?」
何かと思ったら突然そんなことを聞いてきた。
「えっ、いや、そういえば最近してないけど」
俺は数日をさかのぼり考えたがそんなことをしていないという結論に至った。
「はぁ、やっぱり」
ミルファはわかりやすいようにため息をついた。
「それがどうしたんだ」
俺にはわからなかった。
「臭いわよ」
「そうかな、別に気にならないけどな」
実際特に気にならなかった。まぁ、確かに言われてみれば少し匂うかもしれないけど……
「もう、これだから、男の人って、しょうがないわね。ちょっとそこの川で洗濯してあげるから、その間に水浴びをしてきてよ」
などと言い出した。
「いや、洗濯ぐらい自分でやるって」
さすがに出会って翌日の美少女にさせることではないと思った。
しかし、ミルファは有無を言わせない勢いで迫ってきた。
「いいから、ほら、さっさと脱いで」
と言いつつ俺の服を脱がしにかかってきた。
「わ、わかった、わかった、自分で脱ぐから」
その勢いに負けて俺はしぶしぶ脱ぐことにした。
その間ミルファは後ろを向いていた。
「脱いだら、そこに置いておいて、ちゃんと下着もよ」
「えっ、まじでか」
「当然でしょう」
俺は本当にしぶしぶすべて脱いだ。
そして、川に飛び込んでなるべくミルファから離れた場所に向かった。するとその音を聞いてミルファがこっちを向きつつ俺が脱ぎ捨てた服を手に取り洗い始めたのだった。
「うゎ、すごい、よくこんな服を着て気持ち悪くないわね」
「そんなにか、気にしてなかったからな」
「……はぁ、まったく……」
ミルファはかなりあきれているようだった。
それからしばらく遠くからミルファの悪戦苦闘する声が聞こえてきたが、急にその声が止まった。
どうしたんだろうと思って見ていると、物陰からミルファがやってきた。
「えっ!!!」
俺は驚愕した、登場したミルファはなんと、裸だった。もちろん大事な部分は手で隠されていたが、その隙間から今まで服で隠れていた大きな胸、真っ白で透き通った肌、ほっそりとした手足、すべてが見えてきた。
俺は思わず見とれていた。
「そ、そんなに見られると恥ずかしんだけど」
ミルファが顔を赤らめがらそういうので俺もわれに返りすぐに目をそらした。
「あっ、悪い」
それから、ミルファは俺の隣にやってきた。
「なんでここに、向こうで浴びればよかったんじゃないか」
俺はここで虚勢を張ってそういった。
「まぁ、そうなんだけど、ポルクと話したいことがあって」
「話? それなら別に今じゃなくても……」
「そうなんだけどね、ちょっと込み入った話になると思ったから」
「?」
俺にはよくわからなかった。
「ポルクって、ただ街に行くってわけじゃないよね」
この質問でどういうことか分かった。俺もミルファがただ物見雄山で街に行くとは思っていなかったからだ。
「まぁな、ちょっと調べものがあってな」
それでもさすがにもしかしたらていうかたぶん領主に復讐をするなんて言えるわけがなかった。
まぁ、調べるっていうのも本当のことだからな。
「そっか、実は私もさ、ただ行くだけじゃないんだよね」
すると先にミルファが話し始めた。
「私人は、お姉ちゃんがいるの、お姉ちゃんは、やさしくて美人で村だけじゃなくて周辺の村からも評判だったのよ」
それは何となくわかる、何せミルファもかなりの美少女だからな。
「それで、その評判を聞きつけた領主がお姉ちゃんを娶りたいってやってきた」
俺はそれを聞いた瞬間思わずミルファを見た。
すると、ミルファは水に浸かっているからか、話を始めたからか、体を隠していなかった。
おかげで、胸の先にあるものまで見えてしまっていた。
しかし、その時の俺にそれに見とれる余裕はなかった。
「その時は、私たちも何も知らない田舎者だったから、お姉ちゃんが幸せになるって喜んだ。でも、実際にはそうじゃなかった」
何せそのあとに聞いたことがあまりにも衝撃的だったからだった。
話によると、ミルファのお姉さん(ラナというそうだが)は、妾として館に入ったそうだが、そこで待っていたのは限りない凌辱だった。
領主からはもちろん、客の相手もさせられた。
住む場所も部屋ではなく牢屋みたいな場所でひたすら侵され続けたそうだ。
そして、ラナさんはついに誰の子かわからない子供を妊娠をしてしまった。
領主は妊娠した女に用はないという理由からラナさんを街の外に襤褸切れ一枚を着せてだけの格好で放り出した。
「……マジかよ……」
俺がそうつぶやくとミルファは軽くうなずいた。
俺は心底怒りを覚えた。
「本来ならそのあと山賊とか魔物とかに襲われて、お姉ちゃんは命を落とすところだったの。でも、たまたまうちの村の人が街に出かけて行っていて、お姉ちゃんを見つけて、保護してくれて、それで私たちのもとに帰ってくれたの」
それは、運が良かったのか悪かったのか微妙なところだ。
「……そうか、それは、よかったな……」
絞りだしたのがこれだ。
「うん、でも、お姉ちゃん、以前とは別人だった。明るかった笑顔もなくって、ずっと遠くを見ているみたいにうつろで、男の人を怖がってて、お父さんですら、近づくと怖がったの。最初は、私が分からなかったくらいだったし」
ミルファはその時を思い出したのかとても辛そうだった。
「それでもね、最近はようやくもとに戻りつつあるんだ。今ではちゃんと私のこともわかるし、お父さんもお父さんだってことはわかる、まぁ、まだ怖いみたいだけど、今のお姉ちゃんのそばにいられる男は、お姉ちゃんが領主のところに行く直前に生まれた弟だけなのよ」
ミルファは俺の雰囲気を察したのか少し明るくしてそういった。
「それはよかったな」
だから俺も少し明るめにそういった。
「ええ、でも、私は領主を許さない、だから、私は村を出て、領主に復讐するって決めたの」
まさか、俺と同じ目的だとは思わなかった。
「そっか、何かあるとは思っていたけど、まさか、同じ目的だったとはな」
「同じ?」
「ああ、俺にも、兄さんがいたんだよ。ミルファの姉さんが美人だったように、兄さんはめちゃくちゃかっこよかったんだ。村を1歩歩くたびに村中の女たちがため息を漏らして、剣を振る姿を見ただけで失神する人が続出、みんな慣れるまで大変だったんだよな」
俺はあの時の光景を思い出していた。
「そんなに!」
さすがのミルファも驚きを隠せないでいた。
「ああ、行っておくけど、まったく誇張はしていないぞ、誇張したって俺に特はないしな」
「まぁ、そう、そうよね」
それでもミルファにとって信じられないことのようだ。
「まぁ、それで、兄さんは剣の腕も確かでさ、たぶんこの国でも指折りの実力はあったらしい、兄さんの師匠だったブリックっていう剣士がそういってたそうだよ」
「えっ、ちょっと待って、今、なんていったの」
するとなぜかミルファが聞き返してきた。
「えっと、兄さんの実力はこの国でも指折りだったって」
「そうじゃなくて、そのお兄さんの師匠よ」
「ブリックのことか」
「そうよ、ブリック、それって、伝説の剣士のことじゃない」
「知っているのか」
「むしろ知らないほうがありえないわよ。私の先生が言っていたわ、ブリックはこの国では間違いなく最強、大陸、いえ、世界中においても指折り、おそらく上位に位置する実力の持ち主って話よ」
「そうなのか、すげぇな、俺の記憶にあるブリックは、好々爺然とした爺さんだったけどな」
俺は幼いころブリックに遊んでもらったことを思い出していた。
「ちょっと待って、そのブリックの弟子でその実力を認められたってことはあなたのお兄さんは相当な強さよね」
「ああ、だから、領主の私兵に呼ばれたんだ」
ミルファはそれを聞いて体をびくっとさせた。
「そう、私兵に……」
「俺たちもその時領主のことなんて知らなかったからな、みんなで喜んだよ」
「そう」
「でも、今から5年前、領主からとんでもない知らせを聞かされた……」
俺は兄さんに起きたこと、そして、俺の村に起きたことを話した。
「……反乱、もしかして、お兄さん、領主のことを知って……」
ミルファはそう言った。
「いや、それはないんだよ」
「どうして?」
「兄さん、腕は立ったけど、超絶的な平和主義者だからな。なにせ、昔村の近くでゴブリンが現れて、村でも討伐隊が組織されたんだ。もちろん兄さんもその1人として参加した。それで、ゴブリンと対峙したんだけど、兄さんはあろうことか剣を抜かずに説得を始めたそうだよ」
「……へっ、せ、説得?!」
ミルファは目を丸くして驚いていた。それはそうだろう、ゴブリンは確かに言葉を話す、でも、だからといって話が通じる相手ではからだ。
「ありえないだろ、兄さんによれば、どんな相手でも話し合いで解決できるってことらしい、まぁ、実際、兄さんの説得が聞いたのかゴブリンは村から離れていったらしいけど」
「……うそっ、それ、ほんとなの」
「ああ、ほんと、それだけじゃないぜ、私兵となってからも変わらないで、言葉を話さない獣系の魔物まで説得しようとしたらしい、仲間が必死に止めて、何とかやめたようだけど」
「そ、それ、すごいわね」
さすがのミルファもあきれを通り越したような少し疲れたような表情をした。
「だろ、そんな兄さんだから、もし領主の真実を知ったとしても、まず話し合いをしようとするだろうな」
「そうね、そうなるわね」
「だから、俺はまず兄さんに何が起きたのかを調べようと思うんだ」
「そっか、わかったわ。私も協力する」
「いいのか」
「うん、お姉ちゃんのことを話したのもポルクに協力してほしかったからだし、聞けばそっちの方が大変な目に会っているしね」
「そうか」
「さてと、それじゃ、そろそろ行きましょう」
そういってミルファは立ち上がった。
「だな」
俺も立ち上がろうとして固まった。
何せ、今俺たちは水浴びをしている。そして、いつの間にか向かい合うように座っており現在何も身に着けてはいない。
つまり、先に立ち上がったミルファの下半身が今もろに俺の目の前にあった。
そして、そのまま俺も立ち上がろうとしたわけで……
「えっ、えっと、着替え」
ミルファは一瞬俺の股間を見て顔を真っ赤にしてから、そう言ってそそくさと物陰に逃げて行った。
取り残された俺はどうしようかと思ったが、少ししてミルファの行った先に俺の服があることを思い出してゆっくりとその場所に向かった。
もちろん股間は手で押さえていたが……
俺がたどり着くとミルファはすでに完璧に服を着ていた。
早いな、と少し残念に思いながら見てみると、どうやら俺の服がまだ乾いていないらしくミルファが炎魔法で温めていた。
「ああ、ごめん、まだ乾いてなかった。ほかに着替えないの」
「それしか、ないんだよな。ああ、それじゃ、これも使うか」
そういって俺は服に向かって風魔法を当てた。
「ああ、そっか、2人の魔法を合わせれば早く乾くようにできるのね」
「だな」
それから、少しして服が乾いたので俺もようやく服を着ることができた。
「そんじゃ、行くか」
「ええ」
こうして、俺たちは2人揃って決意も新たに領主が住んでいる街、ムガリーグへと向かった。




