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真なる英雄  作者: 敦
13/13

第13話 最高にうれしい知らせ

 商人が集う街ヘグレス。この街は隣国ガブーラ公国との国境に一番近い街で、貿易の要衝となる街として多くの商人が店を構え栄えていた。

 そんな多くの店がある中で店主の妻イレーネがとても美しく、その笑顔がまるで女神のようだということでひときわ評判となった店があった。

 といってもそれは3年前までの話。


 3年前、その日イレーネはいつも通り店を開き、いつものように笑顔を振りまきながら接客していた。

 そんなとき店に夫トムの商人仲間の1人が店に飛び込んできた。

「トム、イレーネ、大変だ」

「なんだ、マイクどうした」

「何が、大変なの」

「ああ、実はこの前、イレーネの故郷によったんだが」

「ホシリス村に、みんな元気だった」

 イレーネは家族や村のみんな、特に弟のようにかわいがっていたポルクのことを思い出していた。

「い、いや、落ち着いて聞いてくれ……」

 マイクはなんとも歯切れの悪い言い方をした。

「どうしたの、何かあったの」

 さすがにイレーネも村に何かあったのかと感じた。

「ああ、村が……無くなっていた」

「……」

 その言葉を聞いてイレーネが笑顔のまま凍り付いた。

「どういうことだ」

 そんなイレーネの様子を見たトムがマイクに詰め寄った。

「俺にもよくはわからないんだ、ただ、村の中心に立て札が立っていた。傷み方からだいぶ時がたっているように見えたけど、何とか文字が読めて、そこには、エリックというものが反乱をたくらみ村はその仲間として軍が討伐したようだった」

「え、エリック、が、うそ、うそよ、そんなの、あの子がそんなこと」

 イレーネが見たこともないほどにうろたえながらそういった。

「お、落ち着け、マイクだってよくわからないんだろ」

「えっ、ああ」

 それでもイレーネはマイクの言うことが信じられなかった。

 何せ、イレーネの知るエリックは、そんな反乱なんてことはしない、そんな男だったからだ。

「そ、そんな、それじゃ、村は、みんなは、ポルク、ポルクはどうなったの」

「そのポルクはわからないけど、俺たちが行ったときには誰もいなくて、ただ、誰が作ったのかはわからないが粗末な作りの墓があった。多分通りすがりの誰かが作ったんだろう」

「そ、そんな……」

 そして、イレーネはその場で崩れ落ちて、それ以降寝込んでしまったのだ。


 それから3年イレーネはずっと、うわ言のようにポルクとエリックの名前を呼んでいた。

 もちろん両親の死や村のみんなの死はとても悲しかった。しかし、それよりもショックを受けたのが、自身が弟のように思いかわいがっていた、エリックとポルク兄弟の死だろう。

 なにせ、イレーネにとってエリックは隣に住む3つ年下の弟のような存在であり、剣の才能にあふれ、とても優しくおまけにかっこいい、油断すると恋をしてしまいそうになる男の子だった。

 それに対してポルクは、13離れていたこともあるし、何よりエリックとは違って油断しても恋をしてしまいそうにはならなかった、だから、本当に弟のようにかわいくて仕方なかった。

 その2人が死んだという知らせを受けても信じられなかった。

 だからこそ、イレーネは3年も寝込んでしまったのだった。

 しかし、イレーネ自身がそれではだめだと感じたのか、最近は何とか店には出るようになった。

 といっても以前のような女神の笑顔は失われていたし、話しかけても理解はしているのか反応はするが、言葉も発しなくなってしまった。

 おかげで、店は夫のトムと8歳になったばかりの娘アンナがきりもりをする状態となっていた。


 まさにそんなとき、ヘグレスに3人の屈強な男たちと2人の女がやってきた。

「隊長、ほんとにいるんですかね、そのイレーネって人」

「さぁな、ポルク……あっ、いや、御館様も5年前までのことだといっておられたからな。まぁ、地道に探すしかないだろう」

「地道ったって、ヘグレスにはどれだけ商店があると思っているんですか」

「まぁ、そういうなって、とりあえず宿を確保したら探すぞ」

「へい」

「了解」

「「了解しました」」

 ポルクの指示を受けてやってきたグノブたちはヘグレスでの人探しが始まった。


 宿をとり平服に着替えた5人は街の広場までやってきた。

「それじゃ、まずはナナとガイルは北、アメリとグインは南を回ってくれ、俺は中央を当たる。1時間後にまたここに集合だ」

「「「「「了解」」」」」

 それぞれが返事をして動き出した。


 北へ向かったナナとガイルは一軒一軒店に入りイレーネを探した。

「すみません、ここにイレーネって人はいません」

「イレーネ、いえ、いませんが」

「そう、ありがとう」

 ちなみに店員に聞いて回っているのはナナだ。

 ガイルが声をかけるとそのいかつい顔から引かれてしまうからだった。

「いねぇな」

「ええ、でもまだ、始めたばかりだし、頑張りましょう」

「へいへい」

 ナナとガイルはどちらが年上かわからないような感じだった。

 実際にはナナが年下なのだが……


 一方南に向かったグインとアメリも同じように一軒一軒探していた。

 こっちでは声をかけるのはグインだった。

「アメリ姉さん、ここもいないみたい」

「そう、それじゃ、次に行きましょう」

「ああ」

 実はこのアメリとグインは姉弟、そのためにどうしても弟のグインがアメリに従う羽目となっていた。


 そして、1人中央の商店を当たっているグノブも聞いて回っていた。

「ちょっとすまないが、このあたりにイレーネって女性がいるはずなんだが知らないか?」

「イレーネ、イレーネ、いや、知らないな、でも、なんかどっかで聞いたような気がするけどなぁ」

 5人の中では一番の収穫となった。


 1時間が立ちグノブたちもそれぞれ広場に集まっていた。

「どうだ」

 グノブは部下たちに尋ねた。

「いや、どこにも」

「知っている人すらいませんでした」

 それぞれガイルとアメリが答えた。

「そうか、こっちもほとんどなしだ、どこかで聞いたことがあるって証言だけだな」

「どこかって、どこです」

「それはわからないそうだ。多分人違いだろう」

「それで、隊長、この後も探しますかい」

「ああ、それしか方法はないからな」

 その後、5人は1日中探して回ったが、その日は見つからなかった。


 そして、次の日もまた同じようにしらみつぶし出探していったが、北に向かったナナとガイルの方で動きがあった。

「すみません、イレーネって人を知りませんか」

「イレーネ? ああ、もしかして、トムのとこのか」

「トムさん? 知っているんですか?」

 ナナは食い入るように尋ねた。

「あ、ああ、トムの嫁さんが確かイレーネって名前だったぜ」

「ほんとですか、そのトムさんのお店はどこにあるんですか?」

 ナナは必死だった。

 おかげで聞かれた方はかなり動揺していた、なにせ、目の前にナナの顔があったからだった。

「お、おう、通りに出て3軒隣の向かいだけど、今行っても無駄だぜ」

「? どういうことですか?」

 ナナの頭に最悪の言葉がよぎった。

「あの嫁さん3年前から全く表に出なくなったからな、もしかしたら死んだんじゃないかって噂が立ったくらいだ」

 それを聞いてナナは血の気が引いた。

「でも、最近ようやく店に出ているらしいけど、まったく笑わないんだよな」

 ナナはそれを聞いて少しホッとしていた。

 しかし同時に疑問が浮かんだ。

「笑わない、ですか」

「ああ、何かあったんだろうけど、そこまではわからないぜ」

「そうですか、とりあえず行ってみますね。ありがとうございます」

「おう」

 こうして、ナナとガイルはイレーネの情報を持ちグノブがいる広場まで戻った。


「……というわけで、おそらくその方が御館様の言っていたイレーネさんだと思われます」

「そうか、その3年前からっていうのは……」

「ああ、おそらくその時に、エリックさんや村のことを知ったのかもしれねぇってことですね」

「そうだろうな、なら、こいつがいい薬になるだろ」

 そういってグノブは大事そうに懐から封筒を出した。

「はい、そう思います」

「それじゃ、行くぞ」

「「「「「了解」」」」」


 グノブたちはトムの店の前までやってきた。

「ちょいと邪魔するよ」

 グノブはそう言って店の扉を開けた。

「いらっしゃいませ」

「いらっしゃい、どのような御用入りですか」

 グノブが入ると元気のいい女の子の声と店主トムらしい男の声が聞こえた。

「ああ、悪いが俺たちは客じゃなくてな、ハクミコ村のイレーネって人を探しているんだが、もしかして、そちらが……」

 グノブはカウンターの中に静かに座っている女性を指さした。

「えっ、あっ、はい、確かに妻はハクミコ村の出身ですが、一体、妻にどんな、妻は見ての通り少し心を痛めていまして、何もお話はできないかと」

「ああ、先ほど聞いた。3年前からだそうだな。おそらくエリックさんや村のことを聞いたからだと推測するが、どうかな」

「はい、その通りで、もしかしてお客さん方はエリックのことを、ご存じで……」

 トムがそう尋ねた。

「ああ、俺はグノブ、エリックさんと同じ兵士でムガリにいた。俺はエリックさんの後輩だった」

「そうでしたか。それで、妻を探しているということですが……」

 トムは奈良なぜ探しに来たといわんばかりだった。

「そう警戒するな、今日は、ある人からの手紙を届けに来たんだ。おそらく今の奥さんにはいい薬になる」

「手紙ですか?」

 グノブは懐から大事そうに封筒を取り出してイレーネの前に置いた。

「こいつは、あんたもよく知る人物からの物だ」

「えっ」

 トムは驚愕した、あの地にイレーネが知る人物はすべて領主により殺されたはずだからだった。

「差出人の名は、ポルク、そう、あんたのポルクからだよ」

「なっ!」

「!!」

 ポルクの名が出た瞬間イレーネの目に小さな光が宿り、ゆっくりと手紙を開けた。

 そして、その手紙を読み始めると目に涙をため始めた。


 その内容は

『イレーネ姉さん、久しぶり、ポルクだ。

ずっと連絡できなくてごめん、いろいろあってできなかったんだ。

姉さんは商人だからたぶんすでに知っていると思うけど、俺から知らせたくてまずそれをかくよ。もし知らないのなら覚悟して読んでほしい、間違いなく姉さんにはつらいことだから。一応2枚目に書く、めくる前に覚悟を決めてほしい』

 そこで1枚目が終わり、イレーネは、小さくポルクといいながら2枚面をめくった。

『5年前、突然、村に兄さんが反乱を企てたから処刑したって知らせが届いた。もちろん俺も父さんも母さんも村のみんなも誰1人信じなかった。当然だよね。兄さんが、あの兄さんがそんなことするわけがないから、でも、処刑された。だから、村で会議して村長が真実を確かめるために街に行くってことになったんだけど、知らせが届いた次の日、その日俺は兄さんのことは気になったけど、いつも通り、川に水を汲みに行って剣の訓練をして、昼寝をしていたら、村の方から何かが焦げたようなにおいがして目が覚めて、火事かと思って村に戻った。そしたら、家が壊されてて、いやな予感がした、盗賊が来たのかと思った。だから、警戒しながら村の中を歩いて、気が付いた。地面に血だらけになって倒れているみんながいた。家に行ったら、父さんと母さんも、1人残らず、みんな殺されていた。子供も大人も、年寄りも、みんなだった』

 イレーネはそこまで読んであふれる涙が止まらなかった。

 村が滅んでいることはイレーネも聞いていた。しかし、それはあくまで事件があってからしばらくたってからのこと、ポルクが書いたことはまさに事件直後のことでポルクという村人の見たものだったからだ。

 イレーネは手紙からポルクが見た光景を想像して、吐きそうになり口元を抑えた。

「お母さん、どうしたの」

 そんな母の様子に心配になったアンナは声をかけたが、イレーネは手紙の続きを読んだ。

『しばらく、俺も茫然としていた。でも、腹の虫が鳴って、このままじゃいけないって思った。それで、みんなの墓を作ろうと思ったんだ。そしたら、村の中央に立て札が立ってた。そこには、兄さんの反乱の仲間だということで討伐したって、村を襲ったのは、盗賊じゃなかった、国の軍、第15歩兵小隊、隊長名はガブリエ。そう書かれていた。

 そのあとはみんなの墓を作って近くの洞くつ、ほら、覚えている、昔兄さんとイレーネ姉さんと俺で遊んだあの洞窟、あそこで5年、領主とガブリエに復讐するためにひたすらに剣を振り続けていた』

「……ガブリエ」

 イレーネはその仇の名前を心に刻み込んだ。

『それで、ついこの前、洞くつを出てマグリーグに向かったんだ。その途中で、領主に同じように恨みを持つミルファって同い年の女の子と出会って、その子と一緒についに領主ダルモアを倒したんだ。兄さんの仇をとったよ』

 イレーネはそこまで読んで少し複雑だった。エリックの仇をとったのはうれしい、でもそのためにポルクにそんなことをさせたのが心苦しかった。

『そしたらさ、仇をとる手伝いをしてくれたギウスっていう兄さんの親友だった人からこの地の新しい領主になってほしいって頼まれて、ミルファも賛成してくれて、だから、俺、この地の領主になったんだ。あと、なぜかミルファと結婚することになった』

 イレーネはここまで読んで少しホッとした。ポルクが少し明るくなったような気がしたからだ。

『それで、今回手紙を書いたのはこのことを報告したからというのもあるけど、頼みたいこともあるんだ』

 イレーネはそこまで読んでどんな頼みでも受けると決意して続きを読んだ。

『ギウスが領地を運営するにあたって、どうしても数字に強くて信頼できる人が必要だっていうんだ。ギウスの知り合いにもいないし、ミルファの知り合いにもいない、そこで、イレーネ姉さんなら商人だから数字に強いし、何よりも信頼できる。だから、イレーネ姉さんに頼みたいことっていうのは、領地運営を手伝てほしい。もし、来てくれるなら、この手紙をもって来たグノブが護衛をしてくれるよ。グノブは強いから頼りになると思う。あと、兄さんの後輩らしいから兄さんのこともよく知っているから、兵士だったころの兄さんのことを聞けると思うよ。

 それじゃ、待っている。ポルク』

 以上が手紙のすべてだった。

 手紙を読み終えたイレーネはその手紙を胸に抱きしめてからこういった。

「……あなた」

 トムは驚いた、3年前から呼ばれなかったからだ。

「お、おう、どうした」

「準備をしてちょうだい」

「準備? なんのだ」

 イレーネは顔をトムに向けて以前のように元気よく言った。

「当然、店を閉めて、ポルクのところに行く準備よ」

 そこには今までの臥せっていたイレーネはどこにもいなかった。

「お母さん元気になった」

 アンナは母の元気が戻って喜んだ。

 しかし、トムは喜んでばかりではいられない。

「ちょ、どういうことだ、イレーネ、突然戻ったと思ったら、何を言い出すんだ」

 トムとしてはやっとの思いで開いた店だった。

「決まっているでしょう、ポルクが、ポルクが待っているのよ、行かなきゃ、私はお姉ちゃんなんだから」

 トムにはよくはわからなかったがこれは何を言っても無駄だということだけはわかった。

「ったく、仕方ない、わかったよ」

「お母さん?」

 アンナはイレーネの足に手を当てて尋ねた。

「アンナ、ごめんね、3年間もかまってあげられなくて」

「ううん、お母さん元気になったの」

「ええ、そうよ、元気になったわ、心配かけてごめんね」

 こうして、アンナは久しぶりに母に甘えることができたのだった。

「えっと、グノブさん」

 イレーネは、今度は手紙を持ってきたグノブに言った。

「なんだ」

「ポルクの手紙を届けてくれてありがとうございます。また、これからポルクのところまで護衛をしてくれるそうで、お願いします」

「ああ、任せてくれ、ポルク、あっ、いや、御館様とエリックさんの大事な人だからなず無事に送り届けよう」

「ありがとうございます」

 その後数日後店を閉めたイレーネたちはすぐさまポルクの待つムガリーグに旅立ったのだった。

 大変申し訳ありませんが本話をもって、この「真なる英雄」を打ち切りとさせていただきます。

 理由は、これ以上面白い展開の話を書ける気がしなくなったからです。

 少ないながらこれまで読んでくださった方、ありがとうございました。

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