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殺戮ボーイと悟り系ガール  作者: Dora=ドラ=どーら
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"幸運な私"





――――――――――――――――――――――――――金属音。



頭の上まで持ち上げた包丁を、男は落とす。

その代わりとでも言うかのように、男の胸から、刃物が生えていた。

吹き出た血が、たっぷりと、私にかかる。




静寂を、男のくぐもった悲鳴が破るが、それはわずかな間でしかなかった。

やがて悲鳴が聞こえなくなると同時に、男の胸部から生えている刃物が、ゆっくりと後ろから抜かれた。

支えがなくなり、男の体は倒れる。










―――――その代わりに現れたのは、黒いパーカーを着た男だった。

右手には今使ったであろう、刃物を持っている。

刃渡りは脇差ほどであろうか?それにしては反りがないが。

眼鏡をかけていて、黒髪。

それ以上はフードでよく見えないが、なんとなくの輪郭は分かる。

多分、成年してない。





まあ、そんなことはどうでもいい。本当に、どうでもいいのだ。



結論から言えば、私は死にぞこなった。

これが幸運か不運かと問われれば、間違いなく不運だろう。


一体誰が、殺人鬼に殺されると思ったら殺人鬼が他の奴に殺される状況を想定できるだろうか?

しかもこの男、もとい青年は、きっと殺し慣れている。

ためらいも、殺した後の感嘆の息すらないのだから。



でも、好都合だ。

私は、今、こいつをはっきりと認識した。人相を見た。服装を見て、身長もだいたいわかるだろう。

大抵の人はこんな状況じゃ正確に把握できないかもしれないが、"私には"できる。


だからこそ、きっと、彼は私を殺す。

彼がここ3か月、古厨市で殺人を起こした殺人鬼なのか、或いは彼が今殺した奴こそが殺人鬼なのか、そんなことはわからない。

今最も大切なのは、こいつが常習犯で、私は重要な証拠を持っていて、


そして、彼が私を殺してくれることなのだ。


どうすれば、彼は私を殺してくれるだろうか?

彼に殺意はある。これは確定だ。

でも、足りない。もしかしたら中途半端にいたぶられるかもしれない。それは御免だ。

彼の殺意を、少しでも煽らねば。



「いっ....や、やめて...」



"女の子らしい動作"。"可愛そうな私"。

インストールは完璧だ。

その成果もあってか、彼は私に刃物を向ける。

目が、殺意を含んで、私を見つめる。

そこに、ダメ押しを掛ける。



「ああっ...ああっ...」



"うろたえる私"。"何かに偶然気づいたようにポケットを探る"。

私は、ポケットからスマートフォンを探し出す。

そして(喜びに)震える手で、ホーム画面を出し、電話を―――――――



「やめろ。」



彼が、私に近づき、私のスマートフォンを強引にひったくる。

その声はやはり若々しい。いやまぁ、自分も若いと言えば若いのだが。

そんな心の声と、待ちきれない死に対する期待を隠しつつ、私は彼に抵抗するふりをする。



「かっ、返して!返してよっ」



"取られたスマホを必死に取り返す"。"焦る。焦る。焦る。"。

しかし、彼はそれにさして反応せず。ただスマホを取られないようにするだけだ。

―――押しが足りないだろうか?

困った。私としては、殺人鬼というのは殺しまくりたくて殺しているのかと思っていたが、案外そうでないのかもしれない。

確かに古厨市の殺人鬼は5人しか殺さない。でも私は、それは"努力して"5人殺しているのかと思っていたのだが。


―――仕返しが怖いが、こうするしかあるまい。



「返してって....言ってるでしょっ」



"女性特有のヒステリックで"。"弱弱しく"。

私は、彼を軽く殴る。


彼の眼鏡が、血だまりに飛んでいった。




彼は、怒る。

男というのは、どうにも女に対して優位でないと気が済まない習性がある。

だからこそ、その女が反抗してきたことに対してある程度のいら立ちを抱き、

そして、先ほど1人殺したことによる過剰なアドレナリンの分泌で、もう一度殺すことなど、どうでもよくなるはずだ。


殺人など、所詮は衝動的な、原始的な行動だ。

例え理性的だと自称する人間だって、所詮は猿の延長である以上、これは必然である。

なのだから、こんな野蛮な生き物など、煽れば簡単に釣れる。






立膝になって、いまだスマホを取り返そうとする私。


そんな"必死な"私の、その首を、彼は力強く掴み、

そして、血だまりの地面へと押し付ける。



――――――――――ごんっ、という衝撃が、頭に響く。


いや、そんなことは、どうでもいい。






結果として、私は彼を釣ることができたのだから。


嗚呼、やはり人間は単純だ。猿の延長だ。所詮は生き物の範疇だ。

やはり、私は間違ってなかった。

やはり、私は分かっていた。

そしてやはり、誰もわかってはいなかったのだ。



誰も、本当のことを、知らない。

こんなくだらない世界にいてたまるか。

こんな醜い世界にいてたまるか。

こんなどうでもいい、灰色の世界にいてたまるか。





彼は、私の首を左手でつかんだまま、右手のそれの刃先を、私に向ける。


震える。


ああ、ダメだ私。最後まで油断してはならない。

"なんで"私だけ"が"こんな目に?"。"私は何も悪くない"。




首を力強く抑えられているからか、声が満足に出せない。

それでも私は"必死に"声を上げようと、音にならない声を出す。



そんな私を見ても、彼が私を見る目は変わらない。






―――――――――ああ、ついに


震える



彼が、刃物を振り上げる。


震える


そして


震える


振りかざし、


震える


私は、


震える


目を、


震える


閉じ――――――――












私は、何に震えているの?

私は私に問いかける。



答えは簡単だ。

歓k―――――――

























「やっぱり、無理だ。」


――は?


「お前、運がよかったな。」


――運が、よかった?


「今日は、もう5人殺しちまったんだ。」


――は?

それが、どうしたというのだろうか。

私は、お前を見ているんだぞ?

3か月続いているにも関わらず、いまだに解決しそうにないこの事件の、重要な証拠を、つかんでいるのだぞ?


わからない。わからない。

彼の動機が

彼の心が

分からない。



彼は、ゆっくりと、立ち上がり、眼鏡を拾う。



「それじゃあ、おやすみなさい。」



血だまりに浸かっている私を見て、彼はそう言った。










―――――作戦変更だ。


一瞬、本当に一瞬ではあるが、彼の顔が、少しだけはっきりと見える。

どうやら、本当に、私は運がよかったらしい。


彼の顔を脳裏に焼き付け、

自分の知ってる学校のすべての人間と、照合してゆく。




―――――嗚呼、あゝ、ああ、


私は幸運だ。

まだ、私は、殺されるチャンスがある。

まだあきらめてたまるものか。

未だ私は、絶好の機会の真っただ中にいるのだ。



「古宮...祐大、ね。」


その名前を、恨めし気に、しかし惚れ惚れしく、私はつぶやいた。

ああ、私は幸運だ。

次回からは学校です。

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