初日終了
第十話 異世界初日
第十一話 時間をかけてゆっくりと
そんなこんなで、異世界初日は終わった。
そして、しょっぱなから犯罪行為に及んだというか、快挙も成し遂げてしまった。
とはいえ、その甲斐はあったのかもしれない。
少なくとも事態は好転していると見ていいとは思う。
何しろ転生者って、いう事を信じてくれそうな人に逢える手立ては見つかった。
とはいえ、これからどうしたらいいのかわからない。
頼れる人は居ない、指図する人も居ない、指導者も居ない、俺一人だけだ。
でも、転生した方が良かったのかもしれない。
前の世界じゃなくてこの世界で…。
考えてみればすぐにわかる、もし俺があの事故、つまりこの世界に転移することになったきっかけが無かったら俺は、あのまま一生を生きていたいたのかもしれない。
何処にも逃げ場は無く、ただ真っ直ぐ一本道を通ることを良しとし、結局捨てられる。
ただ、自分がしたいことも分からず、名誉もなく、夢も無い、そんな潰れている世界だった。
ただ、救って欲しかった。助けて欲しかった。笑っていたかった。
あんな世界に産まれたくなかった。
「…もう一回か。」
一人呟いた、空には星々が輝いていた。今日は、新月なのか、はたまた月が存在しないのか。暗い夜だった。
そして、大きなため息をつき、俺はテントの中に入った。
「…思ってたのとは違うな、まあ、仕方がないのかもしれないけど。」
テントと言うには、粗末というかアウトドア用品のようなものではなく、蚊帳みたいなものだった。
しかし、むき出しの地面に寝っ転がるのではなく、ベンチのようなベッドに布団が置いてあるそういうというか、災害現場の映像で見たことがある応急処置室のようなものだった。
けど、これがスタンダードなのかイリスは二つあるベッドの一つにすでに寝ていた。
しかし、雨風はしのぐことができそうだし、取り扱いが楽というか、俺一人でも出来そうな感じだった。
また、意外にも中は暖かく眠気が差してきた。
「…う~ん、今日は色々あったしな。もう寝ようか。」
そうして、異世界初日を俺は無事に終えることができた。
そして、その夜。
「…ここは。」
その夜、不思議な夢を見た。奇しくもその光景は何処かで見たいや、憶えている。
俺が彼女を救った、もとい誰かを殺した場所だった。
そう、俺が最初に訪れた町の広場だった。
するとそこには、トールが立っていた。
「やあ、どうかなこの世界は?」
「ええ、まあ…。その、これは夢ですか?」
「ああ、そうともいえるしそうではない。言わばチュートリアルの最後だ。」
「なっ、何を言っているんですか?」
「ああ、そうだ。ここから、いやあとは君次第だ。引き続きアイテム配布は行うけどね。」
そう、トールは言った。
「それで、何で俺を呼んだんだ?」
「まあ、聞いてくれ。君は今日何かおかしなことが起きていた事に気が付いたかい?この世界じゃない、君自身にだ。」
変わったことなんてないはずだ…いや、まさか。
待てよ、そういえば…。
「ナイフを使えたというか、身体能力が…。」
「惜しいね、実は君の体に武器術及び魔法、言語をインプットさせた。そして、道具を使うことでインストールできる。つまり、まだ君は一パーセントすらもインストールを終えていないんだ。発現したのは、言語と少しの戦闘技術、もとい工作技術だけだ。そして、今この場を持って全てのインストールを終了させる。」
「それって…。」
「ああ、鍛錬だよ!行くぞ!」
「なっ…。」
目の前に、突如剣が現れた。そして、こちらの手にも現れた。すかさず右手で握り打ち返す。
…それから何時間経ったのだろうか。
武器を持ち替えながら、あるいは素手で体を斬り、縫合し、言葉を唱え、身体に注射をした。
不思議と辛くはあるが身体と心だけは無傷だった。
そして、感慨深げにトールはこちらを見つめた。
正しくは、その様なしぐさを見せた。
相変わらずビリビリと電流をまき散らしている。
「終わったよ、7563時間良く耐えた。本当に、日本人は勤勉らしいね。」
「…そんなに、時間が経ったのか?」
「いや、あくまでも主観だよ。実際には一秒すら経っていない。」
「…ストレージを使っているのと同じなのか?」
「ああ、本来君はこの世界に存在しない異物だ。そのため、時間など君の体に影響しないと言った事象が発生しているんだよ。つまり、客観的な不老の不死とも言える。
とはいえ、時間は流れるからこの世界に同期させ続けるには君に影響を与え続けなければならない。」
「…よくわからないな。そこら辺のことは。」
「まあ、いいよ。これが本当に最後。もう会うことはない。」
「ああ、わかった。」
「最後に、君には何かしたいことはあるのか?」
「したい事か…あるのかもな。」
「そっか、それじゃあさようなら。」
そして、彼は消えた。
辺りをとりあえず見渡してみた。
紛れもなく、あの場所だった。
「つまり、ここがスタート地点か。」
そして、俺は目が覚めた。