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雨音とプロポーズ

作者: 餅道蘭子

その言葉しか聞こえなかった。「結婚しようよ、すぐに」次に、雨音と人々が行き交う騒音。私は傘を持つ力すら無くした。「何それ?」と、笑いながら言う。「プロポーズだよ」と、彼は言った。雨に打たれているのも忘れたまま、少しの間立っていた。交差点の中、赤信号になっても危ないまま二人で居た。クラクションの音が三回聞こえたとき、ようやく私は傘を拾い上げて、彼と二人で向こう側まで走ったのだった。


受験戦争に勝ち抜いて、私は志望校に入学した。大学デビューの為、眼鏡をコンタクトに変えて、髪を派手に染めた。服装も変えた。多少似合わなさはあったが、理想の自分になるため、努力した。大学生になって楽しみにしていたのは、サークル活動だった。私は元々将棋に興味があり、大学生になってから本格的に始めるつもりでいた。その将棋サークルに見学に行ってみると、男の人ばかりだった。驚いた!でも、私の入った学部も理系で、男の人だらけだったからか、すぐに慣れた。その男の人の中に、彼がいた。特別背が高いわけでもなく、かっこいいわけでもなく、優しいわけでもなかった。第一印象は最悪だった。


初めて将棋の相手をしてもらったのが彼だった。第一声は、「なにその髪?」だった。金髪の髪を見て言ったのだった。「えっ、染めたんです」私は、驚いて目を丸くした。彼は口を押さえて、「すまん、似合わなすぎて」と言った。そして、苦笑いした。「そんなハッキリ言わないで下さい!」私は少しだけムカついて、彼を睨んだ。彼はニッコリ笑って、怖いなあ、と言った。そのヘラヘラした感じが、初めは大嫌いだった。だけど、話しているうちに惹かれるものがあった。説明して、と言われたら出来ないけれど、彼にはそんな魅力があった。彼には、私から告白した。生まれて初めて告白した。「ほんとの話か?」まず、彼はこう言った。私は頷いて、ほんとです、と一言言った。彼は私の頭をポンポンと叩いて、そっかそっか、と呟いた。「じゃあデートしようよ。色んなとこ遊びに行こう?」フラレるよりは断然マシだった。私はにっこり頷いて、短く返事したのだった。そのままの関係が5年近く続いていた。本当は付き合いたかった。いつか終わるような中途半端な関係は嫌だった。彼は優しすぎるから、私を傷つけないために付き合わないのだ、と少しだけ考えた。そのまま大学を卒業して、就職して平凡な日々だった。彼とは1ヶ月に一、二度会った。ディナーを食べながら他愛ない話だけして別れる日もあったし、ホテルに行く日もあったし、遊園地や動物園に行く日もあった。本当に、色んなところに遊びにいった。初めて二人で旅行をして、オーストラリアの星空を見たとき、この人と結婚したい、と密かに思った。このまま幸せになりたい、と切に願った。


コンビニエンスストアで少しだけ雨宿りした。少しの沈黙の後、彼はズボンのポッケから指輪一つを手に取った。「指輪だけ!?」驚いた私は、思わず声に出してしまった。彼は口を開けて大きく笑った。私の手を取ってゆっくりと嵌めていった。第2間接のところで止まった。あれ?あれ?と言いながら彼は押し込んだ。おかしくなって、笑うと、彼もまた笑った。「あたし、痩せるね?」「そうして」二人でクスクスと笑う。次の瞬間、そっと不安が過った。「ねえ。こんなあたしでいいの?背も高いし、気の強い女よ」「そこがいいんだよ」「あたし、絶対あなたを幸せにするわ」私は彼に飛び付いた。彼はそっと手を回して、それはおれのセリフだよ、と笑った。「幸せにして」手を離して、口付けした。

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